魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第22話 後日談 5

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 そんなどっちが主なのかわからなくなるやり取りを見たためか、またアデルとルーチェは笑った。

「大変なんですね、魔王様って」
「心中は察して余りあります。でもそこはほら、男の本懐とも言うじゃないですか」

 純粋に同情してくれているアデルとは違って、ルーチェはもう完全にからかいに来ている。そういえば初対面からその傾向はあったし、時々ウロボロスのことも弄っていたしな。今度は俺を弄るつもりか。でも、こういう痴情関係は初めてだからなのか、はたまたルーチェだからなのかわからないが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。

「魔王たるもの寄って来る女全てを幸せにするべき……ってか? 俺にできるのは今みたいに生き長らえさせるくらいだけど」
「要らぬ殺生は好まない……良いお話じゃないですか。聖人君主みたいで格好いいですよ」
「物は言い様って、この事かな」
「あはは、そうだと思いますよ」

 笑っている。そのはずなのにルーチェの心はここに無いように見えた。それに気付いた時、あぁ、そうかと納得した自分がいた。
 あの戦いからまだ数日。アデルのために生きてきて、その目的が達せられたんだ。燃え尽きてしまっても無理はない。俺もそうだった。オラクル杯で優勝して燃え尽きて、そこから新しい何かを始めるまで時間がかかってしまったから。でも俺の場合は幸運だった。皆を優勝させるのと同じくらい大切な仕事に出会えたから。ブラックだったけど。じゃあルーチェはといえばどうなるのだろう。

「ところで……お前さ、これからどうするんだ?」

 だから思わず聞いてしまった。心配で、ひょっとするとこのまま消えて無くなるんじゃないかって、そんなあり得ない不安すら覚えてしまう。だってルーチェの表情や体からは、かつてあったオーラのようなものが全く無くなってしまっていたから。

「そうですね、ちょっと簡単には答えが出ないと思います」
「そうか……そうだよな」

 ルーチェの顔をアデルが覗き込む。その表情は心配そうなもので、そして泣きそうな目をしていた。俺如きが気付いたんだ。大切な友達であるアデルがそのことに気付かないはずがない。

「……ねぇ、やっぱり聖リリス帝国に戻る?」
「ううん、それは無いって。大丈夫、私はずっとアデルと一緒にいるから」

 俺の知らないところで2人がどんな話をして、どんな結論を出したのかはわからない。でも俺ならば、ルーチェが輝いていられる場所は聖リリス帝国の聖天騎士団なのかもしれないと思ってしまう。それくらいルーチェの槍さばきは凄まじかった。そして何より、あれだけ騎士のことを罵っていた割には、ウロボロスとの一戦では清らかとしか言いようのない覚悟を見せてくれたのだから。目的と居場所。この2つを天秤にかけて話し合ってどう結論を出すのか。こればかりは俺には関与できる問題ではない。
 でもルーチェが強かったように、アデルもまたとても強い心の持ち主であることは間違いない。だからこそ2人の事は2人に任せておけば絶対に大丈夫。そんな確信があった。確信はある。ただそれは確実ではない。だからこそ心配性の俺は、余計なお節介なのだとわかりつつも提案してしまう。

「俺もさ、何か力になれる事があったら協力するよ。なんなら、2人一緒に俺の所に来てくれてもいいんだぞ?」
「気持ちだけ貰っておきます。これからのことは……そうですね、適当にイース・ディードを旅しながら決めようと思っています。アデルとあの人が守りたかったこの土地を、きちんと見てみたいから」
「私もルーチェに付いて行きます。だから魔王様、心配なさらずとも大丈夫ですよ」
「そうか……それがいいかもな」

 2人で旅をして新しい生きがいを探す。それは生半可なことじゃない気がする。昔、俺は1人では何も決められなかった。でも2人は違う。なぜなら2人だから。心から信頼し、命すら惜しまずかけられる友達なのだから。アデルとルーチェが一緒なら旅の中で何かを見付けられる。そう思える。

「もう、心配し過ぎですよ、魔王様。お父さんにでもなった気ですか? ねぇ、アデル?」
「本当です。私たち、そんなに頼りなく見えますか?」

 2人に揃って抗議されてしまう。顔に出てしまっていたんだろうか。個人的にはもう心配することはないんだって思えたばかりなんだけど。まだ足りなかったのだろうか。
 うーんと考えていると、ルーチェが軽く溜め息を吐いてから、神妙な面持ちになって教え諭してくれるように話し出す。

「放っておいても人は勝手に生きられますよ。だから大丈夫です。これまでたって、大概は何とかなってきたんですから。でも中には死んじゃう子もいます。かつて私がそうだったように、魔王様に助けられたように」
「私も同じです。私が助けられたように助かる子がここにはたくさんいます。だから今度こそ、正しい方法で力になりたいんです。それをこれから見付けていきます」
「そうか……本当に、余計なお世話だったな」
「本当ですよ、まったく。それに……」

 ルーチェはくるりと一回転して見せてくれた。何のつもりなのだろうと悩んでいると、自分の背中を指さす。示されて気付いた。無いのだ、槍が。

「私は自分勝手で、騎士を名乗りながら騎士なんかじゃありませんでした。だからすっぱり辞めました。私はもう騎士なんかじゃなくて、助けたい人の力になるただの女の子に戻るって決めたんです。申し訳ありませんが魔王様の力にはなれません。お誘い頂いても困ります」
「そうか。でもその方が、ルーチェらしい気がするよ」

 もう何も言うまい。何か思うのも無粋だ。黙って見送ろう。そう決意したところ、どういう訳かルーチェはまだ何か言い足りないらしい。最後にひとつだけと付け加えてから続ける。

「でも、また機会があれば叫んじゃいますから、その時は助けてください。魔王様……いえ、私の英雄様」
「もう、図々しいよ、ルーチェ」
「えー、別にいいでしょ」

 楽しそうに笑い合う2人の表情は、まるで憑き物が落ちたようにさっぱりとした可愛らしい女の子の笑顔だった。
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