96 / 176
第1章 偽りの騎士
第18話 解答 5
しおりを挟む
ルシファーからまず飛び出した言葉は、思わず耳を疑うようなことだった。
「まずはイース・ディードの総人口についてお話しましょう」
「人口……だと?」
そんなお勉強的な数値に何の意味があるのか。ルシファーは至って真面目そうなだけに、ふざけているのかどうか判断が付かない。とりあえず聞いてみるしかないか。本当に重大な内容に繋がっているのなら人口から続くことなんてタカが知れている。
「かつては数百万程の人間が暮らしていたようですが、近年は大変に減少傾向で、現在は……そうですね、いて2人程度なのですよ」
「そうか、総人口は2人……って、2人っ!? いやいや、アデルの村に何人いたと思っているんだ?」
これはまた、とんでもない数値が飛び出したものだ。2人って、俺の両脇にいてくれる人数と同数じゃないか。具体的な人数までは把握していないが、アデルの村の生き残りは少なく見積もっても50人はいたはず。仮にイース・ディードが死の荒野になっていたのだとしても、最低でも二桁はいくはずだろうに。
「先日、最後の間引きがなされました。覚えておいでですか? 聖リリス帝国四大将軍ロアと、その部下たちの末路を」
「それがなんだって……」
ふと、アザレアの報告を思い出す。アデルの村に被害はほぼ無かった。ほぼ、と言った。そう、いくらかは被害者が出ている。だが生き残りは確実にいる。では、残ったのはどんな人か。
皆、目が虚ろだった。無理もない、俺が村を吹き飛ばしたから。そう思っていた、これまでは。でもちょっと待てよ。ここに、さっきの弥生が首をはねた男性の情報を持ってくると、また違う見方ができるんじゃないか。
「まさか……嘘だろ?」
もっとよく思い返してみる。村人たちは家族と家、故郷を奪われた。それでも気丈に振る舞っていた。少しでも元の生活に近付けようと、どんなに辛くても文句ひとつ俺たちには言わず、そう、まるでさっきの人もどきのように人形のような表情をして。駄目だ。駄目だ、駄目だ。どうして悪い風に考える。いや、待て。逆に考えて何が悪い。アデルはグレーだった。あの怪現象と何らかの関係があると考えていたじゃないか。その線が繋がりかけているだけじゃないか。
――改めて、心より感謝します。ありがとうございました
俺が村を吹き飛ばしてしまった後、アデルはそう言って頭を下げてくれた。本当に頭を下げなくちゃいけないのは俺の方だったのに。あの時の言葉が、そして光景が蘇ってくる。
あぁ、そうか。俺はアデルをグレーにしていた。信じたかったんだ、アデルを。だからここまで現実を突き付けられてもなお、信じたいと思ってしまっているんだ。でも状況だけを冷静に、冷酷に見れば、どうしてグレーなんかに留めておけただろう。
「もうおわかりと思いますが、先程のモルモットさんは、アデル様の村にいた者の中から無作為に選びました。これでもう、おおよそのところは理解できたのではありませんか?」
アデルの村で暮らす人のほとんどはもう人間ではなかった。だから討伐隊が向けられた。それを俺は力でねじ伏せた。しかもロアの居場所も発見してしまって、結果、アデルにピンク色の液体にされた。筋が通っている。通ってしまった。
「それじゃあ……俺は……とんでもないことを……」
ロアたちの言っていたことは本当だった。人を溶かすという悪魔の所業を成す者を討つ。その戦い、俺ですらこう称するだろう。聖戦と。そう、聖戦だったのだ。ただの弱い者いじめではなく、世界のために、平和のためにと、死の恐怖と戦いながら剣を握っていた勇敢な戦士たちの偉大な討伐作戦。それを、俺は。
「誤解なさらないでください。ユウ様が介入されたお陰で事態は早く動きました。敵はユウ様を恐れ、あの手この手で排除を試みたのでしょう。ユウ様の前でロアたちを溶かし、アデルの偽物を作り、挙げ句の果てにはウロボロスの贋作まで用意しています」
「……そうか、偽ウロボロスの正体すら」
何だ、これは。何なんだ、この結果は。俺は正しいことをしたつもりでいたが、実際は、はは、正真正銘本物の魔王の所業をしていただけだった。人々の思いを踏みにじり、力で全てを屈服させ、容赦なく死をもたらす人でなし。正しかった。正しかったのか、周りの言っていたことは。
