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第1章 偽りの騎士
第10話 眠り姫は置いておいて 3
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ウロボロスは皆から厚い信頼を置かれている。あれくらいの敗北で揺らぐなんてあり得ない。というより、そもそも揺らぐ揺らがないみたいな発想自体持っていなかったというのに。
「何が言いたいのです?」
「確かに剣術で劣ったやもしれぬ。じゃが、お主がその手に取ったのは盾ではないか。その面、随分と素敵になっておるぞ」
「す、ストップ! カルマ、お前は何を言っているんだ!?」
はっきり言ってショックだ。こんな嫌味を言うような性格にはしていない。恩義を忘れるような育て方もしていないはず。それなのに、どうしてこんなことを言ったんだ。もう駄目だ。そう強く思ったら、やっとまともな言葉を吐けるようになったらしい。ようやく仲裁に入ることができた。
でも少しばかり手遅れか。こんなにも悲痛な面持ちのウロボロスを見たのは初めてだ。なんて言葉をかけていいのかわからず、仕方なくカルマの方を向く。
「魔王様が一番じゃ、ここは身を引く。さて、人間の容態は……」
カルマは俺やウロボロスに見向きもせずルーチェの傍に行ってしまう。その横顔だけが少し見えて、また混乱してしまった。カルマもまたウロボロスに負けないくらい悲痛な面持ちをしていたのだ。
なぜだ。そんな顔をするのなら、どうしてあんな酷いことを言ったんだ。わからない。カルマの意図が全くわからない。
そうして思い悩んでいる一瞬の内に、カルマはルーチェを一瞥すると、すぐに興味を無くしたように顔を上げてしまう。
「寝ておるだけのようじゃ」
「……そ、そうか」
ルーチェには悪いがそれはどうでもいい。一体、お前は何を考えているのか。それを聞かせて欲しい。聞かせて欲しいのだが、これまたなぜだろう。カルマの背中がとても小さく、か細く見えて、とてもではないが聞ける気がしなかった。
「この隙にアデルの所へ行くことを提案するのじゃ。話を通しておけばスムーズじゃろうて」
「た、確かにそうだけど……」
「では失礼する。ウロボロスも精々羽を伸ばすのじゃぞ」
いいだけ罵った後に今度は身を案じる発言か。ますますわからない。カルマは何を考えているんだ。
そんな俺の悩みやウロボロスからの言葉を受けるつもりはないと言うように、それだけ言い残すとカルマはさっさとどこかへ転移してしまった。
「我が君、またデートですね!」
腕組みされ、ウキウキルンルンし始めたウロボロス。だが無理しているのを隠そうと一生懸命になっているような空元気にしか見えない。
何がどうしてこうなったのかわからない以上、根本的に癒してあげることはできないが、せめて付き合ってあげよう。そうすることで少しでもウロボロスの力になれるのなら。
「ただのお使いだ」
「あぁん、もう!」
ただし過剰に気を遣ってやることもしない。自分の身を案じてのことではない。ウロボロスのために、だ。いつもと違う風に振舞えば、一時であろうとも忘れられないかもしれないから。だから今はいつものように振る舞おう。きっとウロボロスのためになると信じて。
さて、村に行くと、相変わらず発展している街に出迎えられる。流石に近未来的な絵面にはなっていないものの、道路がアスファルト的な何かで舗装されている。復興と称した文明開化を始めてからの日数のカウントはもうやめたが、それでもまだ1月は経っていないはず。そんな短期間で現代日本の風景に片足を突っ込もうというのだから驚きだ。
「魔王様、こんにちは。どうされましたか?」
まだ舗装された道に慣れていないのか、少し歩きにくそうにしながらアデルがやって来た。
歩きにくそう。残念ながら感じた違和感はそれだけだ。俺は今、ウロボロスにぴったりと腕を組まれている。これについては何も言ってこないどころか、奇異な視線すら向けられていない。この様子に慣れてしまったというのか。うーん、それはそれで問題だな。
「忙しいところ悪いけど、お願いがあるんだ」
まぁ、今はどうでもいい問題か。それよりも、カルマに言われた通りに約束を取り付けておくか。スムーズに話を付けるためにも、そして、ウロボロスを元気付けるためにも。
「そんな、改まらなくていいですよ。数少ない恩返しできることでしょうから、何でも言ってください」
それにしてもアデルは本当にいい子だな。何があってもこの子は守らなくては。そうは思いつつも、いくらルーチェの真意がわからなくても約束は約束だ。それに友達だとすればアデルにとっても悪い話ではないはず。まずは話を切り出してみてからかな。
「会って欲しい人がいるんだ」
「一体どなたです?」
「ルーチェっていうんだけど、知っているか?」
「る、ルーチェ……!?」
アデルは明らかに動揺した。まるで幽霊でも見たかのような顔をしている。この反応、どのくらい付き合いが深いのかわからないものの知り合いなのは確定だ。問題はその関係性なのだが、うーん、この表情と言動だけじゃあ、単なる顔見知りじゃないってことと、ひょっとして会いにくくなっている間柄なのかもしれないってことくらいしか推測できない。
「会いにくいのなら別に……」
そう思って、こちらは善意でそう提案したつもりなのだが、アデルは思い切り首を横に振った。髪がバサバサと乱れるくらいに。そして食い気味に、怒鳴りつけられるようにお願いされる。
