15 / 20
第15話「食の祭典・第一幕!審査員との出会い」
しおりを挟む⸻
まるで祭りのような喧騒が街の中央を包んでいた。
《グラン・フェスティバル》の目玉イベント、「食の祭典・第一幕」。
広場の一角には、料理職専用のフィールドが設置され、そこではプレイヤーもNPCも入り混じりながら、自慢の料理を披露していた。
「ここが、イベント会場か……」
コナタは目を瞬かせながら、巨大なテント群を見上げた。
仮設とは思えないほど美しい装飾。天井からは果物や香草を象った魔法のランプが吊るされ、あちこちから湯気や香りが立ちのぼっている。
料理人たちの腕前は本格的で、見ているだけでも楽しい。
シエルが「きゅっ」と鳴き、足元で尻尾を揺らす。
「はは、シエルも気になるよな。匂いがすごいもん」
モカも「ふがっ」と短く鳴いて、鼻をひくひく動かした。
その姿を見ていたNPCの子どもが、そっと声をあげる。
「わぁ……かわいい!」
周囲のNPCも思わず微笑み、もふもふ達は瞬く間に小さな人気者になっていた。
ゼクトが笑いながらコナタの肩を叩く。
「さすがだな、コナタ。イベント始まって五分で囲まれてる奴なんて他にいねぇぞ」
「いやいや……シエルたちが可愛いだけだよ」
コナタは苦笑したが、その頬は少し赤い。
ユリウスが辺りを見回しながら言った。
「しかし、すごいな……有名プレイヤーやトップランカーまで勢ぞろいしてる」
彼の視線の先では、ランキング上位の料理人プレイヤーたちが派手な料理を披露していた。
宙に浮く皿、光るソース、炎の演出。どれもこれも見た目からして華やかだ。
「俺なんか、場違いじゃないかな……」とコナタが呟くと、ゼクトがすかさず言った。
「何言ってんだ。お前の料理は派手じゃなくても、“味”があるだろ」
その言葉に、コナタは少しだけ笑った。
――確かに、彼の料理は見た目よりも香りや味わいで人の心を掴む。
それは、この世界でも変わらないらしい。
会場中央には、審査員用の長いテーブルが設置されている。
そこに座っているのは、この街の老舗料理店のマスターNPCたち――そして、光沢のある白衣を着た人物。
彼は、このイベントの総審査官にして《神の舌を持つ男》と呼ばれる伝説級NPC、セオドール。
NPCとは思えぬ存在感と、穏やかな笑みを併せ持つ人物だった。
「うわぁ……あの人が本物のセオドールか」
「近くで見ると圧あるな……」
周囲のプレイヤーがざわつく中、コナタは少し離れた場所で小さく息を吐いた。
緊張とわくわくが混ざり合い、胸が少し高鳴る。
――そんなとき、また不思議な気配を感じた。
光でも風でもない。
けれど確かに、どこか高いところから“視線”が降り注いでいる。
昨日と同じ、あの温かな感覚。
「きゅ?」
シエルが首を傾げ、モカも「ふがっ」と短く鳴く。
どうやら二匹も、同じものを感じているようだった。
「……気のせいかな」
小さく呟いたその瞬間、頭上のスクリーンに文字が浮かび上がる。
《第一幕:テーマ“朝の目覚め”》
《参加者は制限時間30分以内に、自身のオリジナル料理を完成させること》
イベント開始の合図とともに、広場の喧騒がさらに熱を帯びる。
それぞれの料理人が動き始め、魔法の炎が次々と灯る。
「コナタ、いけるか?」
「うん……やってみる」
コナタは調理台の前に立ち、深呼吸をひとつ。
素材一覧を呼び出すと、昨日集めたばかりの新食材――“陽だまり麦”がリストに表示されていた。
穂がほのかに光る特別な小麦で、焼くと淡い甘みを放つという。
「これで、あのパンをもう一度……」
彼は手早く生地をこね始めた。
指先に伝わる感触、香ばしい香り。
目を閉じれば、現実の台所で作っていた頃の記憶がよみがえる。
――ただ、楽しくて。美味しいものを作りたくて。
シエルがそっと足元で「きゅっ」と鳴き、モカが生地を見上げて「ふがっ」と鼻を鳴らす。
「うん、大丈夫。上手くいく」
微笑みながら、コナタは生地を焼