魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第18話 解答 5

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 ルシファーからまず飛び出した言葉は、思わず耳を疑うようなことだった。

「まずはイース・ディードの総人口についてお話しましょう」
「人口……だと?」

 そんなお勉強的な数値に何の意味があるのか。ルシファーは至って真面目そうなだけに、ふざけているのかどうか判断が付かない。とりあえず聞いてみるしかないか。本当に重大な内容に繋がっているのなら人口から続くことなんてタカが知れている。

「かつては数百万程の人間が暮らしていたようですが、近年は大変に減少傾向で、現在は……そうですね、いて2人程度なのですよ」
「そうか、総人口は2人……って、2人っ!? いやいや、アデルの村に何人いたと思っているんだ?」

 これはまた、とんでもない数値が飛び出したものだ。2人って、俺の両脇にいてくれる人数と同数じゃないか。具体的な人数までは把握していないが、アデルの村の生き残りは少なく見積もっても50人はいたはず。仮にイース・ディードが死の荒野になっていたのだとしても、最低でも二桁はいくはずだろうに。

「先日、最後の間引きがなされました。覚えておいでですか? 聖リリス帝国四大将軍ロアと、その部下たちの末路を」
「それがなんだって……」

 ふと、アザレアの報告を思い出す。アデルの村に被害はほぼ無かった。ほぼ、と言った。そう、いくらかは被害者が出ている。だが生き残りは確実にいる。では、残ったのはどんな人か。
 皆、目が虚ろだった。無理もない、俺が村を吹き飛ばしたから。そう思っていた、これまでは。でもちょっと待てよ。ここに、さっきの弥生が首をはねた男性の情報を持ってくると、また違う見方ができるんじゃないか。

「まさか……嘘だろ?」

 もっとよく思い返してみる。村人たちは家族と家、故郷を奪われた。それでも気丈に振る舞っていた。少しでも元の生活に近付けようと、どんなに辛くても文句ひとつ俺たちには言わず、そう、まるでさっきの人もどきのように人形のような表情をして。駄目だ。駄目だ、駄目だ。どうして悪い風に考える。いや、待て。逆に考えて何が悪い。アデルはグレーだった。あの怪現象と何らかの関係があると考えていたじゃないか。その線が繋がりかけているだけじゃないか。

――改めて、心より感謝します。ありがとうございました

 俺が村を吹き飛ばしてしまった後、アデルはそう言って頭を下げてくれた。本当に頭を下げなくちゃいけないのは俺の方だったのに。あの時の言葉が、そして光景が蘇ってくる。
 あぁ、そうか。俺はアデルをグレーにしていた。信じたかったんだ、アデルを。だからここまで現実を突き付けられてもなお、信じたいと思ってしまっているんだ。でも状況だけを冷静に、冷酷に見れば、どうしてグレーなんかに留めておけただろう。

「もうおわかりと思いますが、先程のモルモットさんは、アデル様の村にいた者の中から無作為に選びました。これでもう、おおよそのところは理解できたのではありませんか?」

 アデルの村で暮らす人のほとんどはもう人間ではなかった。だから討伐隊が向けられた。それを俺は力でねじ伏せた。しかもロアの居場所も発見してしまって、結果、アデルにピンク色の液体にされた。筋が通っている。通ってしまった。

「それじゃあ……俺は……とんでもないことを……」

 ロアたちの言っていたことは本当だった。人を溶かすという悪魔の所業を成す者を討つ。その戦い、俺ですらこう称するだろう。聖戦と。そう、聖戦だったのだ。ただの弱い者いじめではなく、世界のために、平和のためにと、死の恐怖と戦いながら剣を握っていた勇敢な戦士たちの偉大な討伐作戦。それを、俺は。

「誤解なさらないでください。ユウ様が介入されたお陰で事態は早く動きました。敵はユウ様を恐れ、あの手この手で排除を試みたのでしょう。ユウ様の前でロアたちを溶かし、アデルの偽物を作り、挙げ句の果てにはウロボロスの贋作まで用意しています」
「……そうか、偽ウロボロスの正体すら」

 何だ、これは。何なんだ、この結果は。俺は正しいことをしたつもりでいたが、実際は、はは、正真正銘本物の魔王の所業をしていただけだった。人々の思いを踏みにじり、力で全てを屈服させ、容赦なく死をもたらす人でなし。正しかった。正しかったのか、周りの言っていたことは。

「我が君、失礼致します」

 コツン、と額に何かが当たる。ウロボロスの顔がとても近くにあった。鼻と鼻が触れ合ってしまうくらい近くに。そして真正面から強く、強く抱き締められていた。そうか、おでこをくっ付けているのか、俺たちは。

「我が君には私が……いえ、私たちがおります」
「ウロ……ボロス……」

 なんて幸せそうな笑顔なんだろう。見ているこっちまで嬉しい気持ちにさせてくれるような、そんな笑顔。そして、妙に懐かしいことを思い出させてくれる。
 あぁ、そうだったな。何をまた弱気になっていたんだろう。もう何度も何度も乗り越えたつもりだったんだが、まだ足りなかったのか、はたまた甘えたかったらしい。決めたじゃないか、この世界に来るよりも前に。後悔はしないと。魔王と呼ばれて、罵られて、たくさんの攻撃を受けて、それでも絶対に後悔だけはしないと。そう何度も何度も言い聞かせてきたじゃないか。俺は魔王ユウ。力ずくでしか何も成せない存在だ。
 それでも、見ろ、よく見ろ。目に焼き付けろ、この笑顔を。俺は守ったのだ。俺が守った笑顔なのだ。だからこそ、今、こうして俺もまた幸せな気持ちになれるんだ。だから後悔はしない。前だけを見て、これからも魔王としてやっていってやる。

「ありがとう、ウロボロス」
「私こそ、心よりありがとうございます、我が君」

 もう大丈夫だ。取返しの付かないことをしてしまったのは事実だが、まだ守れる命はある。だから今は聞こう。ルシファーの話を。その上で行動に移すんだ。この力でもって、何としてもルーチェのことを守ってやりたい。

「悪かったな、ルシファー。話を続けてくれ」
「ユウ様……」

 なぜか、ルシファーまで嬉しそうな顔をしている。おいおい、お前は関係ないだろう。むしろ逆。これじゃあウロボロスに俺を取られたと思っちゃうんじゃないのか。それがどうして嬉しそうなんだよ。俺を見た時と同じくらい頬を真っ赤に染めてさ。

「ユウ様のお陰で、あちらは次々と弱体化していきました。なぜならあのピンク色の液体は生命であり、兵器でもあったのです」

 いけない。今は話に集中しなくては。
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