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第1章 偽りの騎士
第13話 ウロボロスとカルマの 1
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ぽたり、ぽたりと、しっとりとした髪や顎先から汗が垂れている。まるでシャワーを頭から浴びたように汗でずぶ濡れだ。一体、どのくらい続ければこんな状態になるのだろう。だが、本人はまだまだ満足できないらしい。荒い吐息も、振り乱れる自慢の髪も気にする素振りはなく、黙々と、一心不乱に槍を振り続ける。
「精が出るのう、ウロボロス」
そんな闘技場の一角の出来事。それに口を挟もうと決めたのはカルマだった。なぜなら、一度倒れたというのにまだ無理を続けるのかと思うと面白いはずがなく、こうして声をかけたのである。
「……カルマですか。そう心配せずとも大丈夫ですよ」
「ほほぉ、具体的に、何がどう大丈夫なのか説明して貰おうかのう?」
大丈夫だ、それは前回も聞いている。その結果を考えれば、どうして素直に引き下がれるだろう。カルマはもう二度とご免なのだ、あんな悲しい事は。あんな悔しい思いは。だからここは頑として譲らない。しかし同時に、ウロボロスのことを信じてもいる。何かしら考えがあるはずだと、心のどこかで信じている。だから何も聞かずに首根っこを掴んで引きずってでも連れて帰る、というようなことをせず、強い口調ではあるがこうして尋ねているのである。
「そ、そろそろ終わりにしようとしていましたから」
「ワシの目を見て言えぬのか?」
気まずそうに、明らかに視線を右へ外しながら、ウロボロスはそんなことを言った。というのも、ウロボロスにとってこれはとても大切な鍛錬だ。この世界に来てからというもの、ここまで寝食を削ってでも会得したいと願うものは無い程に。
しかし、だ。そうは問屋が卸さないともウロボロスはよく理解している。報告の形ではあるものの、アザレアから、カルマがどれほど心配していたのか聞かされていた。だからこうして槍を振るっていれば、その内、カルマに止められるかもしれないな、と、漠然と予想していたのだ。
ただ、そうは言っても言い訳まで考える余裕は無かった。見ろ、今の状態を。手を止めてもなお足下に水溜まりができるくらい、汗が噴き出して止まらない。トレーニング用に着ているシャツもぐっちょりと濡れていて、肌に吸い付いてしまっている。そのくらい集中していたのだ。
「はぁ……ではせめて、一体どういう風の吹き回しで鍛錬を始めたのか話してみるのじゃ」
この取り繕う嘘すら上手く吐けない性格もまたウロボロスの良さではある。そうカルマは理解しているからこそ、悪態ではなく盛大な溜め息を吐くに留めた。そして問う。なぜ鍛錬するのかと。これは純粋な疑問でもあった。
確かにウロボロスは敗れた。しかしその原因は寝不足。これは誰がどう見ても明らか。コンディションが万全だったなら、万が一にも敗北はあり得なかっただろう。仮にもっと劣悪な勝敗条件だったとしても負けはない。それくらいの隔絶した基本スペックの違いがあるのだから。敗北を悔やむのならば槍を振るうのではなく、とにかく睡眠時間を確保するべきではないのか。それがカルマの考えであった。
「そうですね……理由を説明する前に、なぜ私が敗北したのか。その原因について話さなければなりませんね」
「何を言っておる? 単なる寝不足じゃろうが。きちんと睡眠時間を確保しておれば負けはあるまい」
「それはそうかもしれませんが……」
ウロボロスは顎に手を当てて、少し悩む素振りを見せる。カルマの言うことは間違いではないと彼女自身も思っているからだ。そもそもの話、どうして敗北なんてあり得るだろう。ユウに育てて貰ったこの力をきちんと振るえてさえいれば赤子の手を捻るようなものだったろうに。
「……しかし全てではありません。あの一戦から、私はとても大切なことを学ばせて頂きましたから」
「ストップじゃ、ウロボロス」
この話は長くなると察し、ウロボロスの身を案じてカルマは一旦止めた。忘れてはいけない。ウロボロスは汗で濡れている。今はまだ槍を振るっていた熱が残っているのだろうが、いずれ冷えて凍えてしまうだろう。風邪を引いては大変だ。ここは一度、着替えるなり汗を拭くなりする方が先である。
「そうじゃ、タイムリミットはどうなっておる?」
つまり、ユウは何時頃に起きるのかという質問だ。倒れる前からそうだったが、ウロボロスはおおよその起床時間を予測し、それに合わせて勉強をしていた。いや、少しだけ訂正しよう。おおよその起床時間を予測した、なんてレベルではない。初回を除いてほぼ誤差無く予知していたのだ。具体的にどの程度の精度なのかは流石のカルマも知りたいとは思えないが、とにかく、その猶予に合わせてどうするか決めたいと考えていた。
「あと4時間といったところでしょうか」
タイムリミットまで残り4時間。その中には当然、ウロボロスが寝る時間も含まれる。今すぐに寝たとしても一般的な睡眠時間には満たないが、猶予は頑張って30分程度だろうか。いや、もっと少ないかもしれない。ウロボロスのことだ。きっとユウのベッドへ潜り込む前に、念のためにとか何とか言って、念入りに体を洗って行くだろう。そうでなくても汗だくなのだ。相応のシャワータイムは必要だ。
「では決まりじゃのう。行くぞ、ウロボロス」
