魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第5話 怪現象だ 3

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 考えてみれば昨日だけで50軒は建てたんだ。必然的に離れた所に建築することになるだろうし、その材料集めだって、この辺り一帯の資材を取り尽くして遠方に足を運ぶことになっているだろう。

「そうか、なら俺も早く手伝いに行かないとな」
「いえ、それには及びません。既に復興は済んでおります」
「……はい?」

 昨日の今日でもう直しちゃったというのか。建物だけならそうだろうさ。でも、夜道を照らす光や生活用水を通すための水道や灯りの確保、食料供給方法の検討などやる事は山ほどあるはず。
 でも、ウロボロスはニコニコとほほ笑んでいるだけ。まさかなと思いながら恐る恐る窓の外を見てみると、寝る前までは無かった街頭が並んでいるのがまず見えた。その下には公園らしきスペースもあって、設置された水道からバケツに水をくんでいる子どもが見えた。その子を目で追うと、近くにあった畑に水をまき始める。何となくちぐはぐに見えるが、とにかく、生きていくために必要そうな要素は揃ってしまったようだ。

「アザレアのゴーレムが夜間も作業を続けたようです。私が休ませて頂く頃にはほぼ完成しておりましたよ」
「……凄いな、お前たち」
「お褒め頂き光栄です。アザレアも喜ぶでしょう」

 自慢の配下たちではるが、こう何度も度肝を抜かれるとは。こりゃ、何事にもおおらかな気持ちで臨むようにしなくちゃ身がもちそうにないな。
それは良いとして、今後どうしたものか。もっと復興に時間がかかると思っていただけに何の段取りも立てていない。ひとまずアデルと会ってこの村の居心地を聞きながら適宜修正しつつ、この世界に関する情報収集をしようかな。
 そんな風に考えながらサンドイッチを口に入れた時だった。突然目の前にウィンドウが現れて、昨日襲っていた兵士と似た格好の者を映し出す。

「あぁ、これはファントム・シーカーからの映像か」

 ドミニオンズで慣れているはずだったのに、いざ目の前に出てくると意外と違和感があるものだな。それはそうと、これは村消失点へ監視に出していたファントム・シーカーからの通信だ。人間を捉えたら自動で映像を送るよう設定している。監視カメラみたいなものだ。そいつらが感知した以上、余り悠長に構えてはいられない。

「もう獲物がかかったのか、早いな」

 小さいとはいえ村ひとつを消失させたのだ。いずれは偵察兵が来て当然ではあるのだが、昨日の今日である。首都にある本部に情報が伝わって、そこから様子を見に来たとは考えにくい。たまたま別動隊がいたと考えられる。

「我が君、如何かなさいましたか?」
「あぁ……もう偵察兵が来た」
「たまたま範囲外に他の隊がいたのか、もしくはこうなると予想して離れた所に後詰めの部隊を配置していたのか」

 あのエグゾダスの効果範囲は半径数十キロにも及ぶ。連携している部隊があるのなら一緒に壊滅しているはず。でもそう思わせておいて、実際には遠くに一部隊を隔離しておいた可能性は確かにある。
 だが、果たしてそんなことがあるだろうか。俺がこの世界で目を覚まし、あの村に足を運んだのはまったくの偶然だ。未来予知でもしない限り後詰めの部隊なんて置く必要はないし、そもそも予知できていたのなら壊滅すること自体があり得ない。自然に考えるなら別動隊がいたことになるだろう。
 ただ、あいつらの目的がわからない。これ以上は妄想の域になってしまう。もっともここまでの話の前提条件として、エグゾダスから逃れた、もしくは生き延びた奴らがいない場合に限る。高位の魔法対策をしておけば一撃死を免れるのは難しくないからな。この世界に何が潜んでいるのかわからない以上、その点についても警戒しておかなければ。

「いずれにしても放置はできない。すぐに出るぞ。念のためカルマとフェンリスも連れて行く」

 そう、警戒はする。でも折角網に引っかかってくれた獲物を見す見す逃がすなどあってはならない。必ず捕まえて目的とリリスに関する情報を吐かせたい。

「畏まりました。すぐに準備させます」

 さて、今度の敵はどの程度か。エグゾダスから逃れたかもしれない相手だ。これまでの情報、つまりヴェルのような雑魚ばかりではない可能性も十分に考慮して、過小評価しないように心がけ――

「――る必要なんてなかったね、うん」

 現地まで出向いてステータスチェックをしてみたら、ゴブリン以下の戦力しかいなかった件について。本人の能力は勿論のこと、一丁前に剣や盾を装備しているが、その装備すら貧弱だった。これが巧妙な罠だったら敵は天才だと思う。

「見てくれは兵士のナリじゃが、あれではコスプレじゃのう。恐れるに足らんわ」
「しかし敵は敵です。ここで片付けてしまいましょう」
「戦うんですか? 私がやりたいです!」

 カルマは少し呆れ気味、それをウロボロスが咎めて気を引き締めさせたところに、フェンリスが楽しそうに名乗りを上げるという、完全に舐め切った状態であった。無理もない。一度ならず二度までも敵が雑魚ばかりでは、いよいよ俺たちはこの世界で敵なしと言えるようになるからだ。それは喜ばしいことだが、まだ囮である可能性が全く無くなった訳ではない。石橋を叩くつもりで慎重に進めるべきだろう。

「ウロボロスの言う通り、非戦闘員レベルだけど無視はできない。最悪のケースを想定して有効活用させて貰おう」
「……戦わないんですか、魔王様?」

 フェンリスが見るからに落胆してしまう。これは心にドスンとくるな。フェンリスはとても可愛い女の子だ。ガックリと肩を落とされると罪悪感が凄くて、逆にこっちが絶望的な気持ちになってしまう。

「あれは撒き餌だ。あいつらはきっと本隊に戻るから」
「そこで戦っていいんですか!?」
「え……あ、うん。必要だったらな」

 あてがある訳でもないのに思わずそう言ってしまう。すると犬がはしゃぐように金色の尻尾をブンブン振って俺の腕を取ってくる。うん、この方がフェンリスらしくて好きだ。頭をなでると嬉しそうな声を上げてくれた。

「えへへ、魔王様ー!」

 あぁ、もう。フェンリスは可愛いなぁ。このままずっと頭をなでてあげたい。でも残念ながらそんな余裕もないか。このままでは偵察兵に逃げられてしまうし、何より、他でもない俺が危険な目に遭ってしまうだろうから。
 ほら、隣を見てみて。烈火の如く怒りを露わにしているウロボロスさんが強く拳を握り締めているからさ。

「おのれ……フェンリス…っ! 我が君の寵愛を受けるなんて!」
「さ、さぁさぁ、早く行かないと日が暮れちゃうぞっと」
「話を反らさないでください、我が君! これは大変に重大な問題です!」

 耳元でやいやいとされる抗議を頑張って無視すると、体を密着させてくるという報復をされる。それに何とか耐えながら奴らの後を追って、道なき道を進むこと約2時間。カルマのまたがるケルベロスが3頭揃ってあくびをしたところで、偵察兵たちの足がようやく止まる。
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