「我が君、失礼致します」
コツン、と額に何かが当たる。ウロボロスの顔がとても近くにあった。鼻と鼻が触れ合ってしまうくらい近くに。そして真正面から強く、強く抱き締められていた。そうか、おでこをくっ付けているのか、俺たちは。
「我が君には私が……いえ、私たちがおります」
「ウロ……ボロス……」
なんて幸せそうな笑顔なんだろう。見ているこっちまで嬉しい気持ちにさせてくれるような、そんな笑顔。そして、妙に懐かしいことを思い出させてくれる。
あぁ、そうだったな。何をまた弱気になっていたんだろう。もう何度も何度も乗り越えたつもりだったんだが、まだ足りなかったのか、はたまた甘えたかったらしい。決めたじゃないか、この世界に来るよりも前に。後悔はしないと。魔王と呼ばれて、罵られて、たくさんの攻撃を受けて、それでも絶対に後悔だけはしないと。そう何度も何度も言い聞かせてきたじゃないか。俺は魔王ユウ。力ずくでしか何も成せない存在だ。
それでも、見ろ、よく見ろ。目に焼き付けろ、この笑顔を。俺は守ったのだ。俺が守った笑顔なのだ。だからこそ、今、こうして俺もまた幸せな気持ちになれるんだ。だから後悔はしない。前だけを見て、これからも魔王としてやっていってやる。
「ありがとう、ウロボロス」
「私こそ、心よりありがとうございます、我が君」
もう大丈夫だ。取返しの付かないことをしてしまったのは事実だが、まだ守れる命はある。だから今は聞こう。ルシファーの話を。その上で行動に移すんだ。この力でもって、何としてもルーチェのことを守ってやりたい。
「悪かったな、ルシファー。話を続けてくれ」
「ユウ様……」
なぜか、ルシファーまで嬉しそうな顔をしている。おいおい、お前は関係ないだろう。むしろ逆。これじゃあウロボロスに俺を取られたと思っちゃうんじゃないのか。それがどうして嬉しそうなんだよ。俺を見た時と同じくらい頬を真っ赤に染めてさ。
「ユウ様のお陰で、あちらは次々と弱体化していきました。なぜならあのピンク色の液体は生命であり、兵器でもあったのです」
いけない。今は話に集中しなくては。
「まずはイース・ディードの総人口についてお話しましょう」
「人口……だと?」
そんなお勉強的な数値に何の意味があるのか。ルシファーは至って真面目そうなだけに、ふざけているのかどうか判断が付かない。とりあえず聞いてみるしかないか。本当に重大な内容に繋がっているのなら人口から続くことなんてタカが知れている。
「かつては数百万程の人間が暮らしていたようですが、近年は大変に減少傾向で、現在は……そうですね、いて2人程度なのですよ」
「そうか、総人口は2人……って、2人っ!? いやいや、アデルの村に何人いたと思っているんだ?」
これはまた、とんでもない数値が飛び出したものだ。2人って、俺の両脇にいてくれる人数と同数じゃないか。具体的な人数までは把握していないが、アデルの村の生き残りは少なく見積もっても50人はいたはず。仮にイース・ディードが死の荒野になっていたのだとしても、最低でも二桁はいくはずだろうに。
「先日、最後の間引きがなされました。覚えておいでですか? 聖リリス帝国四大将軍ロアと、その部下たちの末路を」
「それがなんだって……」
ふと、アザレアの報告を思い出す。アデルの村に被害はほぼ無かった。ほぼ、と言った。そう、いくらかは被害者が出ている。だが生き残りは確実にいる。では、残ったのはどんな人か。
皆、目が虚ろだった。無理もない、俺が村を吹き飛ばしたから。そう思っていた、これまでは。でもちょっと待てよ。ここに、さっきの弥生が首をはねた男性の情報を持ってくると、また違う見方ができるんじゃないか。
「まさか……嘘だろ?」
もっとよく思い返してみる。村人たちは家族と家、故郷を奪われた。それでも気丈に振る舞っていた。少しでも元の生活に近付けようと、どんなに辛くても文句ひとつ俺たちには言わず、そう、まるでさっきの人もどきのように人形のような表情をして。駄目だ。駄目だ、駄目だ。どうして悪い風に考える。いや、待て。逆に考えて何が悪い。アデルはグレーだった。あの怪現象と何らかの関係があると考えていたじゃないか。その線が繋がりかけているだけじゃないか。
