魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第19話 ルーチェの過去、そして今 5

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 そううまくはいかせない。何がきても良いようにと、既に飛行魔法であるエアリアルの使用準備を整えていた。咄嗟に身を引いて距離を取る。

「おっと、それは浅はかですね!」

 その着地点で槍を構えていた敵にランスロットを投げて無力化する。この発言はロア様に向けたのではない。そこの騎士に言った言葉だった。ロア様はこんな稚拙な罠を張らない。自分自身の力で敵を討ち取る手段をいくつも持っているから。
 ほら、そうこうしている内に詠唱が完了したらしい。ロア様は右手を突き出した。するとレーザーのような赤い光が真っ直ぐに放たれる。

「ヒートレーザー……!」

 破壊力だけでなく瞬く間に敵を焼き切る火属性の上級魔法だ。本来、その詠唱時間は熟練の魔法師でも約20秒は要する。それをこんな短時間で放ってくるとは。
 思わず失笑してしまう。本当に、あの人は別格だと嬉しさすら感じていた。だが、こんなものでは終わらない。真骨頂はここからだろうから。

「エアリアル!」

 あえて空中へ逃げる。これは明かな悪手だ。空中には足場は無く、障害物すらない。格好の的になってしまい、逃げ場を放棄したも同然。だが、だからこそ相手の攻撃を誘えるというもの。

「流石はロア様ですが――」

 2発目のヒートレーザーがノータイムで放たれる。ノータイム、そう、詠唱一切無しで放たれた。なぜなら、ロア様にはダブル・キャストという天才的な才能が備わっている。
 これは一度の詠唱で2回魔法が使用可能というもので、ヒートレーザーのような上級魔法だろうと問答無用で2連射できてしまう。しかも2発目の発動タイミングを多少遅れされることもできるオマケ付き。
 これを処理せずして勝利はない。だからこそ飛んで誘ったのだ。ここが勝負どころ。運命の分かれ目。迫る高速の光へ真正面から突っ込んで行きながら、ランスロット3本をぶつける。激突。一瞬の閃光と耳をつんざくような音が発せられる。結果、相殺。こちらは更に加速。そのまま一直線に空中を駆け抜け、そして、

「――温いですね!」

 突き出されたハルバートもろとも、上段から力ずくで一刀両断。残りのランスロット4本全てを叩き付けることで強引にねじ伏せる。勝敗は決した。肩から腰にかけて綺麗に切り裂いて倒した。

「よし――っ!?」

 勝利の余韻に浸るつもりはなかった。強大な敵に勝ったものの、目的はその先にあったから。でも、ここにロア様の頭脳が加わっていたらまず間違いなく敗北していたのは事実だろう。そんな尊敬の念もあって、勝った、そう考えてしまった。だから反応が遅れた。遅れはしたが、動物的な、いわゆる本能的な行動を取ることができたらしい。そう、気が付くと飛び退いていたのだ。それもエアリアルを使っての全力後退。それが功を奏した。何が起こったのか理解するよりも早く、目の前は焼け野原になっていたのだ。

「ほぉ、よく避けたな」

 いや、芝生はそのままだ。騎士もどきだけが飲み込まれたのだ。あの日、何もかもを焼かれ尽くされた悪夢が、嫌でも思い出される光景が目の前に広がる。
 いや、正確には違う。何を恐れているんだ、私は。目の前で起きたことをそのまま表現すると、紫色の巨大な球体が全てを飲み込んで、同色の炎で焼き尽くした。ほら、あの日のそれとは全く違うじゃないか。

「今のは……魔法……なの?」

 それでも、どうしようもなく恐怖を感じてしまう。心臓が爆発するんじゃないかってくらい荒ぶっている。
 何度も戦場に立った。今まさに激戦をひとつ乗り越えたばかりだ。でも、こんなにも死を予感したのは始めてだ。 だって、魔法の権威と言ってもいいロア様の使う上級魔法は、先ほどのヒートレーザーだ。勿論あれ以外にも脅威的な魔法はあって、広範囲を殲滅するものもありはする。なんなら、多数の魔法師が協力して、それこそロア様に並びうる熟練した魔法師たちが集うことで初めて使えるレベルの魔法もありはする。だが、しかし。それすらあのレベルには到底及ばない。魔法をかじった程度の私でもわかってしまう隔絶した差があった。

「人形如きではお前には敵わぬらしいからな。私が直々に相手をしよう」

 無数の影が姿を現す。それらはさっきの騎士もどきとは別の、言うなればゾンビだった。腐敗した肉体。漂う異臭。騎士たちと比にならないくらい生気を持たない屍の群れだった。群れ。そう、そいつらはどんどん地中から這い出して来て視界をあっという間に覆い尽くしてしまう。
 これには思わず苦笑いしてしまう。あの化け物染みた魔法に加えて、ここでゾンビとは。絵本の中でしか見たことのない敵だけど、もしもその通りで、つまり死なない体だとすれば、こいつらを肉の壁にしてあの魔法の発動まで時間稼ぎされるだろう。今度こそ死んでしまうに違いない。
 だからどうしたというのか。やるしかない。やるしかないのだ。理由は明快。アデルがそこにいるんだから、

「いきます――!」

 恐怖に屈することなく、むしろ跳ね除けるように加速。ゾンビの群れに突っ込んで行く。速く、もっと速く。瞬く間に先頭集団と接敵。ランスロットを構えて、勢いを付けた渾身の一撃を容赦なくお見舞いする。そして発生させる。暴風を。人も家畜も家すらも、その強大な力で吹き飛ばしてしまうような、そんな圧倒的な力でゾンビたちを空中へ舞い上がらせる。

「エアリアル――っ!」

 この浮かび上がったゾンビたちはもはや敵であって敵ではない。なぜならゾンビは翼を持たず、地から足が離れれば成す術がない。今や盾と化した。
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