魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第12話 激昂のカルマ 4

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 カルマは頭を抱えて俯きながら笑う。その感情は滑稽と表現されるのだろう。いや、そうでなくては困る。どうして大真面目だと、真実だと認められるものか。ならばこれはお遊戯。最悪の出し物。

「よい、よいぞ……ここまでワシの心をかき乱すとは、実に不愉快極まりない」
「わ、私は貴女と敵対するつもりはありません。まずは話を――」

 その瞬間、偽ウロボロスの横で大爆発が起こる。土煙が巻き上がり、それが晴れてみると、直径10メートルのクレーターができている程の威力だった。この世界の住人ならば文句なく即死するレベルの一撃だったが、仮にもウロボロスを名乗る以上、その盾性能は伊達ではないらしい。即座にシールドを展開してその脅威から逃れていた。

「これで理解できたじゃろう? さぁ、構えよ。そのくらいは待ってやるのじゃ」

 この第一打を防ぎ切って調子の乗ったのだろうか。いや、そもそも自身をウロボロスと信じて疑っていない風に演技するためか。その理由は不明だが、偽ウロボロスは降伏することなく、小さく溜め息を吐くと、グングニル改12を構えた。

「単純な話をしましょう。魔法師の貴女が、盾持ちとはいえ近接職の私に敵うとでも? 冷静に話し合った方が得策かと思いますよ」
「ははは……っ! いやはや、ここまで笑ったのは初めてじゃ。感謝するぞ、ペテン師」
「何がおかしいのです――っ!?」

 次の瞬間、カルマの姿が消える。単に素早く高速移動したのではなく、忽然と消滅した。そう見えているだろう、偽ウロボロスには。だが先ほどの攻防でも見せた盾性能はまぐれではないらしい。恐らく脊髄反射レベルで危険を察知し、全方位にシールドを張って迎撃態勢を取っていた。そのかいがあって、背後からの鋭い手刀をシールドで防ぐことができていた。

「温いですよ、カルマ」

 無事、二撃目も防ぐことができたからだろうか。偽ウロボロスは不敵な笑みを浮かべながら後方のカルマへ言葉を発する。
 それがどれくらい滑稽なことか。カルマは思わず高笑いをしてしまいそうになるのをグッと堪えて、しかし怒りに身を任せたまま、大胆不敵な行動と共に返答する。

「どこを見ておるのじゃ?」

 カルマは手刀をシールドにぶつけたまま、偽ウロボロスの鼻先に顔を近付けて、悪魔の笑みを浮かべて見せた。もう一度言おう。鼻先に顔を近付けたのだ。
 普通ならあり得ないことだ。当り前の話だが、シールドは敵の攻撃を防ぐ盾である。その弾く対象は攻撃に限らない。物理耐性の盾なら物理的な接触を、魔法耐性の盾なら魔法的な接触を、防げるレベルなら全てをシャットアウトする。だからこれはあり得ない。最低レベルのシールドですら阻むことのできる単なる肉体的な接触なんて、つまり、カルマが顔を近付けられるなんて絶対にあり得ない。そのはずなのに、今、偽ウロボロスの目の前にはカルマがいた。

「な……なぜ、こんなにも近くに……?」
「そう驚くほどのことでもあるまい?」

 根本的な間違いを訂正しよう。偽ウロボロスはシールドでカルマの手刀を止めた、と言った。これがそもそもの間違いである。実際には、カルマはシールドに触れるかどうかのところで破壊し、同じシールドを同様に張ってあげて、わざと阻まれた風に見せていただけなのだ。そして自分自身のシールドならば通れる特性を利用して、わざわざ目と鼻の先へ顔を近付けたのである。こうして話をして、思う存分、絶望して貰うために。

「そんな……どういうこと……?」

 しかし、それよりも偽ウロボロスには驚くべきことがあった。今、カルマは確かに目の前にいる。遂に鼻先が触れてしまったのだから、それは間違いない。でもちょっと待って欲しい。先ほど、ウロボロスは後方からの手刀を防いでいる。今、彼女はどこにいるだろう。
 この矛盾の答えは、単に素早く動いたのではない。もっと明快かつ不可解。彼女は偽ウロボロスの背後にいる。そして眼前にもいる。それだけのことだ。

「寝惚けておるでないぞ、団長様?」
「何を言って……」

 偽ウロボロスは絶句した。カルマは2人いるのだと思ったのだろうが、残念ながら、そんな生温い状況ではない。なぜなら逆鱗に触れてしまったから。ただ勝つのではなく、本気でなぶり殺しに来ている以上、2人で済むはずがないではないか。10人、100人と、次々と、合計で1000人も空中に、地上に、周囲に現れる。

「これこれ、道化。もう化けの皮が剥がれておるぞ?」

 一体、どのカルマが言った言葉なのだろう。もはや偽ウロボロスはおろか、後ろで見ている如月すらわからない。ともすると、本物のカルマすら把握できないかもしれない。そのくらいこの戦場はびっしりとカルマたちで埋め尽くされており、その一言を皮切りに、クスクスと嘲笑が広がっていく。

「だ、黙りなさい! 貴女こそ、こんな不可解なことをしでかして! 一体、何をしたというのですか!?」
「よい、よいぞ。最高の褒め言葉として受け取るのじゃ」

 まだ偽ウロボロスはカルマたちに気を取られ、気付いていなかった。先ほどの攻防は制したのではなく、ただ弄ばれていただけだということを。それさえきちんと理解していれば、ここで逃げるという選択肢もあっただろうに。そうすれば生き延びられたかもしれないのに。
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