もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ

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第15話「食の祭典・第一幕!審査員との出会い」

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 まるで祭りのような喧騒が街の中央を包んでいた。
 《グラン・フェスティバル》の目玉イベント、「食の祭典・第一幕」。
 広場の一角には、料理職専用のフィールドが設置され、そこではプレイヤーもNPCも入り混じりながら、自慢の料理を披露していた。

「ここが、イベント会場か……」
 コナタは目を瞬かせながら、巨大なテント群を見上げた。
 仮設とは思えないほど美しい装飾。天井からは果物や香草を象った魔法のランプが吊るされ、あちこちから湯気や香りが立ちのぼっている。
 料理人たちの腕前は本格的で、見ているだけでも楽しい。

 シエルが「きゅっ」と鳴き、足元で尻尾を揺らす。
「はは、シエルも気になるよな。匂いがすごいもん」
 モカも「ふがっ」と短く鳴いて、鼻をひくひく動かした。
 その姿を見ていたNPCの子どもが、そっと声をあげる。
「わぁ……かわいい!」
 周囲のNPCも思わず微笑み、もふもふ達は瞬く間に小さな人気者になっていた。

 ゼクトが笑いながらコナタの肩を叩く。
「さすがだな、コナタ。イベント始まって五分で囲まれてる奴なんて他にいねぇぞ」
「いやいや……シエルたちが可愛いだけだよ」
 コナタは苦笑したが、その頬は少し赤い。

 ユリウスが辺りを見回しながら言った。
「しかし、すごいな……有名プレイヤーやトップランカーまで勢ぞろいしてる」
 彼の視線の先では、ランキング上位の料理人プレイヤーたちが派手な料理を披露していた。
 宙に浮く皿、光るソース、炎の演出。どれもこれも見た目からして華やかだ。

「俺なんか、場違いじゃないかな……」とコナタが呟くと、ゼクトがすかさず言った。
「何言ってんだ。お前の料理は派手じゃなくても、“味”があるだろ」
 その言葉に、コナタは少しだけ笑った。
 ――確かに、彼の料理は見た目よりも香りや味わいで人の心を掴む。
 それは、この世界でも変わらないらしい。

 会場中央には、審査員用の長いテーブルが設置されている。
 そこに座っているのは、この街の老舗料理店のマスターNPCたち――そして、光沢のある白衣を着た人物。
 彼は、このイベントの総審査官にして《神の舌を持つ男》と呼ばれる伝説級NPC、セオドール。
 NPCとは思えぬ存在感と、穏やかな笑みを併せ持つ人物だった。

「うわぁ……あの人が本物のセオドールか」
「近くで見ると圧あるな……」
 周囲のプレイヤーがざわつく中、コナタは少し離れた場所で小さく息を吐いた。
 緊張とわくわくが混ざり合い、胸が少し高鳴る。

 ――そんなとき、また不思議な気配を感じた。
 光でも風でもない。
 けれど確かに、どこか高いところから“視線”が降り注いでいる。
 昨日と同じ、あの温かな感覚。

「きゅ?」
 シエルが首を傾げ、モカも「ふがっ」と短く鳴く。
 どうやら二匹も、同じものを感じているようだった。

「……気のせいかな」
 小さく呟いたその瞬間、頭上のスクリーンに文字が浮かび上がる。

《第一幕:テーマ“朝の目覚め”》
《参加者は制限時間30分以内に、自身のオリジナル料理を完成させること》

 イベント開始の合図とともに、広場の喧騒がさらに熱を帯びる。
 それぞれの料理人が動き始め、魔法の炎が次々と灯る。

「コナタ、いけるか?」
「うん……やってみる」
 コナタは調理台の前に立ち、深呼吸をひとつ。
 素材一覧を呼び出すと、昨日集めたばかりの新食材――“陽だまり麦”がリストに表示されていた。
 穂がほのかに光る特別な小麦で、焼くと淡い甘みを放つという。

「これで、あのパンをもう一度……」
 彼は手早く生地をこね始めた。
 指先に伝わる感触、香ばしい香り。
 目を閉じれば、現実の台所で作っていた頃の記憶がよみがえる。
 ――ただ、楽しくて。美味しいものを作りたくて。

 シエルがそっと足元で「きゅっ」と鳴き、モカが生地を見上げて「ふがっ」と鼻を鳴らす。
「うん、大丈夫。上手くいく」
 微笑みながら、コナタは生地を焼き始めた。

 香りが立ち上ると、周囲のプレイヤーやNPCたちが次々と振り返った。
 派手な演出もない。魔法を使っているわけでもない。
 けれど、その香りだけで場の空気が変わった。

「……なんだ、この香り」
「落ち着く……」
「懐かしい匂い……?」

 観客たちがざわめく中、審査員席のセオドールがわずかに目を細める。
 穏やかな笑みを浮かべながら、彼は呟いた。
「この香り……まるで“陽の神”の祝福を受けているようだ」

 やがて、パンが焼き上がる。
 表面は淡い金色で、ほんのりと輝きを帯びていた。
 コナタは皿にのせ、審査員席へと差し出す。

「どうぞ……“朝焼けパン”です」

 セオドールがひと口、静かに口に運ぶ。
 その瞬間、ほんの一瞬だけ、柔らかな光が彼の背後に揺らめいた。
 観客たちは気づかない。
 ただ、シエルが「きゅきゅっ」と鳴き、モカが「ふがっ!」と尻尾を振る。

 ――それはまるで、祝福の合図のようだった。

「……見事です」
 セオドールが穏やかに言った。
「香り、食感、そして心。貴方の料理には“温もり”がある」
「っ……ありがとうございます」
 コナタは思わず深く頭を下げた。

 その光景を、遠くから見ていたゼクトとユリウスは顔を見合わせる。
「なぁ、レオン」
「ああ……やっぱり、ただのプレイヤーじゃないよな、コナタは」
 二人の視線の先で、朝陽を浴びたコナタがもふもふ達に囲まれ、微笑んでいた。

 ――この瞬間、彼の名は初めて、“食の祭典”の中で語られ始めた。
 料理人コナタ。
 神に見初められた、奇跡の味を作る少年として。
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