12 / 20
第12話 もふもふたちと、新レシピの旅へ!
しおりを挟む次のイベント情報を聞いてから数日。
僕たちは、村の掲示板の前に集まっていた。
「期間限定クエスト、出てるね。“初春の食材を求めて”だって」
レイアが指さしたのは、季節限定の採集ミッション。
説明文には、こう書かれていた。
『特定エリアでしか手に入らない春の恵み《芽吹き茸》を集め、料理ギルドへ納品せよ。報酬はイベント参加券+新エリア情報』
「……芽吹き茸、絶対おいしいやつだ」
「君、もう食材として見てるね?」
ユリウスが笑う。
「だって“茸”だよ? 焼いても、煮ても、炒めても最高じゃない?」
「間違いないけど、ゲーム的には毒あり判定とかあるからね」
「それは調理次第でどうにかなる……はず!」
僕は拳を握る。
いつものように“遊び”のテンションなのに、なんだかワクワクが止まらなかった。
◇ ◇ ◇
目的地は、南東の森――《風渡りの樹海》。
“視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚”が完全再現されているだけあって、風の匂いも、草木の湿り気もリアルすぎる。
時折、木々の間を通り抜ける風が頬を撫で、髪をふわりと揺らす。
「ふわぁ……本当に森の中にいるみたい」
「この世界、没入感やばいな」
「それにしても、君のリアクションが毎回可愛い」
「ちょ、やめてよ……!」
そう言いながらも、ユリウスに頭をぽんぽんされる。
相変わらず、僕は背が低く、童顔のせいで完全に“可愛がられ枠”らしい。
「ほら、モカもシエルも行くよー!」
僕が呼ぶと、モカが先に走り出し、シエルが空を舞う。
もふもふコンビの探索能力は高く、落とし物や隠れアイテムを発見するのが得意だ。
「きゅきゅっ!」
シエルが枝の上を指差す。そこには――
「これ……たぶん芽吹き茸!」
木の根元に、小さく光るキノコ。
淡い桜色の光をまとっていて、近づくとほんのり甘い香りがした。
「うわぁ……きれい」
「匂い、ほんのりミルクっぽいな」
ユリウスが鼻をくんくんさせて笑う。
僕は慎重にナイフを取り出し、根元からカット。
同時にシステムメッセージが浮かび上がる。
【芽吹き茸(上質)を入手しました】
「上質……! やったね!」
僕は思わず小さくガッツポーズ。
モカも「ふがっ!」と跳ね、シエルが羽をぱたぱたさせた。
「この調子で集めよう。もふもふ隊、出動!」
「おー!」
◇ ◇ ◇
集めていく途中で、道端に座り込むNPCのおじいさんに出会った。
名前は《リム爺》。どうやら、何か困っている様子だ。
「芽吹き茸かい? そいつぁ珍しい……。だがのぅ、調理法を間違えると、えらい腹を壊すんじゃ」
「やっぱり毒性があるんですね」
「うむ。だが、古のレシピでは“風花の蜜”と一緒に煮込むと甘味が出て、毒が消えると聞いたことがある」
「風花の蜜……?」
新しい食材ワードに、僕の脳内レシピ帳がフル回転する。
おじいさんの話を聞き終え、僕たちはさらに森の奥へと足を進めた。
「君の食材探索スイッチ、完全に入ってるね」
「もう料理人の血が騒いでるからね……!」
しばらく歩くと、小さな滝壺に出た。
光が差し込み、水面がきらきらと反射している。
「ここ、綺麗……!」
「この辺、モンスターも出ないし、拠点候補に良さそうだな」
「じゃあ……試しにここで調理してみよう!」
「えっ、今!?」
僕はにっこり笑って、即座に鍋を出す。
“芽吹き茸”を刻み、“風花の蜜”を取りに行ったシエルが、数分後に瓶いっぱいの蜜を持ってきた。
「シエル優秀すぎる……!」
「きゅっ!」
火を起こし、鍋に材料を入れる。
ぐつぐつと煮える香りが漂い始めた瞬間、ほんのり桜と蜂蜜を混ぜたような香りが辺りに広がった。
「うわ……いい匂い」
レイアが目を細める。
ゼクトも腕を組みながら、「嗅覚再現度、100点」と呟いた。
「……完成。『春の芽吹きスープ』!」
淡いピンク色のスープ。
スプーンですくって口に含むと、やさしい甘みと旨味が口いっぱいに広がった。
「う、うま……!」
「これ、リアルでも売れるやつだよ」
「まじで……君、もはや“イベントボーナスキャラ”だよね」
僕は照れながら笑った。
「これでイベント参加券ももらえたし……次は、いよいよ新エリアか」
「そうだな。でもその前に――」
ユリウスが僕の髪をわしゃっと撫でる。
「まずは、今日のがんばりを褒めよう。よくやった、料理人くん」
「ちょ、子ども扱いしないでよ!」
「でも、可愛いから仕方ない」
「ふがっ!」
「きゅるっ!」
モカとシエルまで同調してくるのはズルい。
笑い声が水面に反射して、森の中に溶けていった。
◇ ◇ ◇
夜、村に戻ると、NPCたちが出迎えてくれた。
昼間のリム爺もいて、「おぬしらのおかげで、芽吹き茸の調理法が広まった」と感謝してくれる。
「この世界……本当に生きてるみたいだね」
