もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ

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第12話 もふもふたちと、新レシピの旅へ!

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 次のイベント情報を聞いてから数日。
 僕たちは、村の掲示板の前に集まっていた。

「期間限定クエスト、出てるね。“初春の食材を求めて”だって」

 レイアが指さしたのは、季節限定の採集ミッション。
 説明文には、こう書かれていた。

『特定エリアでしか手に入らない春の恵み《芽吹き茸》を集め、料理ギルドへ納品せよ。報酬はイベント参加券+新エリア情報』

「……芽吹き茸、絶対おいしいやつだ」

「君、もう食材として見てるね?」
 ユリウスが笑う。

「だって“茸”だよ? 焼いても、煮ても、炒めても最高じゃない?」
「間違いないけど、ゲーム的には毒あり判定とかあるからね」
「それは調理次第でどうにかなる……はず!」

 僕は拳を握る。
 いつものように“遊び”のテンションなのに、なんだかワクワクが止まらなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

 目的地は、南東の森――《風渡りの樹海》。

 “視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚”が完全再現されているだけあって、風の匂いも、草木の湿り気もリアルすぎる。
 時折、木々の間を通り抜ける風が頬を撫で、髪をふわりと揺らす。

「ふわぁ……本当に森の中にいるみたい」

「この世界、没入感やばいな」
「それにしても、君のリアクションが毎回可愛い」

「ちょ、やめてよ……!」
 そう言いながらも、ユリウスに頭をぽんぽんされる。
 相変わらず、僕は背が低く、童顔のせいで完全に“可愛がられ枠”らしい。

「ほら、モカもシエルも行くよー!」

 僕が呼ぶと、モカが先に走り出し、シエルが空を舞う。
 もふもふコンビの探索能力は高く、落とし物や隠れアイテムを発見するのが得意だ。

「きゅきゅっ!」

 シエルが枝の上を指差す。そこには――

「これ……たぶん芽吹き茸!」

 木の根元に、小さく光るキノコ。
 淡い桜色の光をまとっていて、近づくとほんのり甘い香りがした。

「うわぁ……きれい」

「匂い、ほんのりミルクっぽいな」

 ユリウスが鼻をくんくんさせて笑う。
 僕は慎重にナイフを取り出し、根元からカット。
 同時にシステムメッセージが浮かび上がる。

【芽吹き茸(上質)を入手しました】

「上質……! やったね!」

 僕は思わず小さくガッツポーズ。
 モカも「ふがっ!」と跳ね、シエルが羽をぱたぱたさせた。

「この調子で集めよう。もふもふ隊、出動!」

「おー!」

 

◇ ◇ ◇

 

 集めていく途中で、道端に座り込むNPCのおじいさんに出会った。
 名前は《リム爺》。どうやら、何か困っている様子だ。

「芽吹き茸かい? そいつぁ珍しい……。だがのぅ、調理法を間違えると、えらい腹を壊すんじゃ」

「やっぱり毒性があるんですね」

「うむ。だが、古のレシピでは“風花の蜜”と一緒に煮込むと甘味が出て、毒が消えると聞いたことがある」

「風花の蜜……?」

 新しい食材ワードに、僕の脳内レシピ帳がフル回転する。
 おじいさんの話を聞き終え、僕たちはさらに森の奥へと足を進めた。

「君の食材探索スイッチ、完全に入ってるね」

「もう料理人の血が騒いでるからね……!」

 しばらく歩くと、小さな滝壺に出た。
 光が差し込み、水面がきらきらと反射している。

「ここ、綺麗……!」

「この辺、モンスターも出ないし、拠点候補に良さそうだな」

「じゃあ……試しにここで調理してみよう!」

「えっ、今!?」

 僕はにっこり笑って、即座に鍋を出す。
 “芽吹き茸”を刻み、“風花の蜜”を取りに行ったシエルが、数分後に瓶いっぱいの蜜を持ってきた。

「シエル優秀すぎる……!」

「きゅっ!」

 火を起こし、鍋に材料を入れる。
 ぐつぐつと煮える香りが漂い始めた瞬間、ほんのり桜と蜂蜜を混ぜたような香りが辺りに広がった。

「うわ……いい匂い」

 レイアが目を細める。
 ゼクトも腕を組みながら、「嗅覚再現度、100点」と呟いた。

「……完成。『春の芽吹きスープ』!」

 淡いピンク色のスープ。
 スプーンですくって口に含むと、やさしい甘みと旨味が口いっぱいに広がった。

「う、うま……!」

「これ、リアルでも売れるやつだよ」

「まじで……君、もはや“イベントボーナスキャラ”だよね」

 僕は照れながら笑った。

「これでイベント参加券ももらえたし……次は、いよいよ新エリアか」

「そうだな。でもその前に――」

 ユリウスが僕の髪をわしゃっと撫でる。

「まずは、今日のがんばりを褒めよう。よくやった、料理人くん」

「ちょ、子ども扱いしないでよ!」

「でも、可愛いから仕方ない」

「ふがっ!」
「きゅるっ!」

 モカとシエルまで同調してくるのはズルい。

 笑い声が水面に反射して、森の中に溶けていった。

 

◇ ◇ ◇

 

 夜、村に戻ると、NPCたちが出迎えてくれた。
 昼間のリム爺もいて、「おぬしらのおかげで、芽吹き茸の調理法が広まった」と感謝してくれる。

「この世界……本当に生きてるみたいだね」

「うん。運営が、NPCたちの反応まで逐一学習してるんだと思う」

 ゼクトの説明を聞きながら、僕はそっと夜空を見上げた。

 満天の星の下、もふもふたちが僕の足元で丸くなる。
 ユリウスたちは焚き火のそばで笑っていて、まるで現実みたいに温かかった。

(……イベント、楽しみだな)

 この世界の“遊び”が、どんどん好きになっていくのを感じた。
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