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第2章 暁の竜神
第6話 2人の計画 1
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転移魔法はとても便利だ。歩くという無駄な時間を浪費しなくて済む。多少の魔力と煩わしさで、一体どれほどの時間を稼げるだろう。本当に、まったく頭が上がらない。
「ありがとうございます、魔王様」
僕、アザレアは転移魔法を使うことができない。だからこうして転移の指輪を装備している。これはドミニオンズ時代に魔王様から頂いた物だ。本当なら死ぬまで肌身離さず着けていたいのだが、装備枠がひとつ埋まってしまうため、泣く泣く必要時以外は外している。その付け替えが多少煩雑だと、そういう訳だ。
さて、そんな一分一秒を大切にしたい僕がわざわざ転移魔法でやって来たのは他でもない。僕の行動全ては基本的に魔王様のためにあるのだが、今回は特別である。
「カルマ、今少しいいかな?」
「……む、アザレアか。どうしたのじゃ?」
やって来たのはカルマの部屋だ。タイミングの悪いことに昼寝でもしていたのだろうか。ドアから覗かせてくれた顔はとても眠そうで、多少寝ぐせが付いてしまっている。次からはきちんと約束をしなくては、と自分に言い聞かせつつ中に入れて貰う。
「おやおや、これはまた随分と楽しんでいるようだね」
カルマの部屋は狙い通りというか、想像通りというか、美しい調度品がいくつも棚に並べられていた。そのほとんどがピカピカに磨き込まれているグラスであり、ワインセラーを覗き込んでみれば、注ぐに相応しそうな酒が数多く備えられている。それらが黒を基調とした家具にマッチしていて、モノトーンの大人な雰囲気を醸し出していた。
「うむ、この世界の嗜好品はとても興味深い物が多いのでのう」
突然の来訪でありながら文句ひとつ言わず、嫌そうな顔もせず、カルマは純白のカップをテーブルに並べて、赤みの混じったオレンジ色の紅茶を注ぐ。爽やかな香りが部屋いっぱいに広がる。
「もっとも今は昼間じゃ。紅茶と菓子を楽しんで欲しいのう」
「あぁ、そうだね。昼間から飲んだくれていては配下失格だ」
言いながらソファに腰を沈めると、紅茶の他に金色のカステラも提供してくれた。ありがたく一口かじる。とても甘いのに甘ったるさを感じない丁度良い味がした。それから紅茶をすするとこれまた美味しい。多少の苦みと果実のような甘さが強く、カステラととてもマッチしているように感じる。
「ふふ、気付いたかのう? カステラがこの紅茶にはとてもよく合うのじゃよ」
「ほほぉ、それはまた。一体どんな紅茶なんだい?」
「これは最高級クラスの紅茶、ダージリンじゃ。その中でもセカンドフラッシュと呼ばれる夏に収穫された物じゃよ。香り高さとフルーティさが特徴じゃな」
そういえばカルマは果実系の飲み物を特に好んでいる設定だったか。酒には詳しくないものの、あのボトルの中にもフルーティさのある物がたくさんあるのだろう。うん、とても素晴らしい。何もかもが僕の想像通りで助かるというものだ。
「して、今日はどうしたのじゃ? ワシとしてはこうしてティータイムを楽しむのも決して悪いとは思っておらぬが、お主がわざわざやって来たのじゃ。世間話という訳でもあるまい」
カルマもまたカップに口をつけて、ダージリンだったか。とにかく高い紅茶を楽しみながら対面のソファに腰かける。
その様子はとても気品溢れている。寝ぐせや寝起きの顔など全く気にならないほどに。きっとそれは夜に酒を楽しんでいたとしても同様の感想を持つのだろうと、確信を持ってしまうくらいだった。これまた助かる話である。
「あぁ、察しの通りだよ、カルマ。今日はお願いがあって来たんだ」
「お願い、とな? ふむ、ちょっと待っておれ」
何を想像したのだろうか。カルマは部屋の奥へと消えていくと、ごそごそと少しの間物音を立てて、すぐに戻って来る。その手には丸められた細長い紙が握られていて、テーブルの上に広げる。
「こ……これは……まさかっ!?」
「うむ、魔王様に献上する予定じゃった地図じゃよ。イース・ディード限定ではあるが、採取可能な物質まで全て把握しておる」
欲しい。喉から手が出るくらいってこういうことなのだろうか。あぁ、これがあれば物質変換作業を一部省略できるではないか。そうすれば素材準備の過程に割いてきた時間が大幅に短縮できるから、その分だけ加工や仕上げの試行回数に充てられる。もっともっとたくさんのアイテムを、装備を生み出せるじゃないか。
「さっき完成したばかりの出来立てホヤホヤじゃ。流石に原本は渡せぬが、コピーの方ならやるぞ?」
「い、いいのかい? これは魔王様への献上品じゃないのか?」
「まぁ、魔王様にだけお渡ししても巡り巡ってお主の所へいったじゃろう。万が一にもあり得ぬじゃろうが、仮にそうならなかったとしても、後でお主の所へ持って行く予定じゃったから気にするでない」
なんて嬉しい申し出だろう。これはありがたく頂戴して、さっさと作業に取りかからなくては。何をって。決まっている。この採取ポイントへ派遣するゴーレム部隊の編制だよ。多少稼働率は下がるものの、結果的に効率は上がる。早く戻ろう。そう思って立ち上がると、
「ふふ、そこまで喜ばれると頑張ったかいがあったのう」
