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第14話「イベント開幕!朝陽とともに」
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朝日が地平線から昇る。
光が石畳を照らし、街全体が黄金色に染まっていく。
その瞬間、鐘の音が高らかに響き渡った。
――イベント開幕の合図だ。
ログインしたコナタは、思わず息をのむ。
頬にあたる風の冷たさ、鼻先をくすぐるパンの香り。
まるで現実の朝を切り取ったような、完璧な“朝”の再現。
フルダイブゲーム《アーク・リアライズ》の世界は、今日も息をしていた。
足元では、白銀の毛並みをもつフェンリルの子・シエルが小さく鳴く。
「きゅっ」
「おはよう、シエル。今日も一日、よろしくな」
コナタがしゃがんで撫でると、シエルは喉を鳴らしながら尻尾をふりふり。
少し後ろでは、丸っこい茶色のモンスター――モカが転がるように近づいてきた。
「ふがっ!」
「お前もおはよう。寝坊しなかったな」
モカは胸を張るように「ふがっ」と鳴いてみせた。
コナタは笑みを浮かべながら街の中心へ歩き出す。
今日は、この世界で初めての大型イベント《グラン・フェスティバル》。
全職業が参加可能な祭典で、彼も「料理職」として出場登録を済ませていた。
広場へ向かう途中、NPCたちが店の準備を進めている。
無人屋台システムが起動しており、プレイヤーが遠隔管理できる店が並んでいた。
昨日の夜、友人たちと相談して設置したコナタの屋台もその一つだ。
まだ開店準備の段階だが、初日から立ち止まるNPCがちらほら見える。
「このパン……いい香り……」
呟くNPCの声に、コナタは頬をかいた。
「まだ試作品なのに、もうバレてるな……」
そんなとき、背後から元気な声が響く。
「おーい、コナタ!」
振り返ると、眩しいほど整った顔立ちの青年――ゼクトが手を振っていた。
その隣では、黒髪に涼やかな瞳の弓使い・ユリウスが軽く片手を上げる。
二人とも、ゲーム内で超有名なプレイヤーだ。街の人混みがざわつく。
「えっ、ゼクトさんとユリウスさんだ! 本物!?」
通行するプレイヤーたちの視線が集まる中、コナタは苦笑した。
「おはよう、ゼクト、ユリウス」
「おう! 今日からイベント本番だぞ!」
ゼクトが笑いながら肩を叩いてくる。
「準備は万端か?」
「うん。試作品もあるし、あとは出番待ち」
「へぇ、試作品? 聞き捨てならねぇな」
ゼクトの目が輝く。ユリウスも少し笑って言った。
「試作品ってことは……試食できるんだよな?」
「……はいはい、わかったよ」
コナタはバッグから焼き立ての小さなパンを取り出す。
表面がほのかに金色に輝き、甘い香りがふわりと広がった。
「“朝焼けパン”っていうんだ。蜂蜜とレモンで香りづけしてみた」
「おおっ……!」
ゼクトが一口かじると、目を丸くする。
「うまっ! 優しい味だな。朝にぴったりだ」
ユリウスも頷きながら言う。
「甘すぎないのがいいな。香りも絶妙」
コナタは少し照れたように笑った。
「まだ試作だけど、イベント用にもう少し改良してみようと思って」
「お前の料理、もうNPCの間で話題になってるぞ」
「えっ?」
「ほら、あそこのパン屋の親父。さっきからこっち見てる」
視線の先では、NPCのベーカーが腕を組んでコナタのパンを見つめていた。
目が合うと、親父はにやりと笑う。
「……どうやら注目されてるみたいだな」
「え、えぇ……なんか、緊張してきた」
コナタの言葉に、ゼクトは楽しげに笑った。
「大丈夫。お前はお前らしくやれよ。そういうのが一番ウケるんだ」
やがて、街の中心広場に辿り着く。
巨大な浮遊スクリーンが空に展開され、運営によるアナウンスが響き渡った。
《プレイヤーの皆様、ようこそ“グラン・フェスティバル”へ!》
声は澄みきっていて、どこか神聖さを帯びている。
《本日のメインステージは中央広場。各職業別の特別クエストが順次開放されます!》
その言葉に、広場が一気に沸いた。
イベント限定装備を身に着けたプレイヤーたちが次々と集まり、NPCの出店からは活気ある声が飛び交う。
もふもふ達も騒がしさに興奮しているのか、シエルが「きゅっ!」と鳴いてコナタの足元を回り、モカは「ふがっ!」と鼻を鳴らして胸を張っていた。
「ほら、シエルもモカもやる気満々だぞ」
「……うん。俺も負けてられないな」
コナタが笑うと、二匹は嬉しそうにぴょんと跳ねた。
その瞬間、視界の端に光が走る。
次の瞬間、コナタの前に半透明のウィンドウが開かれた。
《料理職限定イベント『至高の一皿を求めて』開放》
《条件:オリジナル料理を完成させ、審査員NPCに提出せよ》
「……きたか」
「コナタ、これだな。お前の舞台」
ゼクトが笑い、ユリウスが静かに言う。
「優勝者は、運営公式レシピ登録らしい。つまり、ゲームの中で“名を刻む”ことになる」
「そ、そんな大層な……」
「大層? お前ならいけるさ」
その言葉にコナタの胸が高鳴る。
ほんの遊びで始めたこのゲームで、まさか自分の作った料理がそんな舞台に立つ日が来るなんて。
彼は空を見上げた。
朝陽がまぶしく、世界を染めていく。
――そのとき。
一瞬だけ、光が強くなった。
目を細めるほどの輝きの中で、コナタは“何か”を感じた。
暖かくて、包み込むような視線。
まるで、遠くから神様がこちらを見守っているような――。
「……?」
気づけば、光は消え、空はいつもの青。
ゼクトが肩を叩く。
「どうした?」
「……ううん、なんでもない。ただ、少し……不思議な光を見た気がして」
「お前、イベント前で緊張して幻でも見たんじゃね?」
「かもね」
コナタは苦笑し、モカの頭を軽く撫でた。モカは「ふがっ」と誇らしげに鳴く。
「よし、行こうか。お祭りの始まりだ」
「きゅっ!」
「ふがっ!」
朝陽の中、笑い合いながら歩き出す三人と二匹。
その背を、誰も知らぬ“神の視線”が静かに見送っていた。
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