魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第17話 再会 3

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 誰がどう見ても感動の再会以外の何物でもない。せっかくの機会だ。これといって危険も無さそうだし、ここは2人きりにしてあげるべきだろう。ウロボロスとカルマの肩を叩く。

「な、ウロボロス、カルマ。俺たちは外に出て――」
「――誰?」

 2人を伴って外へ出ようとして、思わず足を止めた。聞き間違いだろうか。いや、俺だけではない。ウロボロスも、カルマも、怪訝な顔付きへと変わった。そうだ。感動の対面のはずなのに、それにしては余りにも不適切な言葉がルーチェの口から吐かれた。

「違う……貴女はアデルじゃない……っ!」

 ルーチェは手を払って飛び退き、距離を取った。風の槍まで生成した。先ほどのアデルの反応、そしてこの明らかな敵対行動。アデルはルーチェをルーチェと認識し、ルーチェはアデルを別人と認識した。単なる人違いではない。なぜこうなってしまったのだろう。答えはほぼ決まっている。

「わ……私はアデルだよ? 成長して見違えたんじゃないの?」
「見違える? 成長しただけで? 笑わせないで。アデルとの絆はその程度じゃない!」

 アデルはグレーではない。黒。正真正銘の黒だ。そう断定した時、俺たちはアイコンタクトすら取らずに一斉に行動へ移った。俺とウロボロスはルーチェを守るように間へ割って入り、カルマはアデルの背後から捕縛にかかる。

「これとよく似た光景を知っておるぞ、タヌキめ」

 カルマの周囲から、ひと1人くらいなら楽々包み込めてしまう程の巨大な黒い手が現れ、標的を逃がすまいと掴みかかる。完全に意表を突いた形だ。大して抵抗されることも驚かれることもなく、ガッチリと捕らえてしまう。

「甘いですね」

 否。まさに手が完全にアデルを握り込もうとしたその時、キラリと、一筋の光が煌めいた。これは糸か。それに気が付いた次の瞬間、黒い手は粉々に切り刻まれて崩れ落ちてしまった。
 この攻撃は敵からのものではない。アデル自身が発せられたものでもない。そのことを、たぶんこの場にいる誰よりも俺が一番よくわかっていた。

「敵の性質を知る前に手を出すなど……。万が一にでも取り込まれれば、大変なことになりますよ?」

 緑色のショートヘアーにアクアマリン色の瞳、そして白と黒を基調としたオードソックスなメイド服。あいつはメイド長の神無月だ。その両手からは、きらりと光る白い糸が無数に伸びている。先ほどの攻撃は、つまりアデルを庇うように見えてならないあれは、神無月がやったことだった。

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません、魔王様。神無月、ここに」

 訳がわからない。アデルは黒のはずだろう。それを助けるなんて、ん、待てよ。神無月は取り込まれると言っていたな。取り込まれる。まさかとは思うが、あの人が溶け出す現象と何かしらの関係があるのだろうか。いや、いやいや、考えてもみろ。そもそもの話、俺はこれまで人が溶けると考えていた。でも、本当に溶けていたのだろうか。そう見せかけておいて、実際には何かに取り込まれていた可能性も無い訳ではない。

「まずは眼前の敵を排除致します」

 神無月は一礼すると一直線に駆け抜け、後ろ手にアデルを拘束し、床へと組み伏した。するとどうだろう。アデルの奴、先ほどまでの感傷的な雰囲気は一切消え失せて、狂気に満ちた笑顔を見せた。誰だ、あれは。あんな奴、俺は知らないぞ。カルマを見ると、知らないというように首を横に振るだけである。

「さぁ、御自慢の補食を見せてご覧なさいな。もっとも私に効けば、の話ですが」
「……なるほど、罠だったか。はは、そう簡単にはいかないか」

 言い終わるのとほぼ同時にアデルの体は溶け出し、ピンク色の液体へ変わって消えていく。
 捕食。神無月はそう言ったな。ならば次に狙われるのは。そう思った時には、既にウロボロスがシールドを全面展開してルーチェを守っていた。流石は頼りになる盾だ。指示を出すよりもずっと早く完璧な対応じゃないか。

「如月、任せました」
「畏まりました」

 いつからそこにいたのか、突然壁からヌゥっと現れた如月は、ピンク色の液体が床へ吸い込まれるように消えてしまう前に、そこへ魔法陣を展開した。あれは獲物を逃がさないための空間固定の魔法か。液体はそのまま浮かび上げられて球体となり、手のひらサイズの大きさまで圧縮される。

「捕獲完了致しました」
「ご苦労様。魔王様へ献上して」
「はい。魔王様、どうぞ」

 神無月もそうだが、メイドたちはえらく美人だ。如月は極めて日本人的な美しい人で、ぶっちゃけ超タイプである。何をされても笑顔で許してしまいそうなくらいタイプではあるが、こればっかりはどうぞって言われてもな。突然過ぎて理解が追い付かないし、第一それ敵だし。しかも受け取ったら害がありそうなんだけど。

「待ちなさい、神無月、如月。説明不足です、きちんと補足するように」

 そうだそうだ、と、珍しく全力でウロボロスを心の中で応援しながら返答を待つ。返答を待つ。待っているのだが、どういうつもりなのか、神無月も如月も、顔を見合わせて固まったまま微動だにしなくなる。もう少し待ってみると、揃って小首を傾げた後、こんな返しをしてきた。

「偉大なる魔王様ならば、説明など不要と思いますが?」

 え、何そのハードル上げ上げスタイル。最初から一貫して全くわからないんだけど。
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