カルマはしみじみとした顔をしながらそんなことを言った。あぁ、そうかと理解する。彼女が昼間だというのに寝てしまっていたのは、これを作るためだったのだろう。
「ありがとうございます、魔王様」
僕、アザレアは転移魔法を使うことができない。だからこうして転移の指輪を装備している。これはドミニオンズ時代に魔王様から頂いた物だ。本当なら死ぬまで肌身離さず着けていたいのだが、装備枠がひとつ埋まってしまうため、泣く泣く必要時以外は外している。その付け替えが多少煩雑だと、そういう訳だ。
さて、そんな一分一秒を大切にしたい僕がわざわざ転移魔法でやって来たのは他でもない。僕の行動全ては基本的に魔王様のためにあるのだが、今回は特別である。
「カルマ、今少しいいかな?」
「……む、アザレアか。どうしたのじゃ?」
やって来たのはカルマの部屋だ。タイミングの悪いことに昼寝でもしていたのだろうか。ドアから覗かせてくれた顔はとても眠そうで、多少寝ぐせが付いてしまっている。次からはきちんと約束をしなくては、と自分に言い聞かせつつ中に入れて貰う。
「おやおや、これはまた随分と楽しんでいるようだね」
カルマの部屋は狙い通りというか、想像通りというか、美しい調度品がいくつも棚に並べられていた。そのほとんどがピカピカに磨き込まれているグラスであり、ワインセラーを覗き込んでみれば、注ぐに相応しそうな酒が数多く備えられている。それらが黒を基調とした家具にマッチしていて、モノトーンの大人な雰囲気を醸し出していた。
「うむ、この世界の嗜好品はとても興味深い物が多いのでのう」
突然の来訪でありながら文句ひとつ言わず、嫌そうな顔もせず、カルマは純白のカップをテーブルに並べて、赤みの混じったオレンジ色の紅茶を注ぐ。爽やかな香りが部屋いっぱいに広がる。
「もっとも今は昼間じゃ。紅茶と菓子を楽しんで欲しいのう」
「あぁ、そうだね。昼間から飲んだくれていては配下失格だ」
言いながらソファに腰を沈めると、紅茶の他に金色のカステラも提供してくれた。ありがたく一口かじる。とても甘いのに甘ったるさを感じない丁度良い味がした。それから紅茶をすするとこれまた美味しい。多少の苦みと果実のような甘さが強く、カステラととてもマッチしているように感じる。
「ふふ、気付いたかのう? カステラがこの紅茶にはとてもよく合うのじゃよ」
「ほほぉ、それはまた。一体どんな紅茶なんだい?」
「これは最高級クラスの紅茶、ダージリンじゃ。その中でもセカンドフラッシュと呼ばれる夏に収穫された物じゃよ。香り高さとフルーティさが特徴じゃな」
そういえばカルマは果実系の飲み物を特に好んでいる設定だったか。酒には詳しくないものの、あのボトルの中にもフルーティさのある物がたくさんあるのだろう。うん、とても素晴らしい。何もかもが僕の想像通りで助かるというものだ。
「して、今日はどうしたのじゃ? ワシとしてはこうしてティータイムを楽しむのも決して悪いとは思っておらぬが、お主がわざわざやって来たのじゃ。世間話という訳でもあるまい」
カルマもまたカップに口をつけて、ダージリンだったか。とにかく高い紅茶を楽しみながら対面のソファに腰かける。
その様子はとても気品溢れている。寝ぐせや寝起きの顔など全く気にならないほどに。きっとそれは夜に酒を楽しんでいたとしても同様の感想を持つのだろうと、確信を持ってしまうくらいだった。これまた助かる話である。
「あぁ、察しの通りだよ、カルマ。今日はお願いがあって来たんだ」
「お願い、とな? ふむ、ちょっと待っておれ」
何を想像したのだろうか。カルマは部屋の奥へと消えていくと、ごそごそと少しの間物音を立てて、すぐに戻って来る。その手には丸められた細長い紙が握られていて、テーブルの上に広げる。
「こ……これは……まさかっ!?」
「うむ、魔王様に献上する予定じゃった地図じゃよ。イース・ディード限定ではあるが、採取可能な物質まで全て把握しておる」
欲しい。喉から手が出るくらいってこういうことなのだろうか。あぁ、これがあれば物質変換作業を一部省略できるではないか。そうすれば素材準備の過程に割いてきた時間が大幅に短縮できるから、その分だけ加工や仕上げの試行回数に充てられる。もっともっとたくさんのアイテムを、装備を生み出せるじゃないか。
「さっき完成したばかりの出来立てホヤホヤじゃ。流石に原本は渡せぬが、コピーの方ならやるぞ?」
「い、いいのかい? これは魔王様への献上品じゃないのか?」
「まぁ、魔王様にだけお渡ししても巡り巡ってお主の所へいったじゃろう。万が一にもあり得ぬじゃろうが、仮にそうならなかったとしても、後でお主の所へ持って行く予定じゃったから気にするでない」
なんて嬉しい申し出だろう。これはありがたく頂戴して、さっさと作業に取りかからなくては。何をって。決まっている。この採取ポイントへ派遣するゴーレム部隊の編制だよ。多少稼働率は下がるものの、結果的に効率は上がる。早く戻ろう。そう思って立ち上がると、
「ふふ、そこまで喜ばれると頑張ったかいがあったのう」
カルマはしみじみとした顔をしながらそんなことを言った。あぁ、そうかと理解する。彼女が昼間だというのに寝てしまっていたのは、これを作るためだったのだろう。
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