魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第7話 騎士という者 2

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 意外にも攻撃はされなかった。あれだけの隙だ。あのまま殺されても文句は言えないレベルだ。それを見逃す。一体何が目的なのかと声の主を探したのだが、さっきいたはずの所にはもう誰もいない。

「どこ探しているのさ?」

 また耳元で声がして、今度は反射的に振り返る。すると、そこにいたのは少女だった。焚き火に照らされて見えたプラチナの甲冑と槍、そしてその顔はどれも見覚えがあるものだった。

「る……ルーチェさん?」

 同じ16歳にして聖天騎士団の二番席次、そして四大将軍の一角にまで上り詰めた若き天才騎士、ルーチェであった。
 ルーチェだと知っていれば彼女も警戒したのだろうが今は全くの無警戒。されるがままに、振り向いた瞬間に頬へぷすりと指を当てられてしまう。悪戯好きな性格なのは周知の事実だ。

「や、クリス。元気みたいだね」

 元気なものかと怒鳴ろうとして、彼女、クリスはやめる。ルーチェに当たって何になる。八つ当たりもいいところだ。それよりも味方とわかれば視線は焚き火の周りへ、炙られ油を滴らせている魚の方へと向いてしまう。

「ほら、食べなよ」

 ドカッと座りつつ、ルーチェは串に刺さった魚を一尾差し出した。
 知らないはずがないだろう。今、聖魔導教団は大切な任務の最中だと。それでも、なぜこんな所にいるのか聞きもせず施してくれる。それに少し違和感を覚えつつ、でもお腹はとても空いていたから、とりあえず受け取りすぐにかぶり付いた。塩気がよく効いていてとても美味しい。一口、また一口と、熱いのにも関わらずハフハフとしながら頬張っていく。

「おー、いい食いっぷりだね」

 ルーチェは何も聞かず、水やら果物やら携帯ビスケットやらまで出してくれた。お陰でクリスは腹一杯になるまで食べて飲むことができ、束の間の幸せを感じていた。そこでやめれば良かったのに、ひとつ満足すると別のことが気になってしまうようで、すぐに悲しい現実を思い出してしまい、顔を伏せる。

「……やられたんでしょ?」

 聖魔導教団がやられた。そう言われてまた、より一層大変な事態に陥ったと理解する。こうしてはいられない。いられないけど、どうしようもできない。そんなもどかしさ、そしてやるせなさを覚えながら、クリスはコクリと頷くしかなかった。

「生き残りは私だけなんです。皆……溶けちゃいました。どうして私だけが……」
「ふーん……溶けた、ねぇ」

 言ってからハッと気付く。人が溶けました。誰が信じるものか。見ていなければクリス自身だって、こいつは馬鹿なんじゃないかと疑うだろう。しかし事実は事実だ。まずは信じて貰えるように見たままのことを説明しなくては。まぁ、信じて貰えない可能性の方が高いだろうな、なんて考えながらクリスは事情を口にしようとしたのだが、

「その答え、知りたい?」

 全く想定外の言葉が返って来た。余りの突拍子の無さに、クリスは少しの間、口をぽかんと開けて固まる。こたえ。こたえって、答えという字を書くのだろうか。辞書、辞書はどこだろう。答えって、疑問に対する解答以外の意味があるんじゃないだろうか。そんな訳のわからない思考をグルグルと巡らせていた。

「ぽいっと」
「は、はわっ!?」

 開いたままの口に何かが飛び込んで来て、クリスは素っ頓狂な声を上げて飛び退く。幸い変なところへ入っていくことはなく、口の中でコロコロと転がっている。取り出してみると、それは一粒の小さなブドウだった。よくよく観察するとブドウよりも一回り小さな緑色の魔法陣が乗っかるように展開されている。

「な、何するんですか!?」
「ごめん、ごめん。でも窒息しないように注意はしたよ?」

 そう、この魔法陣は風魔法のもの。風が発生してブドウが気管へ入るのを防いでいたのだ。そこまで入念に悪戯をするくらいなら何もしないで欲しい、とは言わない。今のおふざけで我に返ったのだ。そしてきちんと理解したのだ。ルーチェは何か知っていると。だったらブドウも悪戯もどうでもよく、その話を聞きたくなってしまっていた。

「そんなことよりも、何か知っているんですか!?」
「んー……全部が全部わかっている訳じゃないけどね。少なくともクリスだけが生き延びた理由はわかるよ。知りたい?」

 それだけ知っても今は何にもならないだろうが、それでも、クリスは何でもいいから説明が欲しかった。この理不尽過ぎる現実をどうにかしたかったのだ。それは受容か、はたまた根本的な解決か。どうしたいのかすらわかっていなかったが。

「教えてください! どうして私だけが……!」
「あー、そんなに大声出さないでよ。これでも深夜だよ?」
「う……すみません」

 まるで我が家のように振舞ってしまっていたが、忘れてはならない。ここは深夜の森の中。しかも焚火をしているのだ。野盗や獣に「どうぞ見つけてください」とでも言っている状況である。ここで更に大声まで出そうものなら、もう次の瞬間には襲われてしまうかもしれない。

「じゃあ、火を消しますね」

 腹ごしらえは終わっているのだから、話をするだけなら火は必要ない。クリスは踏んで消すために立ち上がろうとしたが、それをルーチェは手で制する。

「あー、いいよ、いいよ。今更でしょ」
「そ……それもそう……ですか?」

 クリスは首を傾げながらも座り直す。大声を注意したのに火を消さないからだ。だが、火に関してはまったくもってその通りだ。今更消して何になる。2人を狙う奴がいるとすれば、とっくの昔に狙いを定めているか、もう襲いかかっているだろう。しかし辺りを見渡せばとても穏やかである。
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