魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第2章 暁の竜神

第10話 ユウとナディアの会談 3

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「よし……行くか。ウロボロス、念のためフル装備をしてくれ。いざとなったら俺を守って欲しい」
「はい、畏まりました」

 朱色の甲冑に身を包みつつ、腰の翼と尻尾を出した姿になる。これで元々高いウロボロスのステータスの内、防御を更に高めることができる。
 ドミニオンズ時代はこうして壁役を任せていた。俺の想定通りまで育ちきってからは、ただの一撃さえも通したことの無かった絶対無敵のエースである。グングニル改12も装備して貰って、これで完成だ。

「よし……行くか」

 俺も魔王の装備、黒いマントやらジャラジャラと装飾品を色々身に付けて、待たせているという応接間へ向かう。そして着く。
 この先だ。この扉の向こうにナディアがいる。さっさと開ければいいものを、両開きの取っ手を掴んだ手が、妙に強張ってうまく動いてくれない。緊張しているのか。自分の城だというのに、この扉がとても重々しく感じられた。

「我が君、どうされましたか?」
「あぁ……うん、何でもないよ」

 本当は何でもなくはない。この世界でこそ魔王を名乗っているが、俺はただの一般人だった。一方で、ナディアは紅竜同盟の代表者。元の世界でいえば、どこかの国の首相や国王なんかと同じだろう。いざ、そんな偉い人と会うとなれば緊張して何が悪い。むしろ逃げ出したい気持ちにすらなっている。
 ひとつ深呼吸する。そうだ、何を弱気になっている。俺は魔王として、この世界と向き合っていくと決めたじゃないか。この力は絶大らしい。今回のようには話し合いの機会を持てるならまだ良い。今後、いきなり寝首をかかれる可能性だってある。だからこそ、ウロボロスは寝ずの番をしてくれていた。今更怯えてどうする。もう債は投げた。引き返すことなどできはしない。

「……待たせたな、ウロボロス。行くぞ、念のため身構えろ」
「畏まりました」

 見ろ、このウロボロスの勇ましくも美しい姿を。俺は魔王として皆を助けたことを後悔していない。むしろ喜ばしくすら思っている。だからこそ俺はこの世界でも、俺の信じた道を進むだけだ。
 迷いは振り切った。グッと両手に力を込めて扉を開け放つ。中には、黒革のソファに3人が腰かけていた。メグ、竜人の戦士、そして、2人とは明らかに雰囲気の違う少女がソファに腰かけている。その顔には見覚えがあった。

「ふふ、またお会いしましたね」

 忘れもしない。竜神祭で語り部と名乗り、俺たちの前に現れたメイリンじゃないか。どうしてこんな所にいるのか。なんて、疑問に思う必要はない。あの竜人の戦士はナディアではないだろう。メグも当然違うとすれば、答えはひとつ。

「ナディア様、お知り合いなんですか?」

 この者こそ、現竜神のナディア。紅竜同盟の代表を務める者なのだろう。若いな、はっきり言って幼い。でも俺は既に見ている。この子が持つ独特のオーラを。あれはそうか、王者の風格だったらしい。
まったく、やってくれるよ。俺たちのファーストコンタクトは、きっと最高の形で済まされていた。

「いいえ、と答えることになるのでしょうね。その頃はメイリンと名乗っておりましたから」
「メイリン……って、まさか! お祭りの時に、魔王と会っていたんですか!?」
「積もる話はまた後で。今はもっと大切な話がありますから」

 どうやら身内にも秘密で色々とやっていたらしいな。あの竜人、きっと親衛隊か何かなんだろうに。
どうしたものか。向こうの護衛は見るからに1人。しかし軽装だ。護衛というより付き添いという感じがする。一方でこちらは完全武装だ。ウロボロスなんて、ここで突然戦いになっても何ら困らない状態である。
チラリと後ろを振り返り、目配せして武装を解除して貰う。どうやら、向こうは本気で話し合いをご所望らしいから。
 そんなこちらのやり取りにバッチリ気付いたのだろう。恐らくその意図にも。ナディアは意味ありげに微笑みつつ、鎧を脱いだウロボロスに軽く会釈してから、立ち上がって礼儀正しくお辞儀をした。

「改めて、初めまして。紅竜同盟の代表ナディア=イスパダールです。この度は話し合いに応じて頂き、まずは心より御礼申し上げます」
「初めまして、魔王ユウです。早速ですが、このような遅い時間に一体何事でしょうか?」

 立ち振る舞いは礼儀正しくても、現時刻を考えれば非常識だ。しかも約束すら無かったのだ。普通なら寝静まっていても不思議ではなく、礼儀という概念すら欠如しているとしか思えない振る舞いである。

「それについては大変申し訳ありませんでした。こちらの身勝手な来訪に応じてくださり、感謝の念に堪えません」
「余程の話と思ったので、お気になさらず」
「流石は魔王様、懐が大変に深い御方ですね」

 ニコリと微笑むナディアからは、メイリンとして会った時とはまた違う不思議な印象を受ける。あれが王者の風格なのだとしたら、これは何だろう。わからない。でも以前とは何かが決定的に違うように見えた。立場が変わったからなのだろうが、果たして、本当にそれだけなのか。ふと気になってしまった。まぁ、そんなの眠気にやられているだけかもしれないし、今はどんな話が飛び出すのか、それにだけ集中しよう。

「では、ご厚意に甘えさせて頂きます。ただ本題に入る前に、いくつか確認したいことが御座います。宜しいですか?」
「えぇ、お答えできる内容であれば」
「ありがとうございます。それでは……失礼とは十分に存じておりますが、魔王様はこの世界の住人でしょうか?」

 これはまた、とても重い一撃が飛んできたものだ。確かに俺はこの世界の住人ではない。でも、それをこんな真顔で聞いてくるか。どんな神経をしていたらそんな発想になる。規格外の力を見せ付けたからか。でも、いくら前置きをしたからって、これは余りにも失礼過ぎる。それを初っ端から、こうも堂々と言われては、怒りも呆れも通り越して不気味だ。
 余程の確信があっての事だろう。どう答えたものか。白を切ったり、笑い飛ばしたりしても何ら不自然ではない。ではないが、このまま流してはその真意が掴めなくなるだろう。

「……それは、どういう意味でしょう? 私はこうして息をしていますが」

 ここは惚けて、少し相手の出方を伺う。この手のタイプに通用するかどうかわからないが、こうして言わせておけば、必ずその内にボロが出る。その真意を推測できるちょっとした言葉の綾、とでも言おうか。本当なら言うつもりのなかったワードが吐き出される。隙が生まれる。
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