「え、どこへ行くのですか?」
不思議がるウロボロスの手を強引に引っ張って、あ、いや。本当はステータス差があるから、いくらカルマが本気で引っ張ってもビクともしない。正確には手を引くような形で、闘技場から出てとある場所へと移動する。
「精が出るのう、ウロボロス」
そんな闘技場の一角の出来事。それに口を挟もうと決めたのはカルマだった。なぜなら、一度倒れたというのにまだ無理を続けるのかと思うと面白いはずがなく、こうして声をかけたのである。
「……カルマですか。そう心配せずとも大丈夫ですよ」
「ほほぉ、具体的に、何がどう大丈夫なのか説明して貰おうかのう?」
大丈夫だ、それは前回も聞いている。その結果を考えれば、どうして素直に引き下がれるだろう。カルマはもう二度とご免なのだ、あんな悲しい事は。あんな悔しい思いは。だからここは頑として譲らない。しかし同時に、ウロボロスのことを信じてもいる。何かしら考えがあるはずだと、心のどこかで信じている。だから何も聞かずに首根っこを掴んで引きずってでも連れて帰る、というようなことをせず、強い口調ではあるがこうして尋ねているのである。
「そ、そろそろ終わりにしようとしていましたから」
「ワシの目を見て言えぬのか?」
気まずそうに、明らかに視線を右へ外しながら、ウロボロスはそんなことを言った。というのも、ウロボロスにとってこれはとても大切な鍛錬だ。この世界に来てからというもの、ここまで寝食を削ってでも会得したいと願うものは無い程に。
しかし、だ。そうは問屋が卸さないともウロボロスはよく理解している。報告の形ではあるものの、アザレアから、カルマがどれほど心配していたのか聞かされていた。だからこうして槍を振るっていれば、その内、カルマに止められるかもしれないな、と、漠然と予想していたのだ。
ただ、そうは言っても言い訳まで考える余裕は無かった。見ろ、今の状態を。手を止めてもなお足下に水溜まりができるくらい、汗が噴き出して止まらない。トレーニング用に着ているシャツもぐっちょりと濡れていて、肌に吸い付いてしまっている。そのくらい集中していたのだ。
「はぁ……ではせめて、一体どういう風の吹き回しで鍛錬を始めたのか話してみるのじゃ」
この取り繕う嘘すら上手く吐けない性格もまたウロボロスの良さではある。そうカルマは理解しているからこそ、悪態ではなく盛大な溜め息を吐くに留めた。そして問う。なぜ鍛錬するのかと。これは純粋な疑問でもあった。
確かにウロボロスは敗れた。しかしその原因は寝不足。これは誰がどう見ても明らか。コンディションが万全だったなら、万が一にも敗北はあり得なかっただろう。仮にもっと劣悪な勝敗条件だったとしても負けはない。それくらいの隔絶した基本スペックの違いがあるのだから。敗北を悔やむのならば槍を振るうのではなく、とにかく睡眠時間を確保するべきではないのか。それがカルマの考えであった。
「そうですね……理由を説明する前に、なぜ私が敗北したのか。その原因について話さなければなりませんね」
「何を言っておる? 単なる寝不足じゃろうが。きちんと睡眠時間を確保しておれば負けはあるまい」
「それはそうかもしれませんが……」
ウロボロスは顎に手を当てて、少し悩む素振りを見せる。カルマの言うことは間違いではないと彼女自身も思っているからだ。そもそもの話、どうして敗北なんてあり得るだろう。ユウに育てて貰ったこの力をきちんと振るえてさえいれば赤子の手を捻るようなものだったろうに。
「……しかし全てではありません。あの一戦から、私はとても大切なことを学ばせて頂きましたから」
「ストップじゃ、ウロボロス」
この話は長くなると察し、ウロボロスの身を案じてカルマは一旦止めた。忘れてはいけない。ウロボロスは汗で濡れている。今はまだ槍を振るっていた熱が残っているのだろうが、いずれ冷えて凍えてしまうだろう。風邪を引いては大変だ。ここは一度、着替えるなり汗を拭くなりする方が先である。
「そうじゃ、タイムリミットはどうなっておる?」
つまり、ユウは何時頃に起きるのかという質問だ。倒れる前からそうだったが、ウロボロスはおおよその起床時間を予測し、それに合わせて勉強をしていた。いや、少しだけ訂正しよう。おおよその起床時間を予測した、なんてレベルではない。初回を除いてほぼ誤差無く予知していたのだ。具体的にどの程度の精度なのかは流石のカルマも知りたいとは思えないが、とにかく、その猶予に合わせてどうするか決めたいと考えていた。
「あと4時間といったところでしょうか」
タイムリミットまで残り4時間。その中には当然、ウロボロスが寝る時間も含まれる。今すぐに寝たとしても一般的な睡眠時間には満たないが、猶予は頑張って30分程度だろうか。いや、もっと少ないかもしれない。ウロボロスのことだ。きっとユウのベッドへ潜り込む前に、念のためにとか何とか言って、念入りに体を洗って行くだろう。そうでなくても汗だくなのだ。相応のシャワータイムは必要だ。
「では決まりじゃのう。行くぞ、ウロボロス」
「え、どこへ行くのですか?」
不思議がるウロボロスの手を強引に引っ張って、あ、いや。本当はステータス差があるから、いくらカルマが本気で引っ張ってもビクともしない。正確には手を引くような形で、闘技場から出てとある場所へと移動する。
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