――改めて、心より感謝します。ありがとうございました
俺が村を吹き飛ばしてしまった後、アデルはそう言って頭を下げてくれた。本当に頭を下げなくちゃいけないのは俺の方だったのに。あの時の言葉が、そして光景が蘇ってくる。
あぁ、そうか。俺はアデルをグレーにしていた。信じたかったんだ、アデルを。だからここまで現実を突き付けられてもなお、信じたいと思ってしまっているんだ。でも状況だけを冷静に、冷酷に見れば、どうしてグレーなんかに留めておけただろう。
「もうおわかりと思いますが、先程のモルモットさんは、アデル様の村にいた者の中から無作為に選びました。これでもう、おおよそのところは理解できたのではありませんか?」
アデルの村で暮らす人のほとんどはもう人間ではなかった。だから討伐隊が向けられた。それを俺は力でねじ伏せた。しかもロアの居場所も発見してしまって、結果、アデルにピンク色の液体にされた。筋が通っている。通ってしまった。
「それじゃあ……俺は……とんでもないことを……」
ロアたちの言っていたことは本当だった。人を溶かすという悪魔の所業を成す者を討つ。その戦い、俺ですらこう称するだろう。聖戦と。そう、聖戦だったのだ。ただの弱い者いじめではなく、世界のために、平和のためにと、死の恐怖と戦いながら剣を握っていた勇敢な戦士たちの偉大な討伐作戦。それを、俺は。
「誤解なさらないでください。ユウ様が介入されたお陰で事態は早く動きました。敵はユウ様を恐れ、あの手この手で排除を試みたのでしょう。ユウ様の前でロアたちを溶かし、アデルの偽物を作り、挙げ句の果てにはウロボロスの贋作まで用意しています」
「……そうか、偽ウロボロスの正体すら」
何だ、これは。何なんだ、この結果は。俺は正しいことをしたつもりでいたが、実際は、はは、正真正銘本物の魔王の所業をしていただけだった。人々の思いを踏みにじり、力で全てを屈服させ、容赦なく死をもたらす人でなし。正しかった。正しかったのか、周りの言っていたことは。
「我が君、失礼致します」
コツン、と額に何かが当たる。ウロボロスの顔がとても近くにあった。鼻と鼻が触れ合ってしまうくらい近くに。そして真正面から強く、強く抱き締められていた。そうか、おでこをくっ付けているのか、俺たちは。
「我が君には私が……いえ、私たちがおります」
「ウロ……ボロス……」
なんて幸せそうな笑顔なんだろう。見ているこっちまで嬉しい気持ちにさせてくれるような、そんな笑顔。そして、妙に懐かしいことを思い出させてくれる。
あぁ、そうだったな。何をまた弱気になっていたんだろう。もう何度も何度も乗り越えたつもりだったんだが、まだ足りなかったのか、はたまた甘えたかったらしい。決めたじゃないか、この世界に来るよりも前に。後悔はしないと。魔王と呼ばれて、罵られて、たくさんの攻撃を受けて、それでも絶対に後悔だけはしないと。そう何度も何度も言い聞かせてきたじゃないか。俺は魔王ユウ。力ずくでしか何も成せない存在だ。
それでも、見ろ、よく見ろ。目に焼き付けろ、この笑顔を。俺は守ったのだ。俺が守った笑顔なのだ。だからこそ、今、こうして俺もまた幸せな気持ちになれるんだ。だから後悔はしない。前だけを見て、これからも魔王としてやっていってやる。
「ありがとう、ウロボロス」
「私こそ、心よりありがとうございます、我が君」
もう大丈夫だ。取返しの付かないことをしてしまったのは事実だが、まだ守れる命はある。だから今は聞こう。ルシファーの話を。その上で行動に移すんだ。この力でもって、何としてもルーチェのことを守ってやりたい。
「悪かったな、ルシファー。話を続けてくれ」
「ユウ様……」
なぜか、ルシファーまで嬉しそうな顔をしている。おいおい、お前は関係ないだろう。むしろ逆。これじゃあウロボロスに俺を取られたと思っちゃうんじゃないのか。それがどうして嬉しそうなんだよ。俺を見た時と同じくらい頬を真っ赤に染めてさ。
「ユウ様のお陰で、あちらは次々と弱体化していきました。なぜならあのピンク色の液体は生命であり、兵器でもあったのです」
いけない。今は話に集中しなくては。
0
あなたにおすすめの小説
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる