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第1章 偽りの騎士
第12話 激昂のカルマ 2
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事態は急を要する。カルマだけでなくアザレアもよく理解していて、これ見よがしに咳払いしてから真面目な話に戻す。
「さて、状況を整理しようか。ウロボロスは魔王様と共におられる。そうなると、この者はウロボロスを模した敵ということになる」
「そうなるじゃろうな。して、こやつのデータは把握しておるのか?」
「それについては――」
アザレアが言いかけた時、空からひらり、はらりと1枚の白い天使の羽が舞い降りてきた。羽が床に着くかどうかのタイミングで、そこに1人の美人女性が現れる。現れる、というのは語弊があるのかもしれない。彼女はずっと前からそこに佇んでおり、機を見て姿を見せただけなのだから。
「如月から報告があるそうだよ」
もっとも、そのことはこの場にいる誰もが知らない。アザレアは事前に連絡を受けていただけであり、ずっとそこにいたなんて気付かなかった。フェンリス、カルマも同様だ。オラクル・ナイツとしてドミニオンズの団体戦で頂点を取った彼らですら察知できない高位の魔法によって姿を隠せる人物、それが如月である。
「隠密メイド衆が1人、如月。我が主に代わり、調査結果を報告致します」
白と黒を基調としたオードソックスなメイド服を着た純和風の女性、如月は、一礼すると別のウィンドウを拡大して皆の前へ展開する。そこにはウロボロスのステータス画面が2つ表示されていた。
「まず始めに、この者はウロボロス様の偽者に間違いございません。様々な憶測をされたようですが、これらのデータが何よりの証拠です」
体力、MP、攻撃力、防御力。とにかく、ありとあらゆるステータスがウロボロスの1割にも満たなかった。比べることすら愚かしい天地の差があり、姿形だけが瓜二つの粗悪な偽者なのだと、皆は理解して少し安堵する。
その反応を見届けてから如月は補足説明をする。
「ステータスだけを見ればさしたる脅威にはなり得ません。ただ、未だ接敵はしていないため把握しているのはステータスだけです。もしも魔法やスキルまで模倣されていたとすれば、その限りではないでしょう。今のところそういった類いは使用されておりませんので、必要とあらば仕かけて引き出させますが、如何なさいますか?」
如月の提案は完璧かつとても魅力的だった。ユウがそうしているように、敵の全ての情報を抜き取るためには、どうしても面と向かってステータスチェックをする必要がある。今回のように遠く離れた所からではステータスを知るのが精一杯。だからまず偽者だと証明したのだ。そうすれば心置きなく交戦できる。面と向かうのだから全て見ることができるし、仮に抜き取れなくても、魔法やスキルを使わせられれば同じこと。
「その前にひとつ問う」
対応が早く、かつ的確。このまま任せてしまえばどんなに楽か。なんて思えるだろう、普通は。しかしそうは問屋が卸さない。この情報源がアザレアだったならば、カルマは信じて一任しただろう。生憎とそうもいかないのは、別件について、カルマはある疑念を持っていたからである。
「お主らはこれまでほぼ姿を見せなかったのう。なぜじゃ?」
そう、如月を初めとするメイドたちは、最初に調査をすると言った切りただの一度も現れなかった。そんないなかった奴が突然やって来て、パッとそれらしい事を言った。どうして手放しで信じられるだろう。
「魔王様のため、最優先で取り組む任務が御座いました。近く、我が主より報告が上がるでしょう」
「それは魔王様へ直々に、ということで間違いないかのう?」
「はい。我が主も、魔王様とお会いすることを楽しみにしておられます」
この殊勝とすら思えてしまう返答に、カルマは毒気を抜かれてしまう。そう、何を熱くなっていたのか。確かに姿を現さなかったのはメイドたちだが、その原因は彼女らではない。責める相手が違うではないか。
それに、常にクールに振舞うことは他でもないユウの望みだ。カルマの設定文に込められた願望だ。ならば、ここでこれ以上怒りを露わにするのは忠義に反するだろう。
「まぁ、今ここでお主に詰問しても意味はないのじゃ。悪かったのう」
そうしている内にも、偽ウロボロスはどんどんこちらへ迫って来ている。まだ多少の距離はあるものの、実際に接触して情報収集するのなら、もう行かねばならないだろう。本当ならもっと情報を得てから出たいところではあるが、これ以上、この場で情報を得るのは難しい。そう判断したカルマはケルベロスの頭をなでて立ち上がらせる。
「ワシが行く。可能なら、そのまま排除してくれよう」
「私も行きたいです!」
フェンリスが挙手して参戦を希望する。彼女は余り賢くなく、ここまでの話は半分も理解できていない。それでもウロボロスを思う気持ちなら誰にも遅れを取っていない。そしてそれはカルマに対しても同じだ。勿論、思い切り戦いたいという欲望もあってのことだが、それ以上に仲間を思い遣っての希望だった。
「悪いのう、フェンリス。あやつはワシに任せよ」
それがわかっていながら、カルマはあえて拒否した。疎ましいのではない。とても感謝している。本当なら受け入れたいとすら思っている。しかし、そうもいかないのだ。今回に限れば、味方は誰一人としていては困るのである。
「さて、状況を整理しようか。ウロボロスは魔王様と共におられる。そうなると、この者はウロボロスを模した敵ということになる」
「そうなるじゃろうな。して、こやつのデータは把握しておるのか?」
「それについては――」
アザレアが言いかけた時、空からひらり、はらりと1枚の白い天使の羽が舞い降りてきた。羽が床に着くかどうかのタイミングで、そこに1人の美人女性が現れる。現れる、というのは語弊があるのかもしれない。彼女はずっと前からそこに佇んでおり、機を見て姿を見せただけなのだから。
「如月から報告があるそうだよ」
もっとも、そのことはこの場にいる誰もが知らない。アザレアは事前に連絡を受けていただけであり、ずっとそこにいたなんて気付かなかった。フェンリス、カルマも同様だ。オラクル・ナイツとしてドミニオンズの団体戦で頂点を取った彼らですら察知できない高位の魔法によって姿を隠せる人物、それが如月である。
「隠密メイド衆が1人、如月。我が主に代わり、調査結果を報告致します」
白と黒を基調としたオードソックスなメイド服を着た純和風の女性、如月は、一礼すると別のウィンドウを拡大して皆の前へ展開する。そこにはウロボロスのステータス画面が2つ表示されていた。
「まず始めに、この者はウロボロス様の偽者に間違いございません。様々な憶測をされたようですが、これらのデータが何よりの証拠です」
体力、MP、攻撃力、防御力。とにかく、ありとあらゆるステータスがウロボロスの1割にも満たなかった。比べることすら愚かしい天地の差があり、姿形だけが瓜二つの粗悪な偽者なのだと、皆は理解して少し安堵する。
その反応を見届けてから如月は補足説明をする。
「ステータスだけを見ればさしたる脅威にはなり得ません。ただ、未だ接敵はしていないため把握しているのはステータスだけです。もしも魔法やスキルまで模倣されていたとすれば、その限りではないでしょう。今のところそういった類いは使用されておりませんので、必要とあらば仕かけて引き出させますが、如何なさいますか?」
如月の提案は完璧かつとても魅力的だった。ユウがそうしているように、敵の全ての情報を抜き取るためには、どうしても面と向かってステータスチェックをする必要がある。今回のように遠く離れた所からではステータスを知るのが精一杯。だからまず偽者だと証明したのだ。そうすれば心置きなく交戦できる。面と向かうのだから全て見ることができるし、仮に抜き取れなくても、魔法やスキルを使わせられれば同じこと。
「その前にひとつ問う」
対応が早く、かつ的確。このまま任せてしまえばどんなに楽か。なんて思えるだろう、普通は。しかしそうは問屋が卸さない。この情報源がアザレアだったならば、カルマは信じて一任しただろう。生憎とそうもいかないのは、別件について、カルマはある疑念を持っていたからである。
「お主らはこれまでほぼ姿を見せなかったのう。なぜじゃ?」
そう、如月を初めとするメイドたちは、最初に調査をすると言った切りただの一度も現れなかった。そんないなかった奴が突然やって来て、パッとそれらしい事を言った。どうして手放しで信じられるだろう。
「魔王様のため、最優先で取り組む任務が御座いました。近く、我が主より報告が上がるでしょう」
「それは魔王様へ直々に、ということで間違いないかのう?」
「はい。我が主も、魔王様とお会いすることを楽しみにしておられます」
この殊勝とすら思えてしまう返答に、カルマは毒気を抜かれてしまう。そう、何を熱くなっていたのか。確かに姿を現さなかったのはメイドたちだが、その原因は彼女らではない。責める相手が違うではないか。
それに、常にクールに振舞うことは他でもないユウの望みだ。カルマの設定文に込められた願望だ。ならば、ここでこれ以上怒りを露わにするのは忠義に反するだろう。
「まぁ、今ここでお主に詰問しても意味はないのじゃ。悪かったのう」
そうしている内にも、偽ウロボロスはどんどんこちらへ迫って来ている。まだ多少の距離はあるものの、実際に接触して情報収集するのなら、もう行かねばならないだろう。本当ならもっと情報を得てから出たいところではあるが、これ以上、この場で情報を得るのは難しい。そう判断したカルマはケルベロスの頭をなでて立ち上がらせる。
「ワシが行く。可能なら、そのまま排除してくれよう」
「私も行きたいです!」
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