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第1章 偽りの騎士
第8話 緊急速報 7
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アデルは涙ぐんだ目を擦り、しっかりと俺の目を見据えて話し始めてくれる。
「今から5年くらい前、聖リリス帝国は無くて、いくつかの国が存在していました。時々戦いもありましたが、互いに助け合って生きてきたと聞いています。そんなある日、大陸中央の国が一晩で壊滅しました」
普通、国が滅びる程の何かがあれば、逃げ出す者は少なからずいる。それなのに、1人として周辺国に逃げ延びた人はいなかったという。
「それが大災厄の始まりでした。調査団が向かってみたら、街並みが消えていたそうです。瓦礫の山になっていたとか、魔法で吹き飛んでいたとか、そんな話ではなくて、空間そのものが消滅していたとか」
「空間そのものが? どういう状況だったか、もう少し詳しくわかるか?」
「夜闇のように真っ黒な空間があるだけだったそうです。また、他の国の調査団はこんな事を叫んだそうです」
――世界が飲まれる――
「それを最後に通信が途絶えたとか。急遽、各国は連合軍を結成して対抗しましたが……全滅しました。この世のモノとは思えない程の強さの、恐らくモンスターに敗北したのだと推測されています」
「全滅したなら、どうしてモンスターだとわかったんだ?」
「救世主が現れて、最後には勝利したのです。その際に戦った方から聞きました」
「救世主……どんな人だ?」
「はい。一目見たら忘れられない程に美しい女の子と聞いています。名前は聖少女リリス様です」
出たか、聖少女リリスが。あいつならできる。そのくらいの逆境を乗り越えるのくらい簡単だ。あいつの守護の下で戦えば、例え最弱のゴブリンでも神々に勝てる。生まれたばかりの赤ん坊の大群を指揮していたのだとしても、誰一人として欠かすことなく、何なら無傷のまま勝利へ導けるだろう。
「モンスターを撃退した後、リリス様は消失したはずの土地を復活させて、残った国の代表者を招いて提案されました。この敵は今後も湧き出るかもしれないので、1国にまとまるべきだと。あの偉大なる御力の前では誰も反対しなかったそうで、今日の聖リリス帝国が建国されました」
なるほど、大災厄の概要はよくわかった。要約すると出自不明の強敵が出て来て何もかもを蹂躙した。この世界が全て飲み込まれる非情に危機的な事態だった。しかしリリスが姿を現して勝利をもたらし、世界をまとめてひとつの国とした。
ふむ、ここまでならただのいい話ではないか。問題はその次だ。なぜアデルの父親が殺されなくてはならなかったのか、である。大災厄と戦う科学者だ。余程おかしなことをしていない限り、国を挙げてサポートするべきではないのか。まぁ、この辺も余裕があれば聞くとしよう。
そして、今回の件から少し離れて大変な事実にぶち当たってしまった。5年前の大災厄は、話題のリリスの力で収まったのだという。5年前、5年前だ。大災厄が始まってポンと現れたのでなければ、少なくとも5年以上前から活動していたことになる。当り前のことを確認しよう。俺がこの世界で目を覚ましてから1週間も経っていない。当然、ウロボロスたちも同様だ。この差は一体、何なんだ。
「……疑問が山積みだな」
でも、暗中模索でしかなかったこれまでと違い、手がかりができた。ひとつずつ片付けていけば道は開けるだろう。まずは怪現象の原因の究明と解決、そして聖リリス帝国の首都に乗り込むと、おおざっぱに言えばこんなプランになるだろう。後はあの現象に心当たりがないか聞く感じになるのだが、
「おい、アデル。大丈夫か?」
どうしたのだろうか。声をかけてもアデルはしばらく何も答えず、どこか遠い目をしていた。おかしい。色々と聞き過ぎた、ということならもっと感情的になるはず。これではまるで抜け殻みたいではないか。まさか、あの現象の被害に遭っていて、これから溶け出すんじゃないだろうな。
そんな想像をしながらも、手を振ってみたり、肩を揺すってみたりしたが反応はない。しかし、しばらくして口許だけが微かに動く。聞き取れたのはたった一言だった。
「……もう、私を信じないで」
聞き間違いか、いや、微かではあったが、確かに言われたぞ。もうアデルを信じるな、と。もう辛いから終わりにしてくれ、ならわかるが、信じないで、だと。どうなっている。いや、どうなるというんだ、アデルは。
「いえ、何でもありません。それよりも、父の話でしたね」
突然、アデルの目に生気が戻る。どうなるものかと少し距離を取ったが、直ちに体がどうこうなる様子はない。それは良かったのだが、雰囲気がガラリと変わってしまっている。何だろう、この違和感は。目の前にいるのはアデルだ。それなのに、まるで別人と話しているような気がする。
「大災厄が一度で済むはずがない。そう確信した学者の父は、大災厄の研究を始めました」
それに、思い出すのも辛そうな父親の話を、こうもスラスラとできるだと。どうなっている。覚悟を決めたのか、それともアデルの中で何かが起こっているのか。でもアデルは普通の子だ。魔法なんて使えないし、魔法が使われた痕跡も無さそうだし、何が何だかわからない。
「今から5年くらい前、聖リリス帝国は無くて、いくつかの国が存在していました。時々戦いもありましたが、互いに助け合って生きてきたと聞いています。そんなある日、大陸中央の国が一晩で壊滅しました」
普通、国が滅びる程の何かがあれば、逃げ出す者は少なからずいる。それなのに、1人として周辺国に逃げ延びた人はいなかったという。
「それが大災厄の始まりでした。調査団が向かってみたら、街並みが消えていたそうです。瓦礫の山になっていたとか、魔法で吹き飛んでいたとか、そんな話ではなくて、空間そのものが消滅していたとか」
「空間そのものが? どういう状況だったか、もう少し詳しくわかるか?」
「夜闇のように真っ黒な空間があるだけだったそうです。また、他の国の調査団はこんな事を叫んだそうです」
――世界が飲まれる――
「それを最後に通信が途絶えたとか。急遽、各国は連合軍を結成して対抗しましたが……全滅しました。この世のモノとは思えない程の強さの、恐らくモンスターに敗北したのだと推測されています」
「全滅したなら、どうしてモンスターだとわかったんだ?」
「救世主が現れて、最後には勝利したのです。その際に戦った方から聞きました」
「救世主……どんな人だ?」
「はい。一目見たら忘れられない程に美しい女の子と聞いています。名前は聖少女リリス様です」
出たか、聖少女リリスが。あいつならできる。そのくらいの逆境を乗り越えるのくらい簡単だ。あいつの守護の下で戦えば、例え最弱のゴブリンでも神々に勝てる。生まれたばかりの赤ん坊の大群を指揮していたのだとしても、誰一人として欠かすことなく、何なら無傷のまま勝利へ導けるだろう。
「モンスターを撃退した後、リリス様は消失したはずの土地を復活させて、残った国の代表者を招いて提案されました。この敵は今後も湧き出るかもしれないので、1国にまとまるべきだと。あの偉大なる御力の前では誰も反対しなかったそうで、今日の聖リリス帝国が建国されました」
なるほど、大災厄の概要はよくわかった。要約すると出自不明の強敵が出て来て何もかもを蹂躙した。この世界が全て飲み込まれる非情に危機的な事態だった。しかしリリスが姿を現して勝利をもたらし、世界をまとめてひとつの国とした。
ふむ、ここまでならただのいい話ではないか。問題はその次だ。なぜアデルの父親が殺されなくてはならなかったのか、である。大災厄と戦う科学者だ。余程おかしなことをしていない限り、国を挙げてサポートするべきではないのか。まぁ、この辺も余裕があれば聞くとしよう。
そして、今回の件から少し離れて大変な事実にぶち当たってしまった。5年前の大災厄は、話題のリリスの力で収まったのだという。5年前、5年前だ。大災厄が始まってポンと現れたのでなければ、少なくとも5年以上前から活動していたことになる。当り前のことを確認しよう。俺がこの世界で目を覚ましてから1週間も経っていない。当然、ウロボロスたちも同様だ。この差は一体、何なんだ。
「……疑問が山積みだな」
でも、暗中模索でしかなかったこれまでと違い、手がかりができた。ひとつずつ片付けていけば道は開けるだろう。まずは怪現象の原因の究明と解決、そして聖リリス帝国の首都に乗り込むと、おおざっぱに言えばこんなプランになるだろう。後はあの現象に心当たりがないか聞く感じになるのだが、
「おい、アデル。大丈夫か?」
どうしたのだろうか。声をかけてもアデルはしばらく何も答えず、どこか遠い目をしていた。おかしい。色々と聞き過ぎた、ということならもっと感情的になるはず。これではまるで抜け殻みたいではないか。まさか、あの現象の被害に遭っていて、これから溶け出すんじゃないだろうな。
そんな想像をしながらも、手を振ってみたり、肩を揺すってみたりしたが反応はない。しかし、しばらくして口許だけが微かに動く。聞き取れたのはたった一言だった。
「……もう、私を信じないで」
聞き間違いか、いや、微かではあったが、確かに言われたぞ。もうアデルを信じるな、と。もう辛いから終わりにしてくれ、ならわかるが、信じないで、だと。どうなっている。いや、どうなるというんだ、アデルは。
「いえ、何でもありません。それよりも、父の話でしたね」
突然、アデルの目に生気が戻る。どうなるものかと少し距離を取ったが、直ちに体がどうこうなる様子はない。それは良かったのだが、雰囲気がガラリと変わってしまっている。何だろう、この違和感は。目の前にいるのはアデルだ。それなのに、まるで別人と話しているような気がする。
「大災厄が一度で済むはずがない。そう確信した学者の父は、大災厄の研究を始めました」
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