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第1章 偽りの騎士
第7話 騎士という者 3
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少し冷たい風が吹き抜けると、さぁっと葉の擦れる音がする。
「この風を聞いていたいからさ、ごめんね。それに大声は苦手でさ」
「あぁ、そうでしたか」
確かに、風とそれに揺られる木々のざわめきはとても心地よいものだった。平時なら心を落ち着けることができ、とても安らかな気持ちになれるだろう。仕事の疲れも癒えるだろう。だが、今はそんな気分にはなれなかった。だからクリスはじっと、ルーチェの顔を見つめて言葉を待つ。
「本題に入ろうか」
その心中を察して小さく笑ったルーチェは、首の後ろへ両手をやって、何かを外して差し出す。女神のペンダントだった。両翼を広げた横姿の形をしている。
それを見て、クリスもまた同様にペンダントを外して差し出す。全く同じ物だった。だがこれは街で若い子に流行っているとか、騎士の証とか、そういう安い物ではない。その意味するところをクリスは知らなかった。
「これは証でありお守りでもある、リリス様から賜った四大将軍のペンダントだよ」
「よ……四大将軍の……!?」
そんな畏れ多い物をどうして持っているのか。それは、ロアに押し付けられていたからだ。更にこの戦いに参戦する条件として、このペンダントを身に付けるよう強く言われていたからだ。受け取った時はさぞ強力と謳われているお守りなんだろうなと、そのくらいにしか考えていなかったのだが、まさか四大将軍の証だったとは。
余りに衝撃的過ぎてクリスは動揺し、手から落としそうになってしまう。
「ほら、大事に持っていないと。それはお守りでもあるんだから」
「は……はいって、お守り?」
クリス自身も考えていたじゃないか。ロアが出発前にあれだけ強く言って渡してきた物だ。さぞ強力なお守りなのだろう、と。実際にその通りだった。これは四大将軍の証であると同時に強力な力を秘めたお守りだったのである。
「それはね、所有者のことを守ってくれる魔法のお守りなんだって。実体験したでしょ?」
「実体験……? あ……」
クリスはすぐに理解した。皆が一斉に溶け出したのにも関わらず、なぜ自分だけが生還したのか。答えはこれだったのだ。四大将軍を守るためのペンダントが、本来の持ち主ではない彼女を守ったのだ。
「いい父親じゃない?」
闇夜に浮かぶ月を眺めながら、しみじみとルーチェはそう口にした。彼女もまた思うことがない訳ではなかった。
ロアはとても優秀な人物だった。十年、いや、ひょっとすると百年に1人いるかどうかと言ってもいいくらいの。魔法の才能だけを見ればこの先、似た資質を備えた天才が現れるかもしれない。しかし彼はそれをひけらかすことを一切せず、常に同胞たちのことを案じて身を粉にする性格だったのだ。いるだろうか。そんな心優しい天才が。少なくとも過去百年にはいなかっただろうと、誰もがそう口にしていた。
「ぜ、全然良くないです! 私、一人前の騎士として認めて貰えていないってことじゃないですか!」
だが、ロアは少々親馬鹿で過保護なところがあった。目に入れても痛くない愛娘として、蝶よ花よと育てていたのもまた誰もが知っている。聖天騎士団や聖魔導教団だけでなく、一般市民ですら知っていただろう。
それをクリスは素直に受け入れず、だからこその参戦だったのだ、今回は。それが蓋を開けてみれば、絶対に死なないようにと四大将軍の証を押し付けられていた。四大将軍かつ聖魔導教団の団長でもあるロアが、この辺りの危険性を知らなかったはずがない。ならば、それはもう生存権の押し付けでもあっただろう。
「どうしてそう思うの?」
それだけ手厚く守られていて、何が不満なのか。ルーチェは本気で理解できなかった。また、理解したいとも本心では思っていなかった。恵まれた環境で何一つ不自由せず暮らせただろうに、それを自ら蹴ってまでクリスはここにいる。一方で、自分は槍を持たざるを得なかっただけ。足掻いて、もがいて、日々死ぬ気で努力を重ねて、そうしてやっとここにいるというのに。内心、少々憎らしくも思っていた。
「だって、私だけ生き延びろって言われたようなものじゃないですか! こうして1人だけノコノコと……!」
「貴女、相当誤解しているみたいだね」
これはもう気紛れとしか言いようがなかった。本当は腹を満たさせたら放り出すだけの予定だったのだ、ルーチェは。だがロアには世話になったからと、話まで親身に聞いてあげたら予想以上の世間知らず。正直に言ってしまえば開いた口が塞がらないというやつだった。だからここから先は出血大サービスである。
「いいよ、もう寝るしかないし、ひとつずつ説明してあげる。まず、やっぱりロア様はいい父親だよ。自分が生きるために子どもを餌にする奴ばっかりの世の中でさ、自分の命よりも我が子の未来に希望を見出だしたんでしょ? 立派な父親じゃない」
「だから、それは私を認めていないってことじゃないですか!」
