魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

文字の大きさ
153 / 176
第2章 暁の竜神

第7話 紅竜同盟について情報収集 4

しおりを挟む
 凄い勢いでウロボロスが腕に組み付いてきた。腕に、それは違うな。もはや組み付きではなく、体当たり、攻撃的に表現するなら殺人タックルだ。子どもの頃に一度だけ車にはねられたことがあるけど、あれの比ではない。気が付いたら宙を舞っていて、痛みよりもまず空を飛んでいるような快感を味わえたあの時とは違い過ぎる。余りの衝撃に内蔵が全部動いたのがわかった。動いた、そんなソフトな話ではないな。叩き付けられた、とでも言おうか。とにかく、もはやリアクションすら取れない程の大打撃、そしてそこからの締め付け。もう体中の穴という穴から、色々な何かが自然と噴出した。

「ほ、ほら、我が君も泣いておられます! 私の愛があれば、他は何も要らないと言っているようなものです!」
「えー、本当かなぁ。痛くて涙ぐんだだけに見えたけど」
「そ、そのようなことはありません! ね、我が君!」

 え、何か言ったか。悪いな、ようやく意識だけでも帰って来たところだ。何が起きたのかも定かではないが、とりあえず全身が痛い。もの凄く痛い。涙やらよだれやらをまき散らしてしまう程で、あ、良かった。失禁はしていなかったようだ。
 それはそれとして、この惨状、間違いなく原因はウロボロスで、主犯格はルーチェだろう。くそ、こいつらやりたい放題やってくれやがって。でも抵抗しちゃいけない。既にウロボロスによってホールドされている以上、下手な刺激はそのまま命取りになる。ライフゲージはもうレッドゾーンだ。平時と違い、腕一本ならまだ、とか、そんな甘い寛容さはそのまま死に直結する。

「大丈夫、大丈夫だから。な、そんなに取り乱すなよ」
「うぅ……我が君……」

 あぁ、もう。どうして泣き出しちゃうかな、ウロボロスは。泣きたいのはこっちなんだけど。カルマやアザレアの時のように、暴走してすっきりさっぱりとはいかないのかよ。こんな風になっちゃうと調子が狂っちゃうじゃないか。どうやって収拾を付ければいいんだ、これ。どうしていいのかわからないけど、とりあえず、首謀者だけは思い切り睨み付けておく。今度ばかりはやり過ぎたと反省してくれたのか、ルーチェは少しだけ申し訳なさそうに、小さく頭を下げてきた。

「はー、ご馳走様でした。やっぱり、私が割って入る余地なんて無かったみたいだね。ほら、アデルも。いつまで本気にしてるのさ」
「わ、私は本気になんてなってないから!」
「あー……こりゃ重症かな。ごめんなさい、魔王様。アデルってば、恋愛経験が皆無だからどうしていいかわからないみたいです」
「そうかい、そうかい。胸に手を当ててもう一度、その台詞を言ってみろ」
「えへへ、バレました?」

 それはそうと、俺の心を読んだのか何なのか知らないけどさ、またウロボロスさんの手に力が入ってきた、今日はここらで退散するしかないか。

「ほら、ウロボロス。いつまで泣いているんだ。帰るぞ?」
「あぁ、そう怒らないでよ。代わりに、紅竜同盟に関する有意義な情報をあげるからさ」

 どういうつもりなのか、立ち上がってからルーチェはまだ話があると言う。これ以上おちょくられたくないが、そう何度もここに足を運ぶ時間も惜しい。命の危険、ウロボロスの機嫌といった懸念すべき点と有益かもしれない情報を天秤にかけながら、とりあえず座り直す。

「何を言っているんだ? お前は武器しか語れないんだろ?」

 そうだ、こいつは最初にそう言っていた。だから説明を全てアデルに任せて傍観し、良からぬ策略を巡らせていたんだろう。それなのに、いいだけかき乱しておきながら情報があるだと。にわかには信じられないところだ。
 でも今度ばかりは違う。そう思えるだけの目を、ルーチェはしていた。あれは以前見た事がある。アデルを助けるためにウロボロスと対峙した時と同じ、真剣な目付きだ。

「そ、武器の話。紅竜同盟の、ね。知りたくない? あいつらの主戦力やその部隊編成、隠し球なんかをさ」
「そりゃ……知りたいけど、なんでお前がそんなことを知っているんだ?」
「これでも元四大将軍だよ? 自国の保有する最大戦力なんだから、多少は知っていて当然じゃない?」

 自国。つまりそれは聖リリス帝国。その最大戦力と、他でもないルーチェが言うんだ。相応の力を、いやそんなレベルではなく、この世界で最強の軍事力を有しているのは確定だな。となれば当然、自分たちの力に自信を持っているだろうし、メグの言い分はどうあれ、交戦も視野に入れているに違いない。ついでに、ローレンのあの横柄振りの説明も付いてしまった。本気で紅竜同盟は負けないと信じて疑っていないからこその言動なのだと。

「ふふ、ここからは嘘なんて無し。私なりのお詫びと恩返しってところです」

 なるほど、アデルの説明も欲しかったが、すっかり失念していたよ。俺は、お前のような奴から情報を得たかった。お詫びと恩返しと言うのなら、とことん聞かせて貰おう。
 そのためにウロボロスを何とか宥めて、何とか一緒に話を聞く姿勢になる。何とかとは、こちらから優しく腕組みしてあげた。これで機嫌が直るなら安いものだ。ライフゲージはまだ真っ赤だけど、真面目になってくれれば変な力は入らない。恐らく大丈夫だろう。

「さて、まず大前提の確認から。紅竜同盟は、人間なんか比にならない身体能力を持つ竜人たちが集まった組織です。ただ、自分たちの力を過信するところがあって、凄く排他的なところですね」
「排他的……って言うと?」
「主に人間なんですけど、他種族を完全に見下しています。それもあって、聖リリス帝国に併合されたくせに、あいつらの部隊は部隊長から末端の兵士まで竜人だけで構成されているんです」
「なるほど、竜人だけの軍隊って訳か」

 言ってしまえば、エリートしか所属していない戦闘集団。プライドを持つなと言う方が難しいか。
メイリンの、他者と手を取り合わないといけないという言葉が思い出される。現状では無理ゲーにしか思えないが、あんな子もいるんだ。その全てが腐り切っている訳でもないんだろう。そう信じたい。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

処理中です...