魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第9話 まさかの戦い 1

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 現地へ向かう間、ファントム・シーカーが次々とやられていくのを眺めていた。本当は転移魔法で一気に飛んでも良かったのだが、敵のおおよその強さを把握するためだ。
 キル・カメラ越しに見せ付けられる技からの推測ではあるが、なるほど、これは予想以上の強敵かもしれない。見たままの光景をそのまま口にするとすれば、いくつもの緑色の閃光がたった1人の少女から発せられている。

「これは……驚いたな」

 昔、達人と呼ばれる剣術家の居合抜きを見たことがある。瞬きする間に振り抜いてしまっていて、その想像を絶する神技に度肝を抜かれたものだ。
 今はあれすらお遊戯に思えてしまう。なぜならあのレベルの一刀が、何度も、何度も放たれているのだ。まるで星々の流れる様を見せ付けられているような巧みな槍さばきである。

「ステータスチェックをしてみなければわかりませんが、少なくとも、これまでの雑兵共とは別格のようですね」
「ウロボロスもそう思うか」

 武道に関しては全くの素人である俺だけでなく、剣技に精通するウロボロスもそう判断したのなら、これはもう確実だな。これまでの相手とは格が違う。見た目こそ少女だが舐めてかからない方が良さそうだ。そして、同時に強い期待も抱いてしまう。こいつなら何かしら有用な情報を持っているに違いないと。

「我が君、あそこです」

 念のためウロボロスを先頭に現地へ降り立ち、改めて派手にやってくれている奴を見る。うん、やはり少女だ。アデルと同い年くらいで、16、17歳くらいだろう。しかしその槍さばきはカメラ越しに見ていた時よりもずっと凄まじい。全く見えないのだ。例えばそうだな、俺たちはヘリコプターの羽を目で追えるだろうか。それと同じだ。刃先がどこにあるのかわからない連続攻撃で、ファントム・シーカーがどんどん狩られている。

「見たところ、普通の人間にしか見えないけど……」

 魔法、ラピッド・アイで高速戦闘でもしっかりと見えるようにして、ようやく理解する。その槍さばきを。どれもこれもがしっかり槍術として放たれていることを。
 これはもう比べるまでもなく明らかに以前の騎士団よりも強い。一体、どれ程のパラメータを有しているものか。ステータスをチェックさせて貰おう。

「……って、うぉっ!?」
「我が君、お下がりください!」

 ステータスチェック用の画面が開かれると同時に、ファントム・シーカーの亡骸があり得ない放物線を描きながら突っ込んで来た。間一髪。ウロボロスが手で弾いてくれたお陰で衝突を免れる。
 完全に油断していた。見えなければウロボロスが知らない内に対処してくれて、落ち着いて対応できたのかもしれない。でも今はラピッド・アイで見えてしまっている。だからこそ驚いてしまったのだろう。ぶつかってもダメージなんて無いって頭ではわかっていても、元は平凡なサラリーマンだぞ。いきなり高速で何かが飛んで来たら変な声が出ちゃっても仕方ないじゃないか。

「あ、ありがとう、ウロボロス」
「いえ、御身をお守りすることは何においても優先されますから」

 それにしても、あの動きと速さは異常だ。ステータスを見てみても、俺たちからすれば極めて低いこの数値で、あの物理法則を無視したような攻撃はできまい。魔力の反応もあった気がするし、きっとあれは魔法によって飛ばされたのだろう。
 すると、なるほど、合点がいった。あの騎士は風属性の魔法を使えるのだ。だからこそ常人離れした槍術ができているに違いない。カラクリがわかってしまえば対処は簡単だ。魔法で俺の右に出る奴なんて、そうそういてたまるものか。
 ひとつ咳払いして少女の方を見てみる。さっきまでの勢いはどこへやら、立ち止まっていた。なぜか困惑した顔をしている。

「……えーと、どちら様ですか? それと、どうしてそんな恰好を?」

 やめてくれ、そんな痛い人を見るような目はやめてくれ。変に見えるかもしれないけどさ、俺なりに一生懸命に考えた魔王の衣装を着ているじゃないか。もっと驚いてください。受け入れてください。じゃないと痛い、持病の厨二病が荒ぶっちゃうから。

「人間……よくもやってくれましたね! 我が君に対して精神攻撃を仕かけるとは!」

 お前もやめてくれ、ウロボロス。ここで庇ってくれるな。余計に痛くて、あぁ、くそ。穴があったら潜りたい。壁があったら殴らせろ。何でもいい。この内から湧いてくるむず痒い感覚を発散させてくれ。

「そこの方。必ずや助け出して、普通の服を着せてあげますからね?」
「やっぱり変か! 変なのか!?」

 終わった。面と向かってこうも言われてしまっては、二度と立ち直れないかもしれない。魔王としての威厳を保つために、泣く泣く、あ、いや、本当のところはちょっとだけ格好いいと思いながらだけどさ、こんなナリをしているだけなのに。センスが無いっていうならドミニオンズの運営に物申してくれよ。俺は悪くない。そうだ、俺は悪くない。

「我が君、お気を確かに! 大丈夫です、我が君は十二分にカッコいいです!」

 その時だ。俺の中で、大切な何かがプツリと切れた気がした。ふざけていい場面じゃないのはわかっている。一刻も早く情報を得て、次の行動を決めなくてはならないのもわかっている。でも、どうしてだろうな。童心に返りたい、といえばいいのだろうか。一周回って不敵な気分になってしまう。やるか、やっちゃおうか。厨二病を全開に発揮してさ、見せ付けてやろう。魔王ユウという人物がどんな奴なのかを。

「は……はははっ! 矮小な人間よ、初めまして、俺は魔王ユウ。使い魔が随分と世話になったようだな」
「魔王……ユウ?」

 本気で理解できないといった顔をしているな。何かパフォーマンスが必要か。開き直った俺に不可能は無いぞ、覚悟しろ。
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