174 / 176
第2章 暁の竜神
第11話 ルーチェvs紅蓮飛竜隊 3
しおりを挟む
そのプレッシャーは相当のもの。たった1人、しかも身体能力で劣る人間が立ち塞がっただけで、竜人たちは浮き足立ってしまう。
「る……ルーチェ……って、あの」
「あ……あぁ、疾風の魔槍兵ルーチェだ……」
竜人たちは聖リリス帝国の主戦力でありながら人間を見下していたため、最高戦力が集められた四大将軍といえども、さして強くはないだろうと思っていた。仲間内ではそう言い合っていたからこそ、たまに聞こえる英雄譚は噂に過ぎないと馬鹿にもしていた。それが間違い。その認識が完全に誤解だったのだと、今の一瞬の攻防で骨身に染みる程に理解していた。
そんな彼らの狼狽振りなど気にも留めず、ルーチェは真っすぐにローレンを見据えた。そして微笑みかけもする。
「お久しぶりです、ローレンさん。こうして元気一杯ですよ」
可憐な少女のように、ルーチェはくるりと一回転して見せる。明らかな挑発。余裕過ぎる態度。それが癪に触ったローレンは、同胞が殺されたことも相まって怒りに震える。
「いい度胸だな。こんなことをして……わかっているのか?」
「まさかぁ、天下の紅竜同盟の兵隊さんが、この程度の挨拶でやられるなんてあるんですか?」
「い、言わせておけば……! これは国家反逆罪とされても何も言えん……っ!」
ローレンは思わず言葉に詰まった。変わったのだ、ルーチェの雰囲気が。これまでのまだどこかお遊戯的な緩さが一切無くなり、明確な殺意が放たれ、嫌でも死を想像させる冷気のようになって襲いかかってきたのだ。
「……だから? 領土侵犯しているのはそっちです。一般市民としては、当然の自衛行動じゃないですか?」
「ぬ……ぬけぬけと……!」
「あ、間違えました。まだ領空侵犯ですね、反省です」
ルーチェは可愛らしく拳で頭を小突き、舌を見せて煽る。しかし、その目はもう笑ってなどいない。臨戦態勢。きっかけさえあれば、いつでも全力で駆け出せる状態であった。
「い……いいだろう! そんなに死にたいのならば望み通りにしてくれる! お前たち、やれ! あれは敵だ! 同胞の仇だ!」
それを受けた竜人たちは、ハッと我に返ったようにしながら、慌ててルーチェを取り囲んだ。そうだ、四大将軍だろうが化け物だろうが、こうして明らかな敵対行動を取られたのだ。倒さねばならない。落ちた同胞たちのため、そして何より、そうしなければ逆に殺されかねないから。
ルーチェはというと黙って見守っている。如何に強いといっても、これだけの多数を相手にできる程ではない。それこそ規格外生命体のユウたちでなければ無理だ。それにも関わらず、一切の抵抗を見せずに放置して眺めているだけなのだ。やがて彼らが位置に着いたのを確認すると、ようやく口を開く。
「天下の紅蓮飛竜隊ともあろう人たちが小娘相手にこの始末? こんなんじゃあ、イース・ディードは落とせないよ」
「馬鹿が! お前さえいなくなれば、後は……!」
後は魔王とその配下が待つのみ。ローレンがそう言おうとした時、ルーチェは唐突に笑い出す。ケラケラと腹を抱えて、目に涙を浮かべもした。
「それこそ馬鹿って言うんだよ。イース・ディードにはね、魔王様がいるって知っているんでしょ? だから来たんでしょ?」
「ふん、魔王と繋がっていたのか。これはまた特大の国家反逆罪だな。法廷に引っ張る必要もない。ここで断罪してくれる!」
「あー……言いたいのはそこじゃないって」
やれやれと首を振りながら、ルーチェは心底呆れたように、そして物わかりの悪い子どもに教え諭すようにして言う。
「私なんかで手間取っていたんじゃ、あの人たちの足下にも及ばないっての。わかる? 攻撃の意思が無くても殺されかけた私の気持ちが」
それはウロボロスとの一戦。たった一撃入れればいいというこちらを舐め腐った余興で、ルーチェは痛感した。身体能力や天賦の才といった次元ではなく、生涯かけても決して届かないような隔絶した圧倒的な力の差を。だって、どんな不条理だ。防御のために槍で受けられただけで吹き飛ぶなんて。しかも向こうは魔法なんて使っていなくて、反撃する気持ちすら無かったというのに。
「何を訳のわからんことを……もういい。つまらん御託は聞きたくもない。全軍、構え!」
ローレンの指示を受けて、竜人たちは槍を突き出して狙いを定めた。もっとも、全方向から串刺しにするのだから狙いというには大き過ぎるだろう。でも構わない。どこかでいい。ルーチェの体に当たるのなら。なぜなら、彼らには比較する必要もないくらいに数で分がある。
ただ、懸念点が全く無いこともない。先の攻撃には確かに驚かされたからだ。そういう意味での警戒心はあったが、この人数であれば多少の小細工をされても力ずくで押し切れる。誰もがそう確信していた。
「やれ! 息の根を止めろ!」
一斉に竜人たちが攻撃に出る。
「る……ルーチェ……って、あの」
「あ……あぁ、疾風の魔槍兵ルーチェだ……」
竜人たちは聖リリス帝国の主戦力でありながら人間を見下していたため、最高戦力が集められた四大将軍といえども、さして強くはないだろうと思っていた。仲間内ではそう言い合っていたからこそ、たまに聞こえる英雄譚は噂に過ぎないと馬鹿にもしていた。それが間違い。その認識が完全に誤解だったのだと、今の一瞬の攻防で骨身に染みる程に理解していた。
そんな彼らの狼狽振りなど気にも留めず、ルーチェは真っすぐにローレンを見据えた。そして微笑みかけもする。
「お久しぶりです、ローレンさん。こうして元気一杯ですよ」
可憐な少女のように、ルーチェはくるりと一回転して見せる。明らかな挑発。余裕過ぎる態度。それが癪に触ったローレンは、同胞が殺されたことも相まって怒りに震える。
「いい度胸だな。こんなことをして……わかっているのか?」
「まさかぁ、天下の紅竜同盟の兵隊さんが、この程度の挨拶でやられるなんてあるんですか?」
「い、言わせておけば……! これは国家反逆罪とされても何も言えん……っ!」
ローレンは思わず言葉に詰まった。変わったのだ、ルーチェの雰囲気が。これまでのまだどこかお遊戯的な緩さが一切無くなり、明確な殺意が放たれ、嫌でも死を想像させる冷気のようになって襲いかかってきたのだ。
「……だから? 領土侵犯しているのはそっちです。一般市民としては、当然の自衛行動じゃないですか?」
「ぬ……ぬけぬけと……!」
「あ、間違えました。まだ領空侵犯ですね、反省です」
ルーチェは可愛らしく拳で頭を小突き、舌を見せて煽る。しかし、その目はもう笑ってなどいない。臨戦態勢。きっかけさえあれば、いつでも全力で駆け出せる状態であった。
「い……いいだろう! そんなに死にたいのならば望み通りにしてくれる! お前たち、やれ! あれは敵だ! 同胞の仇だ!」
それを受けた竜人たちは、ハッと我に返ったようにしながら、慌ててルーチェを取り囲んだ。そうだ、四大将軍だろうが化け物だろうが、こうして明らかな敵対行動を取られたのだ。倒さねばならない。落ちた同胞たちのため、そして何より、そうしなければ逆に殺されかねないから。
ルーチェはというと黙って見守っている。如何に強いといっても、これだけの多数を相手にできる程ではない。それこそ規格外生命体のユウたちでなければ無理だ。それにも関わらず、一切の抵抗を見せずに放置して眺めているだけなのだ。やがて彼らが位置に着いたのを確認すると、ようやく口を開く。
「天下の紅蓮飛竜隊ともあろう人たちが小娘相手にこの始末? こんなんじゃあ、イース・ディードは落とせないよ」
「馬鹿が! お前さえいなくなれば、後は……!」
後は魔王とその配下が待つのみ。ローレンがそう言おうとした時、ルーチェは唐突に笑い出す。ケラケラと腹を抱えて、目に涙を浮かべもした。
「それこそ馬鹿って言うんだよ。イース・ディードにはね、魔王様がいるって知っているんでしょ? だから来たんでしょ?」
「ふん、魔王と繋がっていたのか。これはまた特大の国家反逆罪だな。法廷に引っ張る必要もない。ここで断罪してくれる!」
「あー……言いたいのはそこじゃないって」
やれやれと首を振りながら、ルーチェは心底呆れたように、そして物わかりの悪い子どもに教え諭すようにして言う。
「私なんかで手間取っていたんじゃ、あの人たちの足下にも及ばないっての。わかる? 攻撃の意思が無くても殺されかけた私の気持ちが」
それはウロボロスとの一戦。たった一撃入れればいいというこちらを舐め腐った余興で、ルーチェは痛感した。身体能力や天賦の才といった次元ではなく、生涯かけても決して届かないような隔絶した圧倒的な力の差を。だって、どんな不条理だ。防御のために槍で受けられただけで吹き飛ぶなんて。しかも向こうは魔法なんて使っていなくて、反撃する気持ちすら無かったというのに。
「何を訳のわからんことを……もういい。つまらん御託は聞きたくもない。全軍、構え!」
ローレンの指示を受けて、竜人たちは槍を突き出して狙いを定めた。もっとも、全方向から串刺しにするのだから狙いというには大き過ぎるだろう。でも構わない。どこかでいい。ルーチェの体に当たるのなら。なぜなら、彼らには比較する必要もないくらいに数で分がある。
ただ、懸念点が全く無いこともない。先の攻撃には確かに驚かされたからだ。そういう意味での警戒心はあったが、この人数であれば多少の小細工をされても力ずくで押し切れる。誰もがそう確信していた。
「やれ! 息の根を止めろ!」
一斉に竜人たちが攻撃に出る。
0
あなたにおすすめの小説
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる