魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第2章 暁の竜神

第7話 紅竜同盟について情報収集 1

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 紅竜同盟が結成されたのは遥か昔。我こそ世界の覇者と名乗りし強者たちがひしめく群雄割拠の竜人たちを、たった1代でまとめ上げた伝説の竜人が現れた。
 竜人。なるほど、普段の姿はその通りだが、それは些か間違いであった。その者は有事の際には破壊の化身へと変貌し、歯向かう者全てを蹂躙し吸収し、全勢力の統一を成し遂げたのだ。彼と戦った者は口々にこう述べたという。あれは竜の中の竜、竜神だと。
 だが、彼は絶大な力を有する戦士ではあったが、王族ではなく、また自身にその器は無いと言った。その者を差し置いて他に誰が王位に就けるものか。そうして紅竜帝国ではなく同盟となり、王ではなくあくまでも代表として、彼は竜人を従えるようになったという。

「……と、大雑把に言うとこんな感じです。ルーチェ、何か付け足すことはある?」
「アデル以上に簡潔にはまとめられないってば」

 まだまだ紅竜同盟に関して疎い俺たちは、この世界の住人に話を聞くことにしていた。人間が溶け出すあの事件で知り合った2人、アデルとルーチェの住む家まで出向き、ウロボロスと話に耳を傾けている。窓から差し込む暖かな日の光が眩しい、長閑な昼下がりのことだった。
 大変に素敵なログハウス風の家で、一体いつの間に建てたのか、旅はどうしたのかと聞きたくなってしまったが今はやめておく。必要なことに時間を割くことに専念する。

「魔王様に恩返しできるまたと無い機会なんだよ?」

 突然の訪問だったが、アデルは快く受け入れてくれた。この部屋が一番日当たりが良くて気持ちがいいからと通され、実際その通りで、ポカポカ陽気の中で話を聞くことになっている。
 もてなされ方も凄まじい。扉を開けて貰い、椅子を引いて貰い、挙句の果てにはお茶を口まで運ばれそうになる始末。これは流石に、ウロボロスが全力で阻止したが。それもこれも、アデルが律儀というか、義理堅いというか、とにかく真面目な性格のためだ。こっちが委縮してしまう程の歓迎のされ具合である。

「んー……それはわかるんだけどねぇ」

 これには、流石のルーチェも苦笑いを隠せないのだろう。何ともいえない微妙な表情で、必死に熱弁するアデルを見守っていた。そこにこの唐突な振りである。困ったように頬をかきながら言葉を濁す。

「それなら、何か付け足してよ。何かしら知っているでしょ?」
「でも残念ながら、私は本当にお手上げ。勉学は苦手なんだよね」
「もう、仕方ないんだから……ごめんなさい、魔王様。私でよければ、何でも答えますから」
「あ、それは勿論、私も答えられることは喜んで。武器の扱い方とかに限りますけどね」

 ルーチェはともかく、アデルは色々と物を知っていそうだ。学者をやっていた父親の影響だろうか。部屋を見渡すと壁一面に本棚が置かれており、ギュウギュウに本が収まっていた。それでも足りないようで、床にも何冊か積まれている。そのどれもが年季の入った独特の古さを持っており、一度、二度で済まない程に読み込まれたのだろうと推察できる。まさに歩く図書館といった感じか。
 さて、何を聞こうか。歴史から成り立ちまでの概要は知ることができたものの、知りたいのは過去じゃなく、今だ。今。そうだな、まずはと考えていると、アデルはスッと立ち上がる。

「魔王様、お飲み物のお代わりを入れて来ます。コーヒーなどは如何でしょうか?」
「へぇ、コーヒーを淹れられるのか?」

 一瞬期待したものの、ウロボロスが淹れてくれるコーヒーを思い出すと、何とも言い難い。ただの黒い水よりはお茶の方がずっといい。でもここで断るのも変な話か。チラリと隣で腕組みをしているウロボロスに目を向けると、心底不思議そうにこちらを見ていた。コーヒーは俺の大好物だ。即答でお願いしないのはおかしい、そう思っているのだろう。
 それで、だ。そこから何がどう繋がったのかわからないが、ウロボロスは突然何かを閃いたらしい。急に頬を赤らめて、恥ずかしそうにし始める。見つめ合ったから、という訳ではあるまい。一体、何があった。

「アデル、コーヒーを2杯お願いします。我が君は遠慮されていますが、大好きなのですよ」
「そうなんですか! 少々、お待ちください!」

 あぁ、なるほど、遠慮ね。普通ならアデルに対してそう思うべきなんだろうけど、この反応、恐らく俺がウロボロスに遠慮したと思われたらしい。ほら、愛すべきフィアンセがいつも淹れてくれる身としては、即答でお願いしますとは言い難い気がしなくもないだろう。というか、そんなメルヘン的な妄想しか思い付かない。もしも他のことを思い描いていたとしたら、もう理解不能だ。

「あはは、相変わらず尻に敷かれているみたいですね?」

 パタパタと走って行ったアデルを見送ってから、今度は心底面白そうに、ルーチェが聞いてくる。これまでの行儀の良い姿勢はどこへやら、椅子の上で胡坐をかいて座り出す。

「何を言うのですか、私が一方的に尽くしているだけですよ」

 そうね、たまに殺されかける程度に尽くされていると思うよ。たぶんルーチェも似た風に思ったのだろう。これまた愉快そうに笑い出す。悪いが、俺は全面的に被害者だから素直には笑えないっての。
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