魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

文字の大きさ
144 / 176
第2章 暁の竜神

第5話 竜神祭 後編 5

しおりを挟む


「ここ、サウス・グリードには竜神が眠ると言われています。竜神。その御力は世界最強と謳われており、事実、古文書に記される歴史の分岐点……つまり、如何なる災厄さえも跳ね除けられており、唯一無二の神として崇拝されています。その鱗は燃え上がるような紅色で、畏怖の念を込めて、古来より紅竜同盟というものが結ばれてきました」
「なるほど……神様の元に集った同盟って事なのか」
「はい。竜神様の名の元に、我ら竜人は老若男女問わず集まり、絶対的な不可侵条約と協力関係を結んでいます。既に体感されたかと思いますが、竜人は隣人を決して裏切らず、貶めず、相互に助け合って生きています」

 既に体感。あぁ、もしかして屋台の話だろうか。相互に助け合うなんて、屋台同士で結託でもしているのか。例えば足りない材料を分け合ったりとか、フェンリスみたいな要注意人物の情報共有をしたりだとか、と思ったが、なるほど、考えてみればわかる部分もある。
 さっきの輪投げ屋を思い出せ。一体どこからあんなに扇風機を持って来たというんだ。その電力はどうしたんだ。俺たちは今日たまたまやって来た。突発的に起きた事態にも関わらず、余りにも対応が早い。そして妙に大がかりだった。その答えは恐らく、周りの家々から借りたのだろう。これまでの屋台だってそうだ。各々で随分と気合の入った妨害工作をしていたが、その準備を近隣住民たちと一緒にやったのだろう。そうなると、あのギャラリーのできる早さも頷ける。元の世界にあったSNS並みに早い情報拡散がなされていたんだろうから。

「なるほど、今思えば気味の悪い程に素早い対応だったかもな」
「そうです。良く言えば誰もが手を取り合える……そんなおとぎ話にしか思えない現実は、なぜ実現していると思いますか?」

 不思議な話だ。元の世界では特にそうだが、普通、近隣住民となんて協力できないぞ。そもそも隣にどんな人が住んでいるのかすら怪しいのに。竜人たちは全く違うのだろうか。いやいや、騙されるな。それはあり得ない。なぜなら、少なくともローレンとメグの思惑は大きく違っていたのだから。上がそうなのだから、皆仲良くなんて夢のまた夢のはず。それでもメイリンはそんなおとぎ話が実現していると言うつもりか。

「それは……気になるな。俺の知っている世界じゃ争いは絶えない。国家間、内紛といった規模に限らず、隣家の人とすら些細な事で揉める事も少なくない気がする。気心の知れているはずのウロボロスたちでさえ、俺が絡むと揉めてしまう」
「我が君、それは当然です! 大切なお嫁さんポジションが奪われようとしているのですから!」

 大切な話をしているというのに、これだけは聞き逃せまいと、ウロボロスが食ってかかってくる。無視して話を進めてもいいんだけど、当然と言い切られては困る。また甚大な被害を出されてはたまったものではない。しかし、藪蛇を突いてしまうと事態が悪化しかねない。慎重に言葉を選んで、努めて穏やかに諭してみる。

「あ……あのさ、そう思ってくれるのは嬉しいんだけど……」
「嬉しい……嬉しいと!? あぁ、遂に私の思いが届いたのですね! 結婚式ですか!? それとも子どもから!?」

 皆まで言わせて貰えないまま事態が悪化した。まずい。ウロボロスがこれでもかと腕に力を込めてきた。折れそうなくらい痛い。ていうか、ポキッと変な音がして、曲がっちゃいけない所がぐにゃりとしている。手遅れか。いっそここまでひと思いにされると、案外痛いだけで済むらしい。周りを観察する余裕さえある。カルマとアザレアが目に付いた。恨めしそうにこっちを見ている。ほら、もう冷戦が勃発した。こんな身近でも、こんなにも簡単に揉めるものだと証明できたと言っていい。涙をグッと堪えながら、心持ちドヤ顔でメイリンを見る。

「争いってすぐに起こるだろう? そ……それなのに、どうして手を取り合えると断言できる? 竜人たちだって全員がそうとは言えないと思うが?」

 別にその気は毛頭無かったけど、偶発的に起こった俺の捨て身の証明にすら微動だにせず、メイリンは涼しげな顔で話を続ける。

「絶対的な信仰対象……竜神様がいらっしゃいますから」

 竜神様、か。神輿に目を向ける。まだ全容はわからないけど、あの上に乗っている人の中にいるんだよな。その神様が。
 実際はどうあれ、仮にも神と名乗られては、どうしてもボスクラスの大きな体躯をイメージしてしまう。まして、如何なる災厄さえも跳ね除けるとまで言われているんだろうに。でも、そんな巨大な何かが収まっていそうな大きい収納スペース、もとい鎮座する場所は無さそうだ。俺たちと変わらない背丈なのだろうか。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...