「い……いえっ! 会います! 会わせてください!」
余程の何かがあるのだろう。思い返せばルーチェの言い分だって相当のものだった。2人の間にはきっと、俺なんかじゃ想像も付かないような重大な何かがあるに違いない。
「何が言いたいのです?」
「確かに剣術で劣ったやもしれぬ。じゃが、お主がその手に取ったのは盾ではないか。その面、随分と素敵になっておるぞ」
「す、ストップ! カルマ、お前は何を言っているんだ!?」
はっきり言ってショックだ。こんな嫌味を言うような性格にはしていない。恩義を忘れるような育て方もしていないはず。それなのに、どうしてこんなことを言ったんだ。もう駄目だ。そう強く思ったら、やっとまともな言葉を吐けるようになったらしい。ようやく仲裁に入ることができた。
でも少しばかり手遅れか。こんなにも悲痛な面持ちのウロボロスを見たのは初めてだ。なんて言葉をかけていいのかわからず、仕方なくカルマの方を向く。
「魔王様が一番じゃ、ここは身を引く。さて、人間の容態は……」
カルマは俺やウロボロスに見向きもせずルーチェの傍に行ってしまう。その横顔だけが少し見えて、また混乱してしまった。カルマもまたウロボロスに負けないくらい悲痛な面持ちをしていたのだ。
なぜだ。そんな顔をするのなら、どうしてあんな酷いことを言ったんだ。わからない。カルマの意図が全くわからない。
そうして思い悩んでいる一瞬の内に、カルマはルーチェを一瞥すると、すぐに興味を無くしたように顔を上げてしまう。
「寝ておるだけのようじゃ」
「……そ、そうか」
ルーチェには悪いがそれはどうでもいい。一体、お前は何を考えているのか。それを聞かせて欲しい。聞かせて欲しいのだが、これまたなぜだろう。カルマの背中がとても小さく、か細く見えて、とてもではないが聞ける気がしなかった。
「この隙にアデルの所へ行くことを提案するのじゃ。話を通しておけばスムーズじゃろうて」
「た、確かにそうだけど……」
「では失礼する。ウロボロスも精々羽を伸ばすのじゃぞ」
いいだけ罵った後に今度は身を案じる発言か。ますますわからない。カルマは何を考えているんだ。
そんな俺の悩みやウロボロスからの言葉を受けるつもりはないと言うように、それだけ言い残すとカルマはさっさとどこかへ転移してしまった。
「我が君、またデートですね!」
腕組みされ、ウキウキルンルンし始めたウロボロス。だが無理しているのを隠そうと一生懸命になっているような空元気にしか見えない。
何がどうしてこうなったのかわからない以上、根本的に癒してあげることはできないが、せめて付き合ってあげよう。そうすることで少しでもウロボロスの力になれるのなら。
「ただのお使いだ」
「あぁん、もう!」
ただし過剰に気を遣ってやることもしない。自分の身を案じてのことではない。ウロボロスのために、だ。いつもと違う風に振舞えば、一時であろうとも忘れられないかもしれないから。だから今はいつものように振る舞おう。きっとウロボロスのためになると信じて。
さて、村に行くと、相変わらず発展している街に出迎えられる。流石に近未来的な絵面にはなっていないものの、道路がアスファルト的な何かで舗装されている。復興と称した文明開化を始めてからの日数のカウントはもうやめたが、それでもまだ1月は経っていないはず。そんな短期間で現代日本の風景に片足を突っ込もうというのだから驚きだ。
「魔王様、こんにちは。どうされましたか?」
まだ舗装された道に慣れていないのか、少し歩きにくそうにしながらアデルがやって来た。
歩きにくそう。残念ながら感じた違和感はそれだけだ。俺は今、ウロボロスにぴったりと腕を組まれている。これについては何も言ってこないどころか、奇異な視線すら向けられていない。この様子に慣れてしまったというのか。うーん、それはそれで問題だな。
「忙しいところ悪いけど、お願いがあるんだ」
まぁ、今はどうでもいい問題か。それよりも、カルマに言われた通りに約束を取り付けておくか。スムーズに話を付けるためにも、そして、ウロボロスを元気付けるためにも。
「そんな、改まらなくていいですよ。数少ない恩返しできることでしょうから、何でも言ってください」
それにしてもアデルは本当にいい子だな。何があってもこの子は守らなくては。そうは思いつつも、いくらルーチェの真意がわからなくても約束は約束だ。それに友達だとすればアデルにとっても悪い話ではないはず。まずは話を切り出してみてからかな。
「会って欲しい人がいるんだ」
「一体どなたです?」
「ルーチェっていうんだけど、知っているか?」
「る、ルーチェ……!?」
アデルは明らかに動揺した。まるで幽霊でも見たかのような顔をしている。この反応、どのくらい付き合いが深いのかわからないものの知り合いなのは確定だ。問題はその関係性なのだが、うーん、この表情と言動だけじゃあ、単なる顔見知りじゃないってことと、ひょっとして会いにくくなっている間柄なのかもしれないってことくらいしか推測できない。
「会いにくいのなら別に……」
そう思って、こちらは善意でそう提案したつもりなのだが、アデルは思い切り首を横に振った。髪がバサバサと乱れるくらいに。そして食い気味に、怒鳴りつけられるようにお願いされる。
「い……いえっ! 会います! 会わせてください!」
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