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第1章 偽りの騎士
第6話 怪現象の対策 1
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次の瞬間、ぼんやりとした視界がパッと晴れた。見慣れた壁がある。黒曜石で造った壁だ。辺りを見渡すと、どうやら俺はオラクル・ラビリンスの自室に戻ったらしい。隣には真っ青な顔をしたウロボロスがいて、目が合うや否や、大粒の涙を溢しながら思い切り飛び付いてきた。
「我が君……あぁ、我が君! 良かった……ご無事で何よりです!」
直前の状況を思い出すと、これだけ強く抱き締められても仕方ないだろう。全く未知の現象によりロアたちが溶け出したのだから。
あれは誰の仕業なのだろう。狙いは俺たちか、ロアたちか、はたまたその両方か。そう考えると、ウロボロスが転移魔法をかけてくれたお陰でたまたま助かっただけかもしれない。今になってから恐怖を覚えて、震えてしまう。
「あぁ……お陰でこうして生きているよ、ありがとう」
今回ばかりは強く出られないな。命を惜しんで1人で逃げ出してしまっても仕方ない状況だったろうに、カッとなってしまった俺を強引に止めてくれた。そして俺も含めた自分たちの能力を過信することなく、緊急の撤退をしてくれた。だからこそ俺は生きていられる。
だから、これには甘んじて耐えよう。メリメリ、ミシミシと嫌な音が聞こえてきそうなくらい強く抱擁されているが、安いくらいだ。
「あの……ウロボロス、さん?」
耐えよう。堪えよう。そう思って頑張っていたのだが、ライフゲージが見る見る減っていき、イエローゾーンを通過し、レッドゾーンへ突入してもなお熱い抱擁は終わらない。むしろ加速度的にダメージが増えていっている気がしてならない。視界が赤く染まってしまった。ライフゲージも残りわずかだ。やばい。死ぬのはやばい。蘇生魔法やアイテムが効くのか試したこともないのに、ここで果てたらどうなってしまうのか。
「ご報告申し上げます。緊急の要件です」
そんな危機的状況を察してくれた、訳ではないようだ。血相を変えたアザレアが無遠慮に扉を開けて入って来る。そのせいで気分を害されたのか、ウロボロスは般若のような顔をしながらも離れてくれる。
生還の喜びを噛みしめながら、あれ、と気が付く。違和感に。アザレアの表情は演技かと思った。だが、違う。これは本気で焦っているとしか思えない。
「すぐに聞こう。何があった?」
ふざけている場合ではない。体力を回復してから聞きたいところだが、それすら許されないような空気である。居住まいを正すだけにしてアザレアへ向き直った。
「アデルの村で次々と人間が溶け出しております。いずれも穴という穴からピンク色の液体を垂れ流し、原型を留めておりません」
ピンク色の液体、溶ける。まさか砦での出来事がアデルの村でも起こったということか。どうなっている。狙いは俺やロアたちではなく、この辺り一帯の全てとでもいうのか。もしも被害者がロアたちだけならば、あの村にロアの言うような災厄に関する何かがあって、ヴェルたちが襲ったことで逆鱗に触れてしまった。そんな突拍子のない妄想でもできる。しかし無差別攻撃となると話は変わってくる。
「……どういうことだ?」
すぐに原因を調べようとファントム・シーカーたちの様子を確認したが、なぜか被害が出ていない。おかしい。あいつらは敵を察知するため、ありとあらゆる魔法、スキル、アイテム効果を受けるように設計されている。それこそ、子どもが作った底の浅い落とし穴でも喜々として引っかかる性質がある。それなのに被害を受けたという警告が一切無かった。
こうなってしまう原因はひとつ。ターゲットにされていないのだ、ファントム・シーカーたちが。無差別攻撃だというのに、恐ろしく正確に人間たちだけを狙い撃ちにしていることになる。
「皆は無事か?」
今は一切手がかりが無いのだから、原因究明は後回しにして現状の把握を急がなければならない。まずはここにいないカルマ、フェンリス、ムラクモ、そしてまだ姿を見せてくれていない奴らはどうなったのか知らなくては。
「はい。カルマ、フェンリス、ムラクモは既にオラクル・ラビリンスへ撤退完了。どこも問題は無さそうですが、念のため、異常が無いかどうか精密チェックを受けさせているところです。御三方とメイドたちについても、今のところ異常があるという報告はありません」
「そうか……それは良かった」
ひとまずは安心か。それが知れただけで、肩から一気に力が抜けていくのがわかった。でも休んでしまうには早い。顔を叩いて気を引き締める。現状把握はまだ済んでいない。特に、俺たちの安否の次に大切な情報を仕入れたい。
「アデルはどうなった? それと、あの村は?」
「村自体に被害はありませんが、村民には多大な影響が出ています。ただ全員が被害に遭った訳ではなく、アデル含めた大半は未だ健在です。効果の程は不明ですが、念のため守護ゴーレムたちに結界を張らせておきました」
