魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

文字の大きさ
65 / 176
第1章 偽りの騎士

第12話 激昂のカルマ 2

しおりを挟む
 事態は急を要する。カルマだけでなくアザレアもよく理解していて、これ見よがしに咳払いしてから真面目な話に戻す。

「さて、状況を整理しようか。ウロボロスは魔王様と共におられる。そうなると、この者はウロボロスを模した敵ということになる」
「そうなるじゃろうな。して、こやつのデータは把握しておるのか?」
「それについては――」

 アザレアが言いかけた時、空からひらり、はらりと1枚の白い天使の羽が舞い降りてきた。羽が床に着くかどうかのタイミングで、そこに1人の美人女性が現れる。現れる、というのは語弊があるのかもしれない。彼女はずっと前からそこに佇んでおり、機を見て姿を見せただけなのだから。

「如月から報告があるそうだよ」

 もっとも、そのことはこの場にいる誰もが知らない。アザレアは事前に連絡を受けていただけであり、ずっとそこにいたなんて気付かなかった。フェンリス、カルマも同様だ。オラクル・ナイツとしてドミニオンズの団体戦で頂点を取った彼らですら察知できない高位の魔法によって姿を隠せる人物、それが如月である。

「隠密メイド衆が1人、如月。我が主に代わり、調査結果を報告致します」

 白と黒を基調としたオードソックスなメイド服を着た純和風の女性、如月は、一礼すると別のウィンドウを拡大して皆の前へ展開する。そこにはウロボロスのステータス画面が2つ表示されていた。

「まず始めに、この者はウロボロス様の偽者に間違いございません。様々な憶測をされたようですが、これらのデータが何よりの証拠です」

 体力、MP、攻撃力、防御力。とにかく、ありとあらゆるステータスがウロボロスの1割にも満たなかった。比べることすら愚かしい天地の差があり、姿形だけが瓜二つの粗悪な偽者なのだと、皆は理解して少し安堵する。
その反応を見届けてから如月は補足説明をする。

「ステータスだけを見ればさしたる脅威にはなり得ません。ただ、未だ接敵はしていないため把握しているのはステータスだけです。もしも魔法やスキルまで模倣されていたとすれば、その限りではないでしょう。今のところそういった類いは使用されておりませんので、必要とあらば仕かけて引き出させますが、如何なさいますか?」

 如月の提案は完璧かつとても魅力的だった。ユウがそうしているように、敵の全ての情報を抜き取るためには、どうしても面と向かってステータスチェックをする必要がある。今回のように遠く離れた所からではステータスを知るのが精一杯。だからまず偽者だと証明したのだ。そうすれば心置きなく交戦できる。面と向かうのだから全て見ることができるし、仮に抜き取れなくても、魔法やスキルを使わせられれば同じこと。

「その前にひとつ問う」

 対応が早く、かつ的確。このまま任せてしまえばどんなに楽か。なんて思えるだろう、普通は。しかしそうは問屋が卸さない。この情報源がアザレアだったならば、カルマは信じて一任しただろう。生憎とそうもいかないのは、別件について、カルマはある疑念を持っていたからである。

「お主らはこれまでほぼ姿を見せなかったのう。なぜじゃ?」

 そう、如月を初めとするメイドたちは、最初に調査をすると言った切りただの一度も現れなかった。そんないなかった奴が突然やって来て、パッとそれらしい事を言った。どうして手放しで信じられるだろう。

「魔王様のため、最優先で取り組む任務が御座いました。近く、我が主より報告が上がるでしょう」
「それは魔王様へ直々に、ということで間違いないかのう?」
「はい。我が主も、魔王様とお会いすることを楽しみにしておられます」

 この殊勝とすら思えてしまう返答に、カルマは毒気を抜かれてしまう。そう、何を熱くなっていたのか。確かに姿を現さなかったのはメイドたちだが、その原因は彼女らではない。責める相手が違うではないか。
 それに、常にクールに振舞うことは他でもないユウの望みだ。カルマの設定文に込められた願望だ。ならば、ここでこれ以上怒りを露わにするのは忠義に反するだろう。

「まぁ、今ここでお主に詰問しても意味はないのじゃ。悪かったのう」

 そうしている内にも、偽ウロボロスはどんどんこちらへ迫って来ている。まだ多少の距離はあるものの、実際に接触して情報収集するのなら、もう行かねばならないだろう。本当ならもっと情報を得てから出たいところではあるが、これ以上、この場で情報を得るのは難しい。そう判断したカルマはケルベロスの頭をなでて立ち上がらせる。

「ワシが行く。可能なら、そのまま排除してくれよう」
「私も行きたいです!」

 フェンリスが挙手して参戦を希望する。彼女は余り賢くなく、ここまでの話は半分も理解できていない。それでもウロボロスを思う気持ちなら誰にも遅れを取っていない。そしてそれはカルマに対しても同じだ。勿論、思い切り戦いたいという欲望もあってのことだが、それ以上に仲間を思い遣っての希望だった。

「悪いのう、フェンリス。あやつはワシに任せよ」

 それがわかっていながら、カルマはあえて拒否した。疎ましいのではない。とても感謝している。本当なら受け入れたいとすら思っている。しかし、そうもいかないのだ。今回に限れば、味方は誰一人としていては困るのである。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

処理中です...