魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

文字の大きさ
123 / 176
第2章 暁の竜神

第1話 朝は戦場 2

しおりを挟む
 それにしても、何がどう繋がればそんな超理論に発展したのか小一時間は問いつめたい。問いつめたいところ。しかし命の危機が迫っている今は別。まずは生き延びなければ。ポーションだ。まずは体力を回復して仕切り直したい。でも目の前で飲むのは無しだ。ウロボロスさんは俺を大変に心配して興奮しているのだから。

「し、しかし……! お辛そうで見ていられません……!」
「くっついても何も変わらないから」

 むしろ悪化する。皮一枚で繋がってくれたこの命、抱き付かれるのはおろか、腕を組まれただけでも失いかねない。危険だ。今のウロボロスは危険。いつものスキンシップでも待ち受けるのは問答無用の死。無垢な惨劇の幕が上がってしまう。
 助かったと気は抜くな。まだ安心なんてできない。慎重に。石橋を叩くように慎重にいこう。それにはまず、やはりその考えを紐解く必要がありそうだ。

「あのさ、どうしてそこでくっ付くことになるのか教えてくれないか? あぁ、嫌と言っているんじゃないぞ。ただ純粋に疑問に思ってさ」
「この世界の蔵書にて勉強しました。男女が裸で抱き合えば例え極寒の冬だろうと乗り切れると」
「あぁ、冬山で遭難した時のことか。まぁ確かに作り話の世界だろうな。それで?」
「私は考えました。なぜそのような言い回しをしたのかと。キーワードは極寒の冬。これはこの上なく困難な状況を表したのではないでしょうか」

 ふんふん、ここまでは間違いではなさそうだ。誰も助けに来ない。食べ物も暖も無い。そんな絶望的な状況で2人だけ。確かにどうしようもない場面だな。で、だ。そこからどんなねじれ方をすれば抱き着こうという発想になるんだろう。

「つまりどのような苦難、困難も裸で抱き合えば万事解決ということで……はっ!」

 目が雲ってやがる。理論がぴょんと大ジャンプしてやがる。どうしてそこで裸で抱き合うという部分にも疑問を持てなかったのか。そう突っ込みかけた、その時。体中に電流が走った感覚を覚えた。気付けたのだ。あのウロボロスとほぼ同時に、何を言わんとしたのかを。

「そ、そうです! 裸じゃないから効果がなかったのでは――!?」
「――あー、元気になった! ほら、こんなに元気!」

 考えるな、今は動け。元気一杯さをアピールして活路を開くしかないのだから。気分はヒーローのように勢い良くベッドから飛び起きる。着地の衝撃で体の中がシェイクされたような違和感に襲われるけど我慢だ。ここで元気に振る舞えなければ二度と立つこともできなくなる。

「いやー、ウロボロスと話をするとすぐに回復できるんだよな! 瞬間回復! 健康の秘訣! 百薬の長!」
「そ、そうなのですか? 先程より顔色が青くなって……いえ、白くなっていますが」
「美白のお肌に憧れてな! 夜な夜なパッドをしているんだ! 綺麗だろ?!」
「……そうですね、我が君はいつも凛々しいです! あぁ、惚れ直してしまいます!」

 よし、気合いと根性で難を乗り越えたぞ。まさに危機一髪だった。
 一息吐きたいところだが、まだ気を緩めてはならない。酸っぱい何かがこみ上げてくるのだ。ここで粗相しようものなら看病されてしまう。
 とにかくまずはポーションを、と本能的にウィンドウを操作しかけて止まる。ここでそんな物を取り出せば何かしらアクションを起こされるに違いない。駄目だ。頭が冬山のウロボロスの前でそれは駄目。ならば回復魔法で乗り切れば、いや、それも待て。この距離だ。魔法の反応を見た瞬間にウロボロスが飛び付いてくるかもしれない。命がかかっているんだ、甘い読みは死に直結する。
 そうなるとやはりポーションしかあるまい。ドミニオンズ時代を思い出せ。神速のウィンドウ使いと仲間内で言われた超絶テクニックがあれば、きっと勝機はあると信じろ。

「我が君、やはり顔色が優れないように見えます。何かお持ちしましょうか?」

 何も要らないから、あと少しの間でいいからこっちを見ないで欲しい。なんて言えるはずもなく、うん、待てよ。そうか、何も演技なんてしなくていい。ウロボロスがいない隙を突けばいいじゃないか。はは、どうして気が付かなかった。だが見過ごしはしなかったぞ。この千載一隅のチャンスを。

「そうだ、ウロボロス。コーヒーを一杯貰えないかな? 朝はやっぱりあれが欲しいんだよ」
「我が君が私のコーヒーを……! 少々お待ちください! 直ちにお持ち致します!」

 こんなにも晴れやかな気分でウロボロスを送り出すのは初めてかもしれない。いかん、頬を緩めるな。ゆっくりでいいぞと口にしてはいけない。見送ろう。努めて普段通りに。
 あれ、普段俺はどうやって見送っていただろうか。手を振ったか。そっちを見たか。いかん、思い出せない。いつも通りに振る舞うって難しい。落ち着け、何を演じようとしているんだ。わからないのなら、思うがままにした方がまだ自然というもの。頼む、感付いてくれるなよ。

「我が君がコーヒーを……っ!」

 心配は杞憂だった。ウロボロスは暴走機関車のように脇目も振らず走り去って行った。うん、いつものウロボロスだ。そうなると少しばかりミスをしたことになる。なにせ、こんな状態の俺が要望したんだ。超特急で用意してしまうだろう。一刻の猶予もない。早く回復しなければ。ささっと手早くアイテムストレージを操作して、さぁ、ポーションをと手に取った時だった。

「おはようございます、愛しの魔王様。あぁ、今日もお美し……おや、どうされましたか? 顔色が……」

 アザレアがやって来てしまった。なんて最悪なタイミング。予想だにしない伏兵。しかも一番嫌なウィークポイントを突かれた。つまり俺の顔を見て硬直された。心配もされた。これはもう完璧に気付かれたと考えた方がいい。何か上手い言い訳をしなければ。迅速かつ的確に。その間にウロボロスが戻って来たらアウトだ。

「あー……その、少し寝違えたらしい。悪いけど気分が優れない。急ぎの用事じゃなければまた今度にしてくれないか?」
「寝違えただけでそれほど体調を崩されるはずは……」
「現にこうなった。経過はどうあれ、これが事実だ。理解してくれ」

 だからさ、早くユーターンしてくれないかな。もしくは目を瞑ってくれないかな。さっさとポーションを飲みたいんだよ。と、待てよ。全く話が通じなくなるのはウロボロスだけだ。アザレアなら話せば多少はわかってくれる気がする。それに万が一パワー勝負になっても負けない。だからアザレアの前なら隠れる必要はない。寝違えたと言い張り続ければ納得してくれそうな雰囲気をこのままものにできれば勝ちなのではないか。

「……う」

 現実は甘くなかった。戦慄した。足音がする。軽い、とても軽やかな、まるでスキップでもしていそうな音がする。間違いない、奴だ。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...