「そうか、良い判断だ。ありがとう、アザレア」
「いえ、勿体無きお言葉」
そうか、アデルは無事なのか。そしてアデルだけではなく村人の大半も大丈夫とは妙な話である。
「我が君……あぁ、我が君! 良かった……ご無事で何よりです!」
直前の状況を思い出すと、これだけ強く抱き締められても仕方ないだろう。全く未知の現象によりロアたちが溶け出したのだから。
あれは誰の仕業なのだろう。狙いは俺たちか、ロアたちか、はたまたその両方か。そう考えると、ウロボロスが転移魔法をかけてくれたお陰でたまたま助かっただけかもしれない。今になってから恐怖を覚えて、震えてしまう。
「あぁ……お陰でこうして生きているよ、ありがとう」
今回ばかりは強く出られないな。命を惜しんで1人で逃げ出してしまっても仕方ない状況だったろうに、カッとなってしまった俺を強引に止めてくれた。そして俺も含めた自分たちの能力を過信することなく、緊急の撤退をしてくれた。だからこそ俺は生きていられる。
だから、これには甘んじて耐えよう。メリメリ、ミシミシと嫌な音が聞こえてきそうなくらい強く抱擁されているが、安いくらいだ。
「あの……ウロボロス、さん?」
耐えよう。堪えよう。そう思って頑張っていたのだが、ライフゲージが見る見る減っていき、イエローゾーンを通過し、レッドゾーンへ突入してもなお熱い抱擁は終わらない。むしろ加速度的にダメージが増えていっている気がしてならない。視界が赤く染まってしまった。ライフゲージも残りわずかだ。やばい。死ぬのはやばい。蘇生魔法やアイテムが効くのか試したこともないのに、ここで果てたらどうなってしまうのか。
「ご報告申し上げます。緊急の要件です」
そんな危機的状況を察してくれた、訳ではないようだ。血相を変えたアザレアが無遠慮に扉を開けて入って来る。そのせいで気分を害されたのか、ウロボロスは般若のような顔をしながらも離れてくれる。
生還の喜びを噛みしめながら、あれ、と気が付く。違和感に。アザレアの表情は演技かと思った。だが、違う。これは本気で焦っているとしか思えない。
「すぐに聞こう。何があった?」
ふざけている場合ではない。体力を回復してから聞きたいところだが、それすら許されないような空気である。居住まいを正すだけにしてアザレアへ向き直った。
「アデルの村で次々と人間が溶け出しております。いずれも穴という穴からピンク色の液体を垂れ流し、原型を留めておりません」
ピンク色の液体、溶ける。まさか砦での出来事がアデルの村でも起こったということか。どうなっている。狙いは俺やロアたちではなく、この辺り一帯の全てとでもいうのか。もしも被害者がロアたちだけならば、あの村にロアの言うような災厄に関する何かがあって、ヴェルたちが襲ったことで逆鱗に触れてしまった。そんな突拍子のない妄想でもできる。しかし無差別攻撃となると話は変わってくる。
「……どういうことだ?」
すぐに原因を調べようとファントム・シーカーたちの様子を確認したが、なぜか被害が出ていない。おかしい。あいつらは敵を察知するため、ありとあらゆる魔法、スキル、アイテム効果を受けるように設計されている。それこそ、子どもが作った底の浅い落とし穴でも喜々として引っかかる性質がある。それなのに被害を受けたという警告が一切無かった。
こうなってしまう原因はひとつ。ターゲットにされていないのだ、ファントム・シーカーたちが。無差別攻撃だというのに、恐ろしく正確に人間たちだけを狙い撃ちにしていることになる。
「皆は無事か?」
今は一切手がかりが無いのだから、原因究明は後回しにして現状の把握を急がなければならない。まずはここにいないカルマ、フェンリス、ムラクモ、そしてまだ姿を見せてくれていない奴らはどうなったのか知らなくては。
「はい。カルマ、フェンリス、ムラクモは既にオラクル・ラビリンスへ撤退完了。どこも問題は無さそうですが、念のため、異常が無いかどうか精密チェックを受けさせているところです。御三方とメイドたちについても、今のところ異常があるという報告はありません」
「そうか……それは良かった」
ひとまずは安心か。それが知れただけで、肩から一気に力が抜けていくのがわかった。でも休んでしまうには早い。顔を叩いて気を引き締める。現状把握はまだ済んでいない。特に、俺たちの安否の次に大切な情報を仕入れたい。
「アデルはどうなった? それと、あの村は?」
「村自体に被害はありませんが、村民には多大な影響が出ています。ただ全員が被害に遭った訳ではなく、アデル含めた大半は未だ健在です。効果の程は不明ですが、念のため守護ゴーレムたちに結界を張らせておきました」
「そうか、良い判断だ。ありがとう、アザレア」
「いえ、勿体無きお言葉」
そうか、アデルは無事なのか。そしてアデルだけではなく村人の大半も大丈夫とは妙な話である。
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