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第2章 暁の竜神
第7話 紅竜同盟について情報収集 2
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まったく、と少しだけ不愉快に思いつつも、ホッとしている自分もいた。ルーチェが幸せそうなのだ。そして、アデルの顔にも曇りが見られなかった。色々あったけど、こういう結果になってくれたなら、やはり俺も悪い気はしない。
「……本当に、感謝してもし切れません。まさか、こうして笑える日がまた来るなんて、思ってもいなかったです」
ポツリ、とうつむき加減にルーチェが呟く。日の光に反射して表情がよく見えないものの、もしかして、少しだけ寂しそうにしている、とか。まさかな。あれだけアデルを助けたいと言っていて、それが叶ったんだ。残念に思うことなんて何一つないはず。
「……もしかして、アデルのお父さんのことか?」
何も無い、訳がない。ルーチェを拾って育ててくれた、きっと本当の親以上に慕う人がいなくなったんだ。悲しくないはずがない。もしかしたらアデルの手前、悲しむ時間すら無かったのかもしれない。アデルが頑張っているのに自分だけが泣いてはいられない、と。
そんなやせ我慢をしているんじゃないかと聞いてみる。
「んー……たぶん正解です。アデルがあぁして乗り越えているんだから、私が泣いてちゃ世話ないですから」
「そうか……お前はどこまで献身的なんだよ。もう少し自分を大切にしろっての」
「それ、よくアデルにも言われますよ。あーあ、駄目だなぁ、私。アデルが助かってから、めっきりポーカーフェイスが苦手になっちゃって」
余りにも大人びていて忘れそうになるが、ルーチェはまだ16歳。多感な年頃だ。親の死なんて、そう簡単に乗り越えられるはずがないだろうに。でも、そこに踏み込むことは許されない。これはあくまでも2人の問題で、俺はただの部外者だ。命を助けた恩人になるのかもしれないけど、そういう繊細な部分に介入するのは要らないお節介だろう。
「本当に、鋭い癖に鈍感なんだか……よくわかりませんよ、魔王様は」
「おいおい、冗談よせよ。勘違いしちゃうだろうが」
なんて軽く言っているが、頼むから、それはマジで勘弁してくれ。ほら、伝わってくるだろう。隣から殺意のオーラがさ。ミシリ、と嫌な音が腕から聞こえる。冷や汗が噴き出してきた。くそ、お、折れちゃう。魔法ですぐに治せるからって、ポキポキ折るのはやめて欲しい、マジで。
「そ、そんなことより、アデルってば遅いなー」
必死に話を反らしてみるも、ウロボロスとルーチェは目と目で女の争いを繰り広げているらしかった。俺の腕がその苛烈さを教えてくれる。あかん、これ、あかんやつや。折れるどころか、粉々に握り潰されてしまうんですけど。ほら、見て。俺の腕。お肉ってさぁ、こんなに沈み込めるんだね。雑巾みたいに絞ればさ、赤黒い何かが滲み出てくるんだね。僕、知らなかった。知りたくもなかった。頼む、神様、アデル様、どうか直ちに御戻りを。そんな願いが通じたのか、救いの香り、いや、香ばしい匂いが漂ってくる。
「お待たせしました、魔王様……って、どうされましたか? 顔色が……」
「う、ううん、何でも……何でもないから、あの、できれば早くコーヒーを……まずはウロボロスに……」
そうすれば手を離してくれるんじゃないか、もしくは緩めてくれるんじゃないか。そんな微かな希望を胸にお願いして、そして後悔する。もっと冷静になるべきだった。俺がウロボロスに気遣いをしたらどうなるか。感激して、余計に力が籠って、はい、後はご想像にお任せ。
「我が君が私を優先してくださるとは……あぁ、これぞ、女の幸せというやつですね!」
「あー、悔しいなぁ。やっぱり魔王様にはウロボロスですか」
この、ルーチェめ。棒読みで言いやがって。見ろ、この左腕を。どうしてまだ繋がっているのかわからないくらい、服の下はぐちゃぐちゃなんだぞ。しかも、こうしてテンションが上がってしまったウロボロスは何をしでかすか全く予想付かなくなる。流石に首はねじ切られないとは思うが、肋骨が粉砕されるリスクは十分に考えられる。だからさ、これ以上は冗談抜きで命の危険があるからさ、二度と煽ってくれるなよ。そう涙目で訴えてみたが、届いたのかどうなのか。
それはともかくだ。無事な右手でコーヒーを受け取り、一口すする。濃い。いや、現実世界だと当たり前の味わいなんだけど、こっちに来てからはウロボロスの淹れた薄いやつしか飲んでいなかった。だから濃く感じて、美味しくて、つい味わってしまう。
「美味しいな……これ」
そして思わず呟いてしまい、ウロボロスさんがこれに反応する。俺の顔とコーヒーを交互に見比べながら、うんうん唸り出した。一体、何を悩んでいるのか。まぁ、平穏無事でいられるなら、いくら悩んでくれても大丈夫なんだけど。それにコーヒーに感動しちゃいられない。紅竜同盟について色々と聞かないと、と思った矢先、ウロボロスが俺を押し退けるようにして身を乗り出し、アデルに詰め寄る。
「私から質問しても宜しいでしょうか!?」
ウロボロスはガチャンと大きな音を立ててカップを置いた。立て付けがしっかりしているはずの丸テーブルまでも、ガタンと跳ねる程の衝撃である。カップの中身は噴水のように飛び出し、テーブルの上にこぼれてしまう。何があった、何ですか、その反応は。俺だけじゃない。アデルやルーチェまで呆気に取られている中、返答を待たずに、矢継ぎ早に言葉を投げつけ始める。
「このコーヒーは何ですか!?」
「……えっと、こ、コーヒー……で、ですか?」
まさかそこを突かれると思っていなかったのだろう。アデルは戸惑いながら、やっとそれだけ返していた。
「……本当に、感謝してもし切れません。まさか、こうして笑える日がまた来るなんて、思ってもいなかったです」
ポツリ、とうつむき加減にルーチェが呟く。日の光に反射して表情がよく見えないものの、もしかして、少しだけ寂しそうにしている、とか。まさかな。あれだけアデルを助けたいと言っていて、それが叶ったんだ。残念に思うことなんて何一つないはず。
「……もしかして、アデルのお父さんのことか?」
何も無い、訳がない。ルーチェを拾って育ててくれた、きっと本当の親以上に慕う人がいなくなったんだ。悲しくないはずがない。もしかしたらアデルの手前、悲しむ時間すら無かったのかもしれない。アデルが頑張っているのに自分だけが泣いてはいられない、と。
そんなやせ我慢をしているんじゃないかと聞いてみる。
「んー……たぶん正解です。アデルがあぁして乗り越えているんだから、私が泣いてちゃ世話ないですから」
「そうか……お前はどこまで献身的なんだよ。もう少し自分を大切にしろっての」
「それ、よくアデルにも言われますよ。あーあ、駄目だなぁ、私。アデルが助かってから、めっきりポーカーフェイスが苦手になっちゃって」
余りにも大人びていて忘れそうになるが、ルーチェはまだ16歳。多感な年頃だ。親の死なんて、そう簡単に乗り越えられるはずがないだろうに。でも、そこに踏み込むことは許されない。これはあくまでも2人の問題で、俺はただの部外者だ。命を助けた恩人になるのかもしれないけど、そういう繊細な部分に介入するのは要らないお節介だろう。
「本当に、鋭い癖に鈍感なんだか……よくわかりませんよ、魔王様は」
「おいおい、冗談よせよ。勘違いしちゃうだろうが」
なんて軽く言っているが、頼むから、それはマジで勘弁してくれ。ほら、伝わってくるだろう。隣から殺意のオーラがさ。ミシリ、と嫌な音が腕から聞こえる。冷や汗が噴き出してきた。くそ、お、折れちゃう。魔法ですぐに治せるからって、ポキポキ折るのはやめて欲しい、マジで。
「そ、そんなことより、アデルってば遅いなー」
必死に話を反らしてみるも、ウロボロスとルーチェは目と目で女の争いを繰り広げているらしかった。俺の腕がその苛烈さを教えてくれる。あかん、これ、あかんやつや。折れるどころか、粉々に握り潰されてしまうんですけど。ほら、見て。俺の腕。お肉ってさぁ、こんなに沈み込めるんだね。雑巾みたいに絞ればさ、赤黒い何かが滲み出てくるんだね。僕、知らなかった。知りたくもなかった。頼む、神様、アデル様、どうか直ちに御戻りを。そんな願いが通じたのか、救いの香り、いや、香ばしい匂いが漂ってくる。
「お待たせしました、魔王様……って、どうされましたか? 顔色が……」
「う、ううん、何でも……何でもないから、あの、できれば早くコーヒーを……まずはウロボロスに……」
そうすれば手を離してくれるんじゃないか、もしくは緩めてくれるんじゃないか。そんな微かな希望を胸にお願いして、そして後悔する。もっと冷静になるべきだった。俺がウロボロスに気遣いをしたらどうなるか。感激して、余計に力が籠って、はい、後はご想像にお任せ。
「我が君が私を優先してくださるとは……あぁ、これぞ、女の幸せというやつですね!」
「あー、悔しいなぁ。やっぱり魔王様にはウロボロスですか」
この、ルーチェめ。棒読みで言いやがって。見ろ、この左腕を。どうしてまだ繋がっているのかわからないくらい、服の下はぐちゃぐちゃなんだぞ。しかも、こうしてテンションが上がってしまったウロボロスは何をしでかすか全く予想付かなくなる。流石に首はねじ切られないとは思うが、肋骨が粉砕されるリスクは十分に考えられる。だからさ、これ以上は冗談抜きで命の危険があるからさ、二度と煽ってくれるなよ。そう涙目で訴えてみたが、届いたのかどうなのか。
それはともかくだ。無事な右手でコーヒーを受け取り、一口すする。濃い。いや、現実世界だと当たり前の味わいなんだけど、こっちに来てからはウロボロスの淹れた薄いやつしか飲んでいなかった。だから濃く感じて、美味しくて、つい味わってしまう。
「美味しいな……これ」
そして思わず呟いてしまい、ウロボロスさんがこれに反応する。俺の顔とコーヒーを交互に見比べながら、うんうん唸り出した。一体、何を悩んでいるのか。まぁ、平穏無事でいられるなら、いくら悩んでくれても大丈夫なんだけど。それにコーヒーに感動しちゃいられない。紅竜同盟について色々と聞かないと、と思った矢先、ウロボロスが俺を押し退けるようにして身を乗り出し、アデルに詰め寄る。
「私から質問しても宜しいでしょうか!?」
ウロボロスはガチャンと大きな音を立ててカップを置いた。立て付けがしっかりしているはずの丸テーブルまでも、ガタンと跳ねる程の衝撃である。カップの中身は噴水のように飛び出し、テーブルの上にこぼれてしまう。何があった、何ですか、その反応は。俺だけじゃない。アデルやルーチェまで呆気に取られている中、返答を待たずに、矢継ぎ早に言葉を投げつけ始める。
「このコーヒーは何ですか!?」
「……えっと、こ、コーヒー……で、ですか?」
まさかそこを突かれると思っていなかったのだろう。アデルは戸惑いながら、やっとそれだけ返していた。
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