「全然違うっての。どう言ったらいいのかなぁ」
ルーチェは小さく溜め息を吐きながら、もう言ってしまおうかと決意する。
「この風を聞いていたいからさ、ごめんね。それに大声は苦手でさ」
「あぁ、そうでしたか」
確かに、風とそれに揺られる木々のざわめきはとても心地よいものだった。平時なら心を落ち着けることができ、とても安らかな気持ちになれるだろう。仕事の疲れも癒えるだろう。だが、今はそんな気分にはなれなかった。だからクリスはじっと、ルーチェの顔を見つめて言葉を待つ。
「本題に入ろうか」
その心中を察して小さく笑ったルーチェは、首の後ろへ両手をやって、何かを外して差し出す。女神のペンダントだった。両翼を広げた横姿の形をしている。
それを見て、クリスもまた同様にペンダントを外して差し出す。全く同じ物だった。だがこれは街で若い子に流行っているとか、騎士の証とか、そういう安い物ではない。その意味するところをクリスは知らなかった。
「これは証でありお守りでもある、リリス様から賜った四大将軍のペンダントだよ」
「よ……四大将軍の……!?」
そんな畏れ多い物をどうして持っているのか。それは、ロアに押し付けられていたからだ。更にこの戦いに参戦する条件として、このペンダントを身に付けるよう強く言われていたからだ。受け取った時はさぞ強力と謳われているお守りなんだろうなと、そのくらいにしか考えていなかったのだが、まさか四大将軍の証だったとは。
余りに衝撃的過ぎてクリスは動揺し、手から落としそうになってしまう。
「ほら、大事に持っていないと。それはお守りでもあるんだから」
「は……はいって、お守り?」
クリス自身も考えていたじゃないか。ロアが出発前にあれだけ強く言って渡してきた物だ。さぞ強力なお守りなのだろう、と。実際にその通りだった。これは四大将軍の証であると同時に強力な力を秘めたお守りだったのである。
「それはね、所有者のことを守ってくれる魔法のお守りなんだって。実体験したでしょ?」
「実体験……? あ……」
クリスはすぐに理解した。皆が一斉に溶け出したのにも関わらず、なぜ自分だけが生還したのか。答えはこれだったのだ。四大将軍を守るためのペンダントが、本来の持ち主ではない彼女を守ったのだ。
「いい父親じゃない?」
闇夜に浮かぶ月を眺めながら、しみじみとルーチェはそう口にした。彼女もまた思うことがない訳ではなかった。
ロアはとても優秀な人物だった。十年、いや、ひょっとすると百年に1人いるかどうかと言ってもいいくらいの。魔法の才能だけを見ればこの先、似た資質を備えた天才が現れるかもしれない。しかし彼はそれをひけらかすことを一切せず、常に同胞たちのことを案じて身を粉にする性格だったのだ。いるだろうか。そんな心優しい天才が。少なくとも過去百年にはいなかっただろうと、誰もがそう口にしていた。
「ぜ、全然良くないです! 私、一人前の騎士として認めて貰えていないってことじゃないですか!」
だが、ロアは少々親馬鹿で過保護なところがあった。目に入れても痛くない愛娘として、蝶よ花よと育てていたのもまた誰もが知っている。聖天騎士団や聖魔導教団だけでなく、一般市民ですら知っていただろう。
それをクリスは素直に受け入れず、だからこその参戦だったのだ、今回は。それが蓋を開けてみれば、絶対に死なないようにと四大将軍の証を押し付けられていた。四大将軍かつ聖魔導教団の団長でもあるロアが、この辺りの危険性を知らなかったはずがない。ならば、それはもう生存権の押し付けでもあっただろう。
「どうしてそう思うの?」
それだけ手厚く守られていて、何が不満なのか。ルーチェは本気で理解できなかった。また、理解したいとも本心では思っていなかった。恵まれた環境で何一つ不自由せず暮らせただろうに、それを自ら蹴ってまでクリスはここにいる。一方で、自分は槍を持たざるを得なかっただけ。足掻いて、もがいて、日々死ぬ気で努力を重ねて、そうしてやっとここにいるというのに。内心、少々憎らしくも思っていた。
「だって、私だけ生き延びろって言われたようなものじゃないですか! こうして1人だけノコノコと……!」
「貴女、相当誤解しているみたいだね」
これはもう気紛れとしか言いようがなかった。本当は腹を満たさせたら放り出すだけの予定だったのだ、ルーチェは。だがロアには世話になったからと、話まで親身に聞いてあげたら予想以上の世間知らず。正直に言ってしまえば開いた口が塞がらないというやつだった。だからここから先は出血大サービスである。
「いいよ、もう寝るしかないし、ひとつずつ説明してあげる。まず、やっぱりロア様はいい父親だよ。自分が生きるために子どもを餌にする奴ばっかりの世の中でさ、自分の命よりも我が子の未来に希望を見出だしたんでしょ? 立派な父親じゃない」
「だから、それは私を認めていないってことじゃないですか!」
「全然違うっての。どう言ったらいいのかなぁ」
ルーチェは小さく溜め息を吐きながら、もう言ってしまおうかと決意する。
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