魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第2章 暁の竜神

第8話 紅竜同盟の話し合い 2

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 2人が激しく火花を散らせる中、ナディアはゆっくりと、じっくりとローレンの目を見つめて観察していた。その心を。その真意までも。10秒ほどそうしていただろうか。ひとつの結論に達すると質問を投げかける。

「視野が狭い……そう言いましたね」
「はぁ、そこの親衛隊になら言いましたが」

 まさかナディアが割って入るとは思っていなかったのだろう。どこか気の抜けた返事をローレンは返した。それもそのはず。ナディアは代表だ。王ではない。そう度々公言し様々な提案はすれども、議論は勿論、こうした言い合いにすら滅多に水を差したことがなかったのだ。

「では貴方はどうなのです、ローレン。レヴィの持つ情報が全く不要と言い切るのは、それこそ愚かではありませんか」
「……なるほど、流石はナディア様。一理御座います。いいでしょう、聞いてみようではありませんか。もっとも時間の無駄に思えますが」

 数秒思案したように顎に手を当てた後、ローレンはふてぶてしい表情へと変わる。レヴィになど見向きもしない。真っすぐにナディアを見定めていた。これは明かに不遜な態度であり、とても上に立つ者の姿勢とはいえないだろう。
 ナディアは全く気にする素振りを見せない。無意味と知っているのだ。先のやり取りからここにいる者の多くは彼の息がかかっている。言い方が悪かったと謝罪を強要することはできても、それを理由に彼をどうこうすることなどできそうにない。ならば今はレヴィが語る機会を取り戻せただけで満足し、促した。
 そんな駆け引きがあったと何となく感じながらも、ローレンに対して言い様のない怒りを覚えているレヴィはその感情の抑制に必死だった。場を作って頂いたのだ。絶対にミスは許されない。そう自分に言い聞かせ、努めて淡々と説明を始める。

「先日、逆賊キダが滅びました。誠に喜ばしいことですが、代わりに新たな問題が発生しました。魔王の再来です。これに対して我々は魔王とその配下の情報収集を行いました。あれをお願いします」

 レヴィの指示で親衛隊が奥から急ぎ足で出て来てとある物を運び込む。この四角く前方にレンズが取り付けられた装置は立体映像器。プロジェクターのようなものだ。メモリーチップを入れれば空中に3D映像が浮かび上がる優れものである。
 機器が作動すると、部屋の中央にホログラムが浮かび上がる。灯りが落とされはっきりと見えるようになったそれは、茜色の鎧に身を包み、槍を構えたウロボロスだった。

「初めに、この者は竜人のウロボロス。魔王の配下のリーダーです。確認されている武装はこの槍ですが、解析班によると、これはこの世には存在し得ない程の武器とのこと。神がかり的に鋭利かつ頑丈な刃を持つとのことでした。実際、あのキダのシールドを一撃で粉砕しておりまして……」
「やはり下らない!」

 ローレンは声高らかに話を遮る。そしてこれ見よがしに深い溜め息を吐きながら立体映像器の前へと移動し、ナディアやレヴィではなく、話を聞かされていた竜人たちの方へと振り向いた。

「初めに、解析班を疑う訳ではない。問題はあの者が口にした情報だ。キダのシールドを一撃で砕いた? それは実際に見た者がいなければ語れない話だ。だが思い出して欲しい。あの時、イース・ディードに生存者はいなかったはず。ではなぜそんな目撃情報が得られる?」

 竜人たちがしきりに頷く中でも屈するレヴィではない。勿論腹の内ではムカムカしていたが、ここは公的な場。下手を踏むと追い出されて降格、最悪の場合除隊を迫られる可能性すらあり得る。ナディアの傍にいることが最優先な彼女にとってそれは致命傷とも言うべき痛手。
 いや、忘れるな。それだけではない。ローレンに主導権を渡しては世界が滅ぶと自分に言い聞かせることで感情を飲み込み、努めて冷静にレヴィは答える。

「あの激戦を戦い抜いた人間が1人います。その方から頂いた目撃情報と聞いていますが」
「ただの人間が生き延びた……? 笑わせるなっ!」

 これは周りをより引き込むための演技か本心か。ひょっとしたら胸の内で良からぬ算段を立てて実行中かもしれない。でも少なくともこの激怒、その怒りは本物だろう。そうレヴィにすら思わせる程にローレンは声を荒げていた。額に青筋を浮かび上がらせて唾を無遠慮にまき散らしてさえいる。

「思い出せ、我が同胞たちよ! あの逆賊に一体どれほど奴に辛酸を舐めさせられたのか!」

 ここにいる者の多くは5年前の大災厄で家族や仲間を大勢失っている。中には古郷すら奪われた者も少なくない。そんな彼らの希望を一身に受けて新兵器開発を任されたのがキダだ。竜人たちも協力を惜しまなかった。人間ながらに見上げたものだと口にする者も多かった。それが蓋を開けてみたらどうだ。もたらされたのは全く逆の絶望。偵察に出た部隊から始まり、いくつかのエース部隊は次々と行方不明になっていった。
 各々思うことは様々で、思い浮かべる光景は違うのだろうが、一様に歯ぎしりし、拳を震わせ、肩を震わせていた。

「……認めよう。悔しいが認めよう。奴の力は間違いなく本物の脅威であった。それは認めざるを得ない。しかし!」

 レヴィに厳しい視線が集まる。ローレンだけではなく煽られた竜人たちまでもが睨み付けていた。言ったから。あのキダが滅びた際、人間がそこにいたのだと口にしてしまったから。あり得ないし、あってはならないことだ。誇り高き竜人たちが屈した相手を前に人間如きが生き残ったなど。

「人間が目撃したなどと、よく大ぼら吹いてくれたな、レヴィ! よりにもよって亡き同胞たちを侮辱するつもりか!?」
「侮辱などしたつもりは……っ!」
「言い訳など聞きたくもない! 同胞たちを辱めた痴れ者が!」

 そうだ、恥を知れ、竜人の面汚しが。そんな暴言があちこちから飛び出し始め、もう言葉が届かなくなってしまう。こうなっては良くも悪くもナディアに推されてここに立つレヴィ自身に打つ手は無い。しかし一切隣に目を向けようとはしなかった。ナディアが一喝すればまず間違いなくこの場は収まるだろう。でもそれは駄目だ。それこそナディアの威を借りる小娘になってしまう。親衛隊の隊長を、そして未曽有の脅威についての説明を託された。それに自分だけの力で応えてなくてどうする。そう自分に言い聞かせて、レヴィは必死に打開策を探す。

「レヴィ、逆に聞こうか」

 そんな罵言雑言が飛び交う中、この事態を招いた張本人であるローレンによってまさかのチャンスが与えられた。この場に限り、レヴィの言葉は絶対に竜人たちに聞いて貰える。
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