38 / 176
第1章 偽りの騎士
第7話 騎士という者 2
しおりを挟む
意外にも攻撃はされなかった。あれだけの隙だ。あのまま殺されても文句は言えないレベルだ。それを見逃す。一体何が目的なのかと声の主を探したのだが、さっきいたはずの所にはもう誰もいない。
「どこ探しているのさ?」
また耳元で声がして、今度は反射的に振り返る。すると、そこにいたのは少女だった。焚き火に照らされて見えたプラチナの甲冑と槍、そしてその顔はどれも見覚えがあるものだった。
「る……ルーチェさん?」
同じ16歳にして聖天騎士団の二番席次、そして四大将軍の一角にまで上り詰めた若き天才騎士、ルーチェであった。
ルーチェだと知っていれば彼女も警戒したのだろうが今は全くの無警戒。されるがままに、振り向いた瞬間に頬へぷすりと指を当てられてしまう。悪戯好きな性格なのは周知の事実だ。
「や、クリス。元気みたいだね」
元気なものかと怒鳴ろうとして、彼女、クリスはやめる。ルーチェに当たって何になる。八つ当たりもいいところだ。それよりも味方とわかれば視線は焚き火の周りへ、炙られ油を滴らせている魚の方へと向いてしまう。
「ほら、食べなよ」
ドカッと座りつつ、ルーチェは串に刺さった魚を一尾差し出した。
知らないはずがないだろう。今、聖魔導教団は大切な任務の最中だと。それでも、なぜこんな所にいるのか聞きもせず施してくれる。それに少し違和感を覚えつつ、でもお腹はとても空いていたから、とりあえず受け取りすぐにかぶり付いた。塩気がよく効いていてとても美味しい。一口、また一口と、熱いのにも関わらずハフハフとしながら頬張っていく。
「おー、いい食いっぷりだね」
ルーチェは何も聞かず、水やら果物やら携帯ビスケットやらまで出してくれた。お陰でクリスは腹一杯になるまで食べて飲むことができ、束の間の幸せを感じていた。そこでやめれば良かったのに、ひとつ満足すると別のことが気になってしまうようで、すぐに悲しい現実を思い出してしまい、顔を伏せる。
「……やられたんでしょ?」
聖魔導教団がやられた。そう言われてまた、より一層大変な事態に陥ったと理解する。こうしてはいられない。いられないけど、どうしようもできない。そんなもどかしさ、そしてやるせなさを覚えながら、クリスはコクリと頷くしかなかった。
「生き残りは私だけなんです。皆……溶けちゃいました。どうして私だけが……」
「ふーん……溶けた、ねぇ」
言ってからハッと気付く。人が溶けました。誰が信じるものか。見ていなければクリス自身だって、こいつは馬鹿なんじゃないかと疑うだろう。しかし事実は事実だ。まずは信じて貰えるように見たままのことを説明しなくては。まぁ、信じて貰えない可能性の方が高いだろうな、なんて考えながらクリスは事情を口にしようとしたのだが、
「その答え、知りたい?」
全く想定外の言葉が返って来た。余りの突拍子の無さに、クリスは少しの間、口をぽかんと開けて固まる。こたえ。こたえって、答えという字を書くのだろうか。辞書、辞書はどこだろう。答えって、疑問に対する解答以外の意味があるんじゃないだろうか。そんな訳のわからない思考をグルグルと巡らせていた。
「ぽいっと」
「は、はわっ!?」
開いたままの口に何かが飛び込んで来て、クリスは素っ頓狂な声を上げて飛び退く。幸い変なところへ入っていくことはなく、口の中でコロコロと転がっている。取り出してみると、それは一粒の小さなブドウだった。よくよく観察するとブドウよりも一回り小さな緑色の魔法陣が乗っかるように展開されている。
「な、何するんですか!?」
「ごめん、ごめん。でも窒息しないように注意はしたよ?」
そう、この魔法陣は風魔法のもの。風が発生してブドウが気管へ入るのを防いでいたのだ。そこまで入念に悪戯をするくらいなら何もしないで欲しい、とは言わない。今のおふざけで我に返ったのだ。そしてきちんと理解したのだ。ルーチェは何か知っていると。だったらブドウも悪戯もどうでもよく、その話を聞きたくなってしまっていた。
「そんなことよりも、何か知っているんですか!?」
「んー……全部が全部わかっている訳じゃないけどね。少なくともクリスだけが生き延びた理由はわかるよ。知りたい?」
それだけ知っても今は何にもならないだろうが、それでも、クリスは何でもいいから説明が欲しかった。この理不尽過ぎる現実をどうにかしたかったのだ。それは受容か、はたまた根本的な解決か。どうしたいのかすらわかっていなかったが。
「教えてください! どうして私だけが……!」
「あー、そんなに大声出さないでよ。これでも深夜だよ?」
「う……すみません」
まるで我が家のように振舞ってしまっていたが、忘れてはならない。ここは深夜の森の中。しかも焚火をしているのだ。野盗や獣に「どうぞ見つけてください」とでも言っている状況である。ここで更に大声まで出そうものなら、もう次の瞬間には襲われてしまうかもしれない。
「じゃあ、火を消しますね」
腹ごしらえは終わっているのだから、話をするだけなら火は必要ない。クリスは踏んで消すために立ち上がろうとしたが、それをルーチェは手で制する。
「あー、いいよ、いいよ。今更でしょ」
「そ……それもそう……ですか?」
クリスは首を傾げながらも座り直す。大声を注意したのに火を消さないからだ。だが、火に関してはまったくもってその通りだ。今更消して何になる。2人を狙う奴がいるとすれば、とっくの昔に狙いを定めているか、もう襲いかかっているだろう。しかし辺りを見渡せばとても穏やかである。
「どこ探しているのさ?」
また耳元で声がして、今度は反射的に振り返る。すると、そこにいたのは少女だった。焚き火に照らされて見えたプラチナの甲冑と槍、そしてその顔はどれも見覚えがあるものだった。
「る……ルーチェさん?」
同じ16歳にして聖天騎士団の二番席次、そして四大将軍の一角にまで上り詰めた若き天才騎士、ルーチェであった。
ルーチェだと知っていれば彼女も警戒したのだろうが今は全くの無警戒。されるがままに、振り向いた瞬間に頬へぷすりと指を当てられてしまう。悪戯好きな性格なのは周知の事実だ。
「や、クリス。元気みたいだね」
元気なものかと怒鳴ろうとして、彼女、クリスはやめる。ルーチェに当たって何になる。八つ当たりもいいところだ。それよりも味方とわかれば視線は焚き火の周りへ、炙られ油を滴らせている魚の方へと向いてしまう。
「ほら、食べなよ」
ドカッと座りつつ、ルーチェは串に刺さった魚を一尾差し出した。
知らないはずがないだろう。今、聖魔導教団は大切な任務の最中だと。それでも、なぜこんな所にいるのか聞きもせず施してくれる。それに少し違和感を覚えつつ、でもお腹はとても空いていたから、とりあえず受け取りすぐにかぶり付いた。塩気がよく効いていてとても美味しい。一口、また一口と、熱いのにも関わらずハフハフとしながら頬張っていく。
「おー、いい食いっぷりだね」
ルーチェは何も聞かず、水やら果物やら携帯ビスケットやらまで出してくれた。お陰でクリスは腹一杯になるまで食べて飲むことができ、束の間の幸せを感じていた。そこでやめれば良かったのに、ひとつ満足すると別のことが気になってしまうようで、すぐに悲しい現実を思い出してしまい、顔を伏せる。
「……やられたんでしょ?」
聖魔導教団がやられた。そう言われてまた、より一層大変な事態に陥ったと理解する。こうしてはいられない。いられないけど、どうしようもできない。そんなもどかしさ、そしてやるせなさを覚えながら、クリスはコクリと頷くしかなかった。
「生き残りは私だけなんです。皆……溶けちゃいました。どうして私だけが……」
「ふーん……溶けた、ねぇ」
言ってからハッと気付く。人が溶けました。誰が信じるものか。見ていなければクリス自身だって、こいつは馬鹿なんじゃないかと疑うだろう。しかし事実は事実だ。まずは信じて貰えるように見たままのことを説明しなくては。まぁ、信じて貰えない可能性の方が高いだろうな、なんて考えながらクリスは事情を口にしようとしたのだが、
「その答え、知りたい?」
全く想定外の言葉が返って来た。余りの突拍子の無さに、クリスは少しの間、口をぽかんと開けて固まる。こたえ。こたえって、答えという字を書くのだろうか。辞書、辞書はどこだろう。答えって、疑問に対する解答以外の意味があるんじゃないだろうか。そんな訳のわからない思考をグルグルと巡らせていた。
「ぽいっと」
「は、はわっ!?」
開いたままの口に何かが飛び込んで来て、クリスは素っ頓狂な声を上げて飛び退く。幸い変なところへ入っていくことはなく、口の中でコロコロと転がっている。取り出してみると、それは一粒の小さなブドウだった。よくよく観察するとブドウよりも一回り小さな緑色の魔法陣が乗っかるように展開されている。
「な、何するんですか!?」
「ごめん、ごめん。でも窒息しないように注意はしたよ?」
そう、この魔法陣は風魔法のもの。風が発生してブドウが気管へ入るのを防いでいたのだ。そこまで入念に悪戯をするくらいなら何もしないで欲しい、とは言わない。今のおふざけで我に返ったのだ。そしてきちんと理解したのだ。ルーチェは何か知っていると。だったらブドウも悪戯もどうでもよく、その話を聞きたくなってしまっていた。
「そんなことよりも、何か知っているんですか!?」
「んー……全部が全部わかっている訳じゃないけどね。少なくともクリスだけが生き延びた理由はわかるよ。知りたい?」
それだけ知っても今は何にもならないだろうが、それでも、クリスは何でもいいから説明が欲しかった。この理不尽過ぎる現実をどうにかしたかったのだ。それは受容か、はたまた根本的な解決か。どうしたいのかすらわかっていなかったが。
「教えてください! どうして私だけが……!」
「あー、そんなに大声出さないでよ。これでも深夜だよ?」
「う……すみません」
まるで我が家のように振舞ってしまっていたが、忘れてはならない。ここは深夜の森の中。しかも焚火をしているのだ。野盗や獣に「どうぞ見つけてください」とでも言っている状況である。ここで更に大声まで出そうものなら、もう次の瞬間には襲われてしまうかもしれない。
「じゃあ、火を消しますね」
腹ごしらえは終わっているのだから、話をするだけなら火は必要ない。クリスは踏んで消すために立ち上がろうとしたが、それをルーチェは手で制する。
「あー、いいよ、いいよ。今更でしょ」
「そ……それもそう……ですか?」
クリスは首を傾げながらも座り直す。大声を注意したのに火を消さないからだ。だが、火に関してはまったくもってその通りだ。今更消して何になる。2人を狙う奴がいるとすれば、とっくの昔に狙いを定めているか、もう襲いかかっているだろう。しかし辺りを見渡せばとても穏やかである。
0
あなたにおすすめの小説
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる