魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第2章 暁の竜神

第11話 ルーチェvs紅蓮飛竜隊 3

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 そのプレッシャーは相当のもの。たった1人、しかも身体能力で劣る人間が立ち塞がっただけで、竜人たちは浮き足立ってしまう。

「る……ルーチェ……って、あの」
「あ……あぁ、疾風の魔槍兵ルーチェだ……」

 竜人たちは聖リリス帝国の主戦力でありながら人間を見下していたため、最高戦力が集められた四大将軍といえども、さして強くはないだろうと思っていた。仲間内ではそう言い合っていたからこそ、たまに聞こえる英雄譚は噂に過ぎないと馬鹿にもしていた。それが間違い。その認識が完全に誤解だったのだと、今の一瞬の攻防で骨身に染みる程に理解していた。
 そんな彼らの狼狽振りなど気にも留めず、ルーチェは真っすぐにローレンを見据えた。そして微笑みかけもする。

「お久しぶりです、ローレンさん。こうして元気一杯ですよ」

 可憐な少女のように、ルーチェはくるりと一回転して見せる。明らかな挑発。余裕過ぎる態度。それが癪に触ったローレンは、同胞が殺されたことも相まって怒りに震える。

「いい度胸だな。こんなことをして……わかっているのか?」
「まさかぁ、天下の紅竜同盟の兵隊さんが、この程度の挨拶でやられるなんてあるんですか?」
「い、言わせておけば……! これは国家反逆罪とされても何も言えん……っ!」

 ローレンは思わず言葉に詰まった。変わったのだ、ルーチェの雰囲気が。これまでのまだどこかお遊戯的な緩さが一切無くなり、明確な殺意が放たれ、嫌でも死を想像させる冷気のようになって襲いかかってきたのだ。

「……だから? 領土侵犯しているのはそっちです。一般市民としては、当然の自衛行動じゃないですか?」
「ぬ……ぬけぬけと……!」
「あ、間違えました。まだ領空侵犯ですね、反省です」

 ルーチェは可愛らしく拳で頭を小突き、舌を見せて煽る。しかし、その目はもう笑ってなどいない。臨戦態勢。きっかけさえあれば、いつでも全力で駆け出せる状態であった。

「い……いいだろう! そんなに死にたいのならば望み通りにしてくれる! お前たち、やれ! あれは敵だ! 同胞の仇だ!」

 それを受けた竜人たちは、ハッと我に返ったようにしながら、慌ててルーチェを取り囲んだ。そうだ、四大将軍だろうが化け物だろうが、こうして明らかな敵対行動を取られたのだ。倒さねばならない。落ちた同胞たちのため、そして何より、そうしなければ逆に殺されかねないから。
 ルーチェはというと黙って見守っている。如何に強いといっても、これだけの多数を相手にできる程ではない。それこそ規格外生命体のユウたちでなければ無理だ。それにも関わらず、一切の抵抗を見せずに放置して眺めているだけなのだ。やがて彼らが位置に着いたのを確認すると、ようやく口を開く。

「天下の紅蓮飛竜隊ともあろう人たちが小娘相手にこの始末? こんなんじゃあ、イース・ディードは落とせないよ」
「馬鹿が! お前さえいなくなれば、後は……!」

 後は魔王とその配下が待つのみ。ローレンがそう言おうとした時、ルーチェは唐突に笑い出す。ケラケラと腹を抱えて、目に涙を浮かべもした。

「それこそ馬鹿って言うんだよ。イース・ディードにはね、魔王様がいるって知っているんでしょ? だから来たんでしょ?」
「ふん、魔王と繋がっていたのか。これはまた特大の国家反逆罪だな。法廷に引っ張る必要もない。ここで断罪してくれる!」
「あー……言いたいのはそこじゃないって」

 やれやれと首を振りながら、ルーチェは心底呆れたように、そして物わかりの悪い子どもに教え諭すようにして言う。

「私なんかで手間取っていたんじゃ、あの人たちの足下にも及ばないっての。わかる? 攻撃の意思が無くても殺されかけた私の気持ちが」

 それはウロボロスとの一戦。たった一撃入れればいいというこちらを舐め腐った余興で、ルーチェは痛感した。身体能力や天賦の才といった次元ではなく、生涯かけても決して届かないような隔絶した圧倒的な力の差を。だって、どんな不条理だ。防御のために槍で受けられただけで吹き飛ぶなんて。しかも向こうは魔法なんて使っていなくて、反撃する気持ちすら無かったというのに。

「何を訳のわからんことを……もういい。つまらん御託は聞きたくもない。全軍、構え!」

 ローレンの指示を受けて、竜人たちは槍を突き出して狙いを定めた。もっとも、全方向から串刺しにするのだから狙いというには大き過ぎるだろう。でも構わない。どこかでいい。ルーチェの体に当たるのなら。なぜなら、彼らには比較する必要もないくらいに数で分がある。
 ただ、懸念点が全く無いこともない。先の攻撃には確かに驚かされたからだ。そういう意味での警戒心はあったが、この人数であれば多少の小細工をされても力ずくで押し切れる。誰もがそう確信していた。

「やれ! 息の根を止めろ!」

 一斉に竜人たちが攻撃に出る。
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