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第1章 偽りの騎士
第5話 怪現象だ 9
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詳しい説明が無いということは、ひょっとして、この世界の住人なら誰もが知っているレベルの話なのだろうか。でも生憎と俺は知らない。チラリと横を見るが、ウロボロスも知っている風ではない。このまま話を進めれば何も見えなくなってしまうだろう。ならばここで聞いてしまってもいいが、要らない隙は隠した方が無難か。とりあえず、ここは確実に突ける不審な点から。
「……つまるところ確証も無いままにやった、そういうことだろう?」
奴の言葉は明らかに不自然だった。妙な言い回しをしてくれたが、要約すれば確信しているだけではないか。どれ程のものか知らないが、ここで証拠を見せないのであれば、きっと憶測の延長線上でしかないだろう。むしろ解決策になりうるのであれば、そもそも滅ぼしにかかるのはちゃんちゃらおかしい。
「証拠が全く無い訳ではないのだ。詳しくは機密事項故に語れぬが、そもそも考えてみて欲しい。あの村を狙うメリットが果たしてあるだろうか?」
まぁ、その原因や解決策とやらを抜きに考えてみれば、あんな小さな村を襲撃する目的なんて普通は無さそうである。それにここは聖リリス帝国の領土なのだ。極めて重大な理由が無くては、自国の村を滅ぼすなんて常識では考えられない。だからこそ何らかの重大な目的があるはずだと言いたいのだろう。
「それを知るために話をしていると思っていたんだがな」
そこまでは察してもいい。だが、その内容まで推測してやる義理はない。俺が想像して、それを確認するために聞いてしまえば、嘘でも肯定されて要らない誘導をされかねない。こんな見え透いた罠に引っかかってたまるか。
ただ懸念点がひとつあるとすれば、災厄の程度によっては、俺たちが無知だと言ってしまったことになる。もしもあの村にある何かを破壊しなければ明日にでも世界が滅亡するのだとしたら、もう言い逃れできない。
待てよ、俺は止めたじゃないか、こいつらの聖戦とやらを。ならばもう無知だと公言したも同然だろうか。だが、それはあくまでも最悪の場合を想定した話。齟齬を無くすため慎重になっている風に装えれば当然の要求になりうるか。
「ふふ、そうであったな。失礼した」
ロアは少しばかり笑った後、間を置いてきた。あの兜の下は見えないが、熟考しているような感じはする。
何を考える必要がある。ここまできたんだ。もう素直に腹の内を聞かせてくれてもいいんじゃないのか。まさか、まだ何か仕かけてくるつもりか。
「多数の兵を動かせば兵糧を食い潰す。本国の守りも薄くなる。そこまでして攻め入るのは我ら騎士が守るべき、国を支える大切な民の暮らす村だ。こちらにはメリットが皆無なのだよ。特別な理由が無ければ、な」
「その特別な理由ってのが、例の災厄に関する事って訳か。あの小さな村に、か。随分と非現実的じゃないか?」
こうなったらと、こちらから仕かけてみる。この言い方で察してくれるだろう、俺たちが災厄とやらを知らないのだと。このまま堂々巡りにされるくらいならいっそ露見させて話を進めてしまってもいい。要らぬ嘘を掴まされる恐れはあるものの、後で裏付けをきちんと取れば問題ない。
「確かに、荒唐無稽に聞こえても仕方がない。当然だ。私とて、初めは耳を疑ったものだ」
「ならば答えろ。一体、何がお前たちの背中を押した?」
「やはり貴方は、この世界のことを把握していないようだ」
かかった。あれこれと遠回しに言っても絶対に伝わらないのだとようやく理解してくれた。もはや隠す必要もないが、一応形だけでも惚ける振りをして話を進めて貰うとしよう。
「何のことだ?」
「……語るよりも、まずは実際を見て貰おうか」
ロアの両手が兜にかかり、ゆっくりと引き上げられる。
絶句した。文字通り、絶句してしまった。目が離せない。何か超常のものに魅入られたとでもいうのか。しかし心は理解を拒否している。
俺はこれでも普通でないものに耐性があると自負している。別に特段グロテスクなものが好きだとか、そういう仕事をしているとか、そんな話ではない。魔王を名乗っているのだ。この世界では考えられない超常的な力を持っているのだから、異形なものへも免疫があると思っていた。
でも、そんな自信が粉々に崩れてしまうほどにそれは異形だった。兜の下に隠れていた素顔は形容し難いくらいに禍々しい。重度の火傷を負ったものかと思ったが、それだけでは説明が付かない。無理矢理例えるならキメラだ。ゾンビのようなボロボロの肌の上に、無秩序に目が、口が、鼻が、砕けたように、粉々になって点在していた。
「……つまるところ確証も無いままにやった、そういうことだろう?」
奴の言葉は明らかに不自然だった。妙な言い回しをしてくれたが、要約すれば確信しているだけではないか。どれ程のものか知らないが、ここで証拠を見せないのであれば、きっと憶測の延長線上でしかないだろう。むしろ解決策になりうるのであれば、そもそも滅ぼしにかかるのはちゃんちゃらおかしい。
「証拠が全く無い訳ではないのだ。詳しくは機密事項故に語れぬが、そもそも考えてみて欲しい。あの村を狙うメリットが果たしてあるだろうか?」
まぁ、その原因や解決策とやらを抜きに考えてみれば、あんな小さな村を襲撃する目的なんて普通は無さそうである。それにここは聖リリス帝国の領土なのだ。極めて重大な理由が無くては、自国の村を滅ぼすなんて常識では考えられない。だからこそ何らかの重大な目的があるはずだと言いたいのだろう。
「それを知るために話をしていると思っていたんだがな」
そこまでは察してもいい。だが、その内容まで推測してやる義理はない。俺が想像して、それを確認するために聞いてしまえば、嘘でも肯定されて要らない誘導をされかねない。こんな見え透いた罠に引っかかってたまるか。
ただ懸念点がひとつあるとすれば、災厄の程度によっては、俺たちが無知だと言ってしまったことになる。もしもあの村にある何かを破壊しなければ明日にでも世界が滅亡するのだとしたら、もう言い逃れできない。
待てよ、俺は止めたじゃないか、こいつらの聖戦とやらを。ならばもう無知だと公言したも同然だろうか。だが、それはあくまでも最悪の場合を想定した話。齟齬を無くすため慎重になっている風に装えれば当然の要求になりうるか。
「ふふ、そうであったな。失礼した」
ロアは少しばかり笑った後、間を置いてきた。あの兜の下は見えないが、熟考しているような感じはする。
何を考える必要がある。ここまできたんだ。もう素直に腹の内を聞かせてくれてもいいんじゃないのか。まさか、まだ何か仕かけてくるつもりか。
「多数の兵を動かせば兵糧を食い潰す。本国の守りも薄くなる。そこまでして攻め入るのは我ら騎士が守るべき、国を支える大切な民の暮らす村だ。こちらにはメリットが皆無なのだよ。特別な理由が無ければ、な」
「その特別な理由ってのが、例の災厄に関する事って訳か。あの小さな村に、か。随分と非現実的じゃないか?」
こうなったらと、こちらから仕かけてみる。この言い方で察してくれるだろう、俺たちが災厄とやらを知らないのだと。このまま堂々巡りにされるくらいならいっそ露見させて話を進めてしまってもいい。要らぬ嘘を掴まされる恐れはあるものの、後で裏付けをきちんと取れば問題ない。
「確かに、荒唐無稽に聞こえても仕方がない。当然だ。私とて、初めは耳を疑ったものだ」
「ならば答えろ。一体、何がお前たちの背中を押した?」
「やはり貴方は、この世界のことを把握していないようだ」
かかった。あれこれと遠回しに言っても絶対に伝わらないのだとようやく理解してくれた。もはや隠す必要もないが、一応形だけでも惚ける振りをして話を進めて貰うとしよう。
「何のことだ?」
「……語るよりも、まずは実際を見て貰おうか」
ロアの両手が兜にかかり、ゆっくりと引き上げられる。
絶句した。文字通り、絶句してしまった。目が離せない。何か超常のものに魅入られたとでもいうのか。しかし心は理解を拒否している。
俺はこれでも普通でないものに耐性があると自負している。別に特段グロテスクなものが好きだとか、そういう仕事をしているとか、そんな話ではない。魔王を名乗っているのだ。この世界では考えられない超常的な力を持っているのだから、異形なものへも免疫があると思っていた。
でも、そんな自信が粉々に崩れてしまうほどにそれは異形だった。兜の下に隠れていた素顔は形容し難いくらいに禍々しい。重度の火傷を負ったものかと思ったが、それだけでは説明が付かない。無理矢理例えるならキメラだ。ゾンビのようなボロボロの肌の上に、無秩序に目が、口が、鼻が、砕けたように、粉々になって点在していた。
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