魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第2章 暁の竜神

第4話 竜神祭 前編 4

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「魔王様! あっちにゲームができるお店がありますよ!」

 完全に祭りを楽しむ気だな、フェンリスは。これは紅竜同盟の力を把握するための潜入調査なのに。なんて、もはや俺ですら、どの口が言うのか状態だ。むしろ歓迎。歓喜。厳粛な儀式的などではなく思い切り盛り上がっても良さそうだから。

「魔王様! 早く行きましょう!」
「フェンリス、余り我が君を困らせてはなりません」

 貴女も大概ですけどね。今だって妙に密着し過ぎな腕組みをしているし、事あるごとに冷や汗が出るくらい痛くされるし、たまに折れるし。ただ、今回ばかりはメリットもある。傍から見ればリア充爆発しろ状態なんだろう。ほら、道行く竜人の男たちが俺を睨んでいる。今だけは悪い気がしないのだから、思う存分この状況ごと楽しませて貰おう。

「まぁ、いいか。折角の祭りだ。まずは遊んで、それから腹ごしらえって感じで」
「やった! まずはここなんてどうですか!?」

 フェンリスが見付けた屋台は射的の店だった。赤い布が敷かれた段々になっている棚に、大小様々な人形やお菓子、おもちゃが並んでいる。他の客を見た感じ、景品そのものを落としたら貰えるシステムらしい。
 この手の店は悪徳商売している所もあるが、小さい箱菓子やらおもちゃやらはポロポロ落ちているようだ。特別大きい景品は極めて難しいだろうが欲を張らなければ十分楽しめそうである。

「へぇ、見たことの無いアイテムが並んでいるねぇ。魔王様、僕もやっていいですか?」
「あぁ、別にいいぞ」

 アザレアが興味を示すとは。少し驚いたが、よく考えれば当然か。多彩なアイテムの錬成のため、値段や価値など関係なく、未知のアイテムには目が無いのだろう。今まで見たことがないほどに目を輝かせている。
 今回ばかりは応援しちゃおうかな。更に効果的なアイテムを作る助けになるなら万々歳だし、方向性は全く違うが、俺もこういうちゃちなおもちゃには心惹かれているのだ。水鉄砲とかベーゴマとか少し欲しいもん。もし色々取れたら後で見せて貰おう。

「おじさん、2人分をお願いします」

 お金を出すと、竜人のおじさんはギロリとこちらを睨む。一瞬で好感が持てない店になった。でもあれ、と、チラリと隣のウロボロスを見る。何ともないようだ。事あるごとに俺を守ろうと躍起になるのに黙っている。つまり俺に敵意や悪意は向いていないらしい。じゃあこのおじさんはただ人相が悪いだけのようだ。

「はいよ。念のため言っておくが、魔法は禁止だからね?」

 とても低いやや枯れた声である。鋭い目付きも相まってただただ恐ろしい。恐ろしいが口調は穏やかだ。根は優しいのかもしれない。うーん、人を外見で判断しちゃいけないな。

「わ……わかっています。ほら、フェンリス、それにアザレア」

 何はともあれ、快くやらせてくれるらしい。2人に火縄銃のような玩具の銃と、コルクの弾をそれぞれ5発ずつ渡す。

「ありがとうございます!」
「頂きます、魔王様」

 フェンリスはまるでそれら自体が景品かのように大切そうに胸に抱えた。うむ、やっぱり天使だ。頼まれれば何でもしてあげたくなってしまう。
 一方でアザレアもまた目を輝かせている。いるのだが、やや不穏な空気だ。接合部や弾を発射する機構なんかをまじまじと観察している。放っておいたら解体してしまいそうな勢いだ。錬金術師の性なのだろうが、バラされたらたまらない。

「ふむ、文献で見たものと比較すると、これはオードソックスなタイプか。銃身がやや右に傾いている……なるほど、これを加味した微調整が必要か」
「あのさ、バラさないでくれよ?」
「わかっておりますとも、魔王様」 

 本当に大丈夫だろうか。その目はやると言って聞かない感じもするけど。
 パスンという音がする。見ると、フェンリスが少しだけ残念そうにしていた。待ちきれなかったのだろう。第一射が済んだようだが、何もゲットできなかったらしい。

「当たったのに落ちませんよ、我が君!」

 なぜか見ていただけのウロボロスの方がずっと悔しそうにして、俺の腕を揺すってくる。聞けば、狙いはどうやら両手に抱えないと持てないくらい大きな犬のぬいぐるみらしい。つぶらな瞳をしていて、口の端から少し出ている舌がキュートだ。ただその見た目とは裏腹にボス的な存在なのだろう。棚の一番の上の中央に鎮座していて、あれひとつだけが飛び抜けて大きい。

「なぜなのですか! 真ん中に当たったのに落ちないなんて、こんなことあるんですか!?」
「ほら、当たり所ってあるだろ? 重心とかでも変わるし」
「な、なるほど、流石は我が君です。では、どこを狙えば良かったのですか?」

 どこ、と言われてもなぁ。念のためもう一度見てみるが、やはり景品の中で一番大きい。いかにぬいぐるみでも相応の重さがあるだろう。射的の弾じゃまずビクともしないんじゃないか。実際、一発は当たったらしいのだが、ビシッと真っすぐ前を向いたままだし。つまるところ、その、あれに限っては取れない景品じゃないかな。なんて、こんなところじゃ言えないし、でもウロボロスは引かなそうだし。どうしたものかと悩んでいると、ずっと黙って目標を見据えていたフェンリスが口を開いた。

「大丈夫ですよ、魔王様。あと10発追加で頂けませんか?」

 こんな目に見えたボッタクリ商売にそんな大金を、と思ったけど、そんなに欲しいなら後には引けないよな。その気持ち、ガチャゲーで何度も泣いた俺には何となくわかる。これも社会勉強。とことん付き合わせて貰おう。

「おじさん、弾の追加をお願いします」
「あいよ、頑張りな」

 複雑そうな顔で弾を渡される。くそ、鴨と思われつつ心配までされたってところか。わかっている。これが無謀だってことくらい。温かく見守ってくれ、おじさん。これはフェンリスの勉強代だ。
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