魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第5話 怪現象だ 8

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 言葉通りに聞くのなら、あろうことか敵の、しかも恐らく最恐最悪の魔王である俺を称賛するらしい。なぜだ。こんな状態で歓迎できるなんて、どう頑張って好意的に捉えても無理だろうに。

「やはり素直には受け取ってくれぬか。だが、それでも送らせて欲しい。君は素晴らしいのだから」

 戸惑っていると繰り返されてしまった。今まで生きてきて、称賛というものは基本的にされると嬉しいはずのものだった。でも今回ばかりは正反対。こんなにも不気味な称賛があるのだと初めて知ったよ。だからといって気味悪がっていては話が前に進まない。わざわざ称賛と言ったその理由、しっかりと聞かせて貰おうじゃないか。

「……何を言いたい?」
「言葉通りの意味だ。我々の精鋭部隊は一瞬の内に壊滅してしまった。あんなにも圧倒的な差を見せ付けられて、怒りや悲しみを通り越し、ただただ畏怖の念を持ってしまうのだよ」

 それでは正真正銘の称賛ではなかろうか。いや、いやいや、俺たちは初対面だぞ。それも、敵として初めましてをした仲だぞ。それがどうしてポジティブな発想になる。恐怖や怒りからくる報復ではなく、どうして称賛になるんだ。まさか、この世界の称賛という単語にはそういう意味が込められているんじゃないだろうな。わからん。こんなにも辞書が欲しいと思ったのは受験の時以来だ。

「……つまり、負けを認めるということだな?」

 ただ、ひとつだけ言えることがある。称賛にどんな意味が込められていようとも、畏怖の念を持った結果生じた感想ならば、それはつまり負けを認めることに他ならない。回り道をさせられたが、結局のところ、最初の質問に対する返事はイエスだったということか。
 そう結論を出して聞いたのだが、なぜかロアは首を横に振る。

「いいや、断じて否だ。なぜなら私はまだ生きている。こちらが望むのは対話だ。君も同様ではないか?」

 なるほど、向こうも話し合いが目的でわざわざあんな言い回しをしたのか。確かに興味を引かれてしまった。必要な情報を貰ったらさようなら、とはいかない気持ちになっている。
 やるな、この男。素顔は兜で見えないものの、きっと相当な修羅場を越えて来たのだろう。話術に優れた人と話し合いなんてして長引こうものなら、どうあっても俺が不利になるに違いない。違いないが、だからといって急ぐ気にはもうなれそうにない。駄目だ、駄目。せめて相手のペースに乗らないようにしなければ。

「まぁ、そういうことでいいさ。それで、辛うじて繋ぎ止めた命をもって、何を聞く?」

 完全に誘導されてしまった形であるが、せめてもの抵抗で高圧的に聞いてみる。もっとも、有効なのは周りの騎士たちだけだ。この一言で肩をビクリと跳ね上げる者が多数いたが、肝心のロアは全く無反応で、淡々と問いかけてくる。

「逆に、それは君たちの願望ではないかな?」

 しかも俺から引き出すような質問であった。確かに、俺はこいつに聞きたいことがある。まさに俺の願望という訳だ。えぇい、もう誘導されたからどうとか、言わされたからどうとか、深く考えるのは無しだ。初心に返ろう。俺はこいつらから情報を引き出したかった。それ以上でも、それ以下でもない。それさえ済めばこいつらを始末してしまってもいいとすら考えていたくらいなのだ。どうして悩む必要がある。どうして悔しがる必要がある。忘れるな。優位なのはあくまでもこちらだ。俺の聞きたいことに答えてくれればそれで良いじゃないか。

「率直に聞く。なぜあの村を襲った? いや、そんな生易しい話じゃないな。どうして虐殺なんてした?」
「あそこには悪魔がいるだろう?」

 唐突な単語が飛び出したな。悪魔か。文字通りの凶悪な奴がいるのか、それともデビル系統のモンスターが巣食っていたのか。そのどちらも考えにくいけどな、あんなにも一方的な惨劇を見せ付けられては。むしろそれはお前たちではないか、と言い欠けて、そんな不毛な言い合いは無意味だとやめておく。知りたいことを聞き出すのに集中しろ、俺。

「悪魔……なるほど、全く理解できないな。それよりも、こちらが聞きたいのはあの虐殺の目的だ。正統性があるなら言ってみろ」
「あると言えばある、無いと言えばない」

 曖昧な答えだな。こちらが強引に聞き出したのならふざけた返答もあるだろう。でも、今回はロアの方からも話し合いを求めてきているはずだ。しかも周りの騎士を見れば、猿でもどちらが不利なのかわかるはず。なぜ、こちらの神経を逆なでしかねない言い方をするんだ。馬鹿なのか。いや、こちらを惑わすことが狙いかもしれない。冷静にならなければ。

「そう考える根拠を教えてくれないか?」
「いいだろう。かつて起きた災厄……その根源があの村にあるのだ。一方で、それ自体の解決策にもなりうる可能性もある。ただし、それはこちらの仮説が正しい場合に限った話だが、我々はそう確信している」

 初めて聞くな。災厄か。
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