魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第2章 暁の竜神

第2話 会議 3

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 全てが終わった時、辺りには灰塵が舞っていた。被害は会議室に留まらず、この一帯は瓦礫ひとつも残さず消失していた。勝敗はというと、カルマとアザレアは息を荒げながら膝を折っていた。完膚なきまでに徹底的に打ちのめされていたのである。思い出したくもないほど一方的な暴力であった。

「こ……この手の勝負はワシには向かんのう」
「まったく……僕も同じくさ」

 ボロボロの2人を見ながら、俺と隣にいたフェンリス、そして戦闘開始と同時に滑り込んできたムラクモは肩を寄せ合い、震えていた。シールドを張って何とか凌いでいたものの一歩間違えば巻き添えを食っていただろう。この焦土と化した光景が何よりもその危険を物語っている。

「ほぇぇ……ウロボロス、凄い……」

 ここでその感想が出てくるお前の方が凄いよ、フェンリス。しかも目がキラキラ輝いているし、よほど感動したんだろうな。戦うことが大好きなこいつは、こんな一方的な勝負でも血沸き肉躍るということか。

「わ、我が師匠で良かった……のだろうか」

 そうそう、それが素直な感想だよね、ムラクモ。やっぱり心の同志はお前だけだよ。ただ、ごめんな。何とも声をかけられないんだよ。全く言葉が出てこない。もう終わったはずなのに、目を閉じただけで瞼の裏に鮮明に見えちゃうんだ。さっきまでの暴力が。そのせいで、情けないけど恐過ぎて口がうまく動いてくれないんだ。
 この議論の覇者、ウロボロスがゆっくりとこちらに歩み寄って来る。一瞬、本気で殺されると恐怖した。それほどの凄みがあった。思わず縮こまりながらウロボロスを見上げると、どうやら鬼は去ったらしい。いつもの顔つきに戻っている。

「我が君、ペンを貸して頂けますか?」
「は……はい?」

 今気が付いたのだが、手元にはホワイトボードマーカーがあった。どうやら守りに入る直前に握り締めたらしい。こんなものでいいならいくらでも、と、震える手に必死に力を込めてどうにかペンを手渡す。
 受け取ったウロボロスはにこりと微笑むと、俺たちのシールド内にたまたまあって無事だったホワイトボードに何かを書き込む。

「コホン、では議論の結果、全会一致で我が君の秘書は永久に私、ウロボロスが務めます。以上」

 我が君の秘書は未来永劫ウロボロス。そんな一文がデカデカと書かれた。これが言論の弾圧というやつか。もしくは恐怖政治か。もう待ったをかけられる者はいない。全会一致、なるほど、確かに反対する者はいないだろう。極めて暴力的な理解の強要によって、満身創痍の俺たちはただこくりと頷くことしかできなかった。

「では、アザレア。次の議題を」

 次。あぁ、そういえば議題は2つあるとか言っていたっけ。でも待ってよ。ウロボロスさん。ひょっとしてまだ議論を続けるつもりなのか。この荒野と化したバトルフィールドで、白旗を振っている俺たちと言葉だけでやり取りをすると。はは、無理でしょ。いくらなんでもここは止めなくちゃ。

「あ、あの……ウロボロスさん? 本気なの?」
「何かご不満でしょうか、我が君?」
「えっと……不満……って程じゃないんだけど、こんな焼け野原で話し合いになる……かなぁ……なんて」

 こんなところで今やったってさ、議論という名の確認作業。いや、意思を矯正する作業でしかないから。
しかし、そんな思いはウロボロスに届いていないらしい。自分の巫女服が煤けてしまっていることを気にし出した。そして俺の服にも目を向けてくれる。

「ふむ……確かに、ここでは御召し物が汚れてしまいますね。配慮が足りず申し訳ありませんでした」

 服なんかどうでもいい。埃も塵もどうでもいいんだよ。圧倒的な力を見せ付けられた場所で、当の本人が、しかも事が済んだ直後に仕切るのが問題なんだよ。なんて恐くて言えないから、この好機を存分に活用できる別ルートから説得する。

「そ……そうそう! それにほら、何でか知らないけど皆も汚れたじゃない? ここは一度仕切り直すべきだと思うんだ」
「御言葉はごもっともで御座いますが、そうはいかない事情がありまして……。アザレア、説明を」
「は……はい」

 ヨロヨロとアザレアは立ち上がる。まるで必死に逃げ帰った手負いの兵士が、死ぬ直前に何とか報告するような感じで、声を振り絞ってくれる。あれ、おかしいな。そんな必死な姿を見ていると、自然と敬礼しそうになるんだけど。

「こ……紅竜同盟からの使者がやって来たので……その対応の……検討を……!」
「よく務めを果たしましたね、アザレア」

 そしてそのまま、アザレアは眠るように倒れてしまった。でもごめんね、感動はどっかいっちゃったよ。紅竜同盟の使者、だと。
 時計を見る。恐らくその使者なる奴らは、アザレアが俺の部屋にやって来る少し前に訪れてきたのだろう。逆算していくと、何度計算しても、少なく見積もっても2時間半は待たせていることになるんだが。

「え……えっと……紅竜同盟の使者って?」
「アザレアに代わり補足致します、我が君。サウス・グリード領……つまり、聖リリス帝国の南側に当たる地域ですが、ここの管理を任された者たちです。元は紅竜帝国と言い、現在のサウス・グリードを支配していた王族ですね」
「ふーん……そっかぁ……」

 そんな大変な人を待たせて俺たちは何をやっていたんだろうなぁ。それにさ、見てよ周りを。よく拓けたでしょう。この平面上に待合室があったら、骨ひとつ残さず、問答無用で殺しているんじゃないかなぁ。

「あのー、魔王様ー! 大丈夫ですか?」
「待つのだ、フェンリス。魔王様は塾考しておられる」
「んー……でも、それにしては変な風に笑っている気もするけど……」

 い、いけない。如何なる状況であろうとも可能性は常に残されている。確認。そうだ、まずは生存確認をしなければ。そしてもし生きているならば、相手は重要な客人だ。これ以上待たせる訳にはいかない。急がないと。とにかく急がないと。

「ま、待たせ過ぎた! ウロボロス、すぐに体を綺麗にして来い! とりあえず2人で様子を見に行くぞ!」
「畏まりました、秘書としての務めを果たしますね!」
「何でもいいから早くな! 残りのメンバーはここの片付けを!」

 希望を捨てるな。ワンチャン、ゼルエルが守ったかもしれない。もしくは滅茶苦茶強い人たちが来ていて自力で何とかしたかも。いや、それはいくらなんでも苦しいかも。見える範囲内には何も残っていないし。とにかく考えるのは後だ。まずは現実を直視しに行こう。
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