魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

文字の大きさ
50 / 176
第1章 偽りの騎士

第9話 まさかの戦い 2

しおりを挟む
 辺りを見渡して、比較的大きな木を発見。そこに向けてストライク・スマッシャーを放つ。木はおろかその辺り一帯を消し飛ばしてまっさらな平地へと変えた。どうだ、この圧倒的な力は。お前たちにこんな大火力をポイっと出せるか。どうだ、どうなんだ。と、威嚇気味に見つめているのに、ルーチェは全く驚いた様子がない。

「お……俺の力を思い知ったか?」
「流石は我が君です! あぁ、惚れ惚れしてしまいます!」

 反応してくれたのはウロボロスだけなんですが、これはもう駄目だ。やめたい。せっかく振り切ってみたのにさ、なんだよ、その痛い奴を見るようなその目は。大体にしてお前が悪いんだろ。先制攻撃してきたくせに、精神攻撃まで仕かけてきて。くそ、捕まえて色々話を聞きたいという事情がなければ、いっそひと思いに吹き飛ばせるというのに。
 そんな俺の葛藤を察してくれたのか、少女は顎に手を当てて少しばかり考える素振りを見せた後、大きく頷いてくれた。

「……なるほど、魔王ですか。確かに普通の人間とは違うようですね」

 もうどうでもいいや。過程はどうあれ、あの一帯を吹き飛ばせるだけの力は見せたんだ。これで十分理解してくれただろう。俺の痛さではなく、強さを。俺が魔王なのだと。

「わかりました。この件は水に流しましょう」
「賢明な判断、感謝する」

 さて、本題に移ろう。紫色の長髪を後ろで一本に束ねた少女は、ロアと同じようなプラチナ色の甲冑を身に付けている。聖リリス帝国の者ということで間違いなさそうだ。やって来た目的は偵察か、報復か、はたまた使者という可能性も無くはないか。
 まぁ、理由なんて何でもいいか。改めてステータスを見てみれば、以前の騎士団よりは高い数値が並んでいるものの、さして脅威ではない。煮るなり焼くなり好きにできそうなくらいだ。

「聞かせて貰いたいな、その胸の内を。何かしら要件があって来たんだろう?」
「では……私はお願いがあって参りました。お話だけでも聞いて頂けませんか?」

 お願い、か。驚きを越えて呆れてしまう。確かに俺たちは初対面だが、俺はお前らの仲間を大量に殺している。普通に考えればここは報復だろう。
 いや、待てよ。こんな風にボケているが、思い出せ。こいつ、俺に向かってファントム・シーカーをぶつけようとしていたじゃないか。あれは偶然ではない。なぜなら、あれだけ荒れた軌道を描いた後に真っすぐ飛んでくるか、普通。魔法で狙ったとしか考えられない。だったら、やはり狙いは報復か。

「俺たちはロアの仇だ。よくもまぁ、お願いに来られるな。その前にやることがあるんじゃないのか?」

 では、ここまでのやり取り全てが策略ということになる。奇襲で仕留める第一段階は失敗に終わり、会話でこちらを探る第二段階に突入した、といったところか。
 まったく、油断も隙もあったものじゃない。そっちがその気なら、こちらからも少しだけ仕かけさせて貰おう。至極当然と思われるこの話にどう返してくれるか。
 少女は小さく笑みをこぼす。まるで俺を小馬鹿にしているような笑いだ。見下されたのだろうか、さっきの痴態があったから。そう思ったのだが、どうやらそういう意味ではないらしい。

「失礼。決して魔王様のことを笑ったのではありません。ただおかしかったのです。騎士ならば仇討ちが先ではないか……そんな凝り固まった既成概念が」

 凝り固まった既成概念だと。騎士の役目は属する国とそこで暮らす人々の守護であるべきだ。それが俺の中の、いや、現実世界で誰もが持つ共通認識のはずだ。ここは異世界だから別だとでも言うつもりか。
 いや、いやいや、仮に騎士という職業の持つ意味が全く別だったとしても、同じ組織の人間が殺されたんだぞ。仲間の死を悼み、仇を討ちたいと思う。これは職業云々以前に、倫理的というか、道徳的というか、とにかく人として持つべき当り前の願望じゃないのか。

「なぜ笑う? 聖リリス帝国の騎士たちは薄情なのか?」
「そうですね、少なくとも私は人でなしの部類でしょう。騎士も、騎士団も、毛ほどの価値も無いと思っています」

 なんて大胆なことを言う奴だ。信用していいものか構えてしまう。でも、その一方でこれまでの騎士たちよりは話しやすく感じてしまう。
 思い返せば、あのアデルの村を襲っていた奴なんて、口を開けば聖戦、聖戦と言っていた印象しかない。同じ言語を話しているはずなのに会話が成立する気がしなかった。ロアもまた別の意味でそうだった。何やら含みある言い回しばかりで、腹の内を知るなんて無理だと思ってしまった。
 ではこの子はというと、驚きの発言をされたものの、逆に言えば驚いてしまうような内容を話して貰えそうな期待が持てる。こちらとしても願ってもない状況ではないだろうか。

「騎士に関する話はもういい。俺も仇討ちの相手なんて面倒だ。それで、お願いって何だ?」

 ならば、ここは素直に流れに乗ろう。適当にベラベラと語って貰って、そこから得られるものがあればそれで良し。お願いとやらの内容次第で交換条件で更に聞いても良い。拒否されたとしても、こちらの方が強いのだから無理にでも吐かせてしまおう。

「単刀直入に言います。アデルに会わせて頂けませんか?」

 何やかんやとしてくれた割に、あの騎士団と同じくアデルに用事があるとは。結局はこいつも聖戦とやらをしに来たんじゃないか。そうバッサリと切り捨ててしまおうと思ったが、あれ、と気付く。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

処理中です...