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第2章 暁の竜神
第5話 竜神祭 後編 5
しおりを挟む「ここ、サウス・グリードには竜神が眠ると言われています。竜神。その御力は世界最強と謳われており、事実、古文書に記される歴史の分岐点……つまり、如何なる災厄さえも跳ね除けられており、唯一無二の神として崇拝されています。その鱗は燃え上がるような紅色で、畏怖の念を込めて、古来より紅竜同盟というものが結ばれてきました」
「なるほど……神様の元に集った同盟って事なのか」
「はい。竜神様の名の元に、我ら竜人は老若男女問わず集まり、絶対的な不可侵条約と協力関係を結んでいます。既に体感されたかと思いますが、竜人は隣人を決して裏切らず、貶めず、相互に助け合って生きています」
既に体感。あぁ、もしかして屋台の話だろうか。相互に助け合うなんて、屋台同士で結託でもしているのか。例えば足りない材料を分け合ったりとか、フェンリスみたいな要注意人物の情報共有をしたりだとか、と思ったが、なるほど、考えてみればわかる部分もある。
さっきの輪投げ屋を思い出せ。一体どこからあんなに扇風機を持って来たというんだ。その電力はどうしたんだ。俺たちは今日たまたまやって来た。突発的に起きた事態にも関わらず、余りにも対応が早い。そして妙に大がかりだった。その答えは恐らく、周りの家々から借りたのだろう。これまでの屋台だってそうだ。各々で随分と気合の入った妨害工作をしていたが、その準備を近隣住民たちと一緒にやったのだろう。そうなると、あのギャラリーのできる早さも頷ける。元の世界にあったSNS並みに早い情報拡散がなされていたんだろうから。
「なるほど、今思えば気味の悪い程に素早い対応だったかもな」
「そうです。良く言えば誰もが手を取り合える……そんなおとぎ話にしか思えない現実は、なぜ実現していると思いますか?」
不思議な話だ。元の世界では特にそうだが、普通、近隣住民となんて協力できないぞ。そもそも隣にどんな人が住んでいるのかすら怪しいのに。竜人たちは全く違うのだろうか。いやいや、騙されるな。それはあり得ない。なぜなら、少なくともローレンとメグの思惑は大きく違っていたのだから。上がそうなのだから、皆仲良くなんて夢のまた夢のはず。それでもメイリンはそんなおとぎ話が実現していると言うつもりか。
「それは……気になるな。俺の知っている世界じゃ争いは絶えない。国家間、内紛といった規模に限らず、隣家の人とすら些細な事で揉める事も少なくない気がする。気心の知れているはずのウロボロスたちでさえ、俺が絡むと揉めてしまう」
「我が君、それは当然です! 大切なお嫁さんポジションが奪われようとしているのですから!」
大切な話をしているというのに、これだけは聞き逃せまいと、ウロボロスが食ってかかってくる。無視して話を進めてもいいんだけど、当然と言い切られては困る。また甚大な被害を出されてはたまったものではない。しかし、藪蛇を突いてしまうと事態が悪化しかねない。慎重に言葉を選んで、努めて穏やかに諭してみる。
「あ……あのさ、そう思ってくれるのは嬉しいんだけど……」
「嬉しい……嬉しいと!? あぁ、遂に私の思いが届いたのですね! 結婚式ですか!? それとも子どもから!?」
皆まで言わせて貰えないまま事態が悪化した。まずい。ウロボロスがこれでもかと腕に力を込めてきた。折れそうなくらい痛い。ていうか、ポキッと変な音がして、曲がっちゃいけない所がぐにゃりとしている。手遅れか。いっそここまでひと思いにされると、案外痛いだけで済むらしい。周りを観察する余裕さえある。カルマとアザレアが目に付いた。恨めしそうにこっちを見ている。ほら、もう冷戦が勃発した。こんな身近でも、こんなにも簡単に揉めるものだと証明できたと言っていい。涙をグッと堪えながら、心持ちドヤ顔でメイリンを見る。
「争いってすぐに起こるだろう? そ……それなのに、どうして手を取り合えると断言できる? 竜人たちだって全員がそうとは言えないと思うが?」
別にその気は毛頭無かったけど、偶発的に起こった俺の捨て身の証明にすら微動だにせず、メイリンは涼しげな顔で話を続ける。
「絶対的な信仰対象……竜神様がいらっしゃいますから」
竜神様、か。神輿に目を向ける。まだ全容はわからないけど、あの上に乗っている人の中にいるんだよな。その神様が。
実際はどうあれ、仮にも神と名乗られては、どうしてもボスクラスの大きな体躯をイメージしてしまう。まして、如何なる災厄さえも跳ね除けるとまで言われているんだろうに。でも、そんな巨大な何かが収まっていそうな大きい収納スペース、もとい鎮座する場所は無さそうだ。俺たちと変わらない背丈なのだろうか。
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