「うん。運営が、NPCたちの反応まで逐一学習してるんだと思う」
ゼクトの説明を聞きながら、僕はそっと夜空を見上げた。
満天の星の下、もふもふたちが僕の足元で丸くなる。
ユリウスたちは焚き火のそばで笑っていて、まるで現実みたいに温かかった。
(……イベント、楽しみだな)
この世界の“遊び”が、どんどん好きになっていくのを感じた。
202
あなたにおすすめの小説
【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。
───────
自筆です。
アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
────────
自筆です。
無能扱いされた実は万能な武器職人、Sランクパーティーに招かれる~理不尽な理由でパーティーから追い出されましたが、恵まれた新天地で頑張ります~
詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
鍛冶職人が武器を作り、提供する……なんてことはもう古い時代。
現代のパーティーには武具生成を役目とするクリエイターという存在があった。
アレンはそんなクリエイターの一人であり、彼もまたとある零細パーティーに属していた。
しかしアレンはパーティーリーダーのテリーに理不尽なまでの要望を突きつけられる日常を送っていた。
本当は彼の適性に合った武器を提供していたというのに……
そんな中、アレンの元に二人の少女が歩み寄ってくる。アレンは少女たちにパーティーへのスカウトを受けることになるが、後にその二人がとんでもない存在だったということを知る。
後日、アレンはテリーの裁量でパーティーから追い出されてしまう。
だが彼はクビを宣告されても何とも思わなかった。
むしろ、彼にとってはこの上なく嬉しいことだった。
これは万能クリエイター(本人は自覚無し)が最高の仲間たちと紡ぐ冒険の物語である。
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
過労死した家具職人、異世界で快適な寝具を作ったら辺境の村が要塞になりました ~もう働きたくないので、面倒ごとは自動迎撃ベッドにお任せします
☆ほしい
ファンタジー
ブラック工房で働き詰め、最後は作りかけの椅子の上で息絶えた家具職人の木崎巧(キザキ・タクミ)。
目覚めると、そこは木材資源だけは豊富な異世界の貧しい開拓村だった。
タクミとして新たな生を得た彼は、もう二度とあんな働き方はしないと固く誓う。
最優先事項は、自分のための快適な寝具の確保。
前世の知識とこの世界の素材(魔石や魔物の皮)を組み合わせ、最高のベッド作りを開始する。
しかし、完成したのは侵入者を感知して自動で拘束する、とんでもない性能を持つ魔法のベッドだった。
そのベッドが村をゴブリンの襲撃から守ったことで、彼の作る家具は「快適防衛家具」として注目を集め始める。
本人はあくまで安眠第一でスローライフを望むだけなのに、貴族や商人から面倒な依頼が舞い込み始め、村はいつの間にか彼の家具によって難攻不落の要塞へと姿を変えていく。
パワハラで会社を辞めた俺、スキル【万能造船】で自由な船旅に出る~現代知識とチート船で水上交易してたら、いつの間にか国家予算レベルの大金を稼い
☆ほしい
ファンタジー
過労とパワハラで心身ともに限界だった俺、佐伯湊(さえきみなと)は、ある日異世界に転移してしまった。神様から与えられたのは【万能造船】というユニークスキル。それは、設計図さえあれば、どんな船でも素材を消費して作り出せるという能力だった。
「もう誰にも縛られない、自由な生活を送るんだ」
そう決意した俺は、手始めに小さな川舟を作り、水上での生活をスタートさせる。前世の知識を活かして、この世界にはない調味料や保存食、便利な日用品を自作して港町で売ってみると、これがまさかの大当たり。
スキルで船をどんどん豪華客船並みに拡張し、快適な船上生活を送りながら、行く先々の港町で特産品を仕入れては別の町で売る。そんな気ままな水上交易を続けているうちに、俺の資産はいつの間にか小国の国家予算を軽く超えていた。
これは、社畜だった俺が、チートな船でのんびりスローライフを送りながら、世界一の商人になるまでの物語。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
「男のくせに料理なんて」と笑われたけど、今やギルドの胃袋を支えてます。
柊
ファンタジー
「顔も頭も平凡で何の役にも立たない」とグリュメ家を追放されたボルダン。
辿り着いたのはギルド食堂。そこで今まで培った料理の腕を発揮し……。
※複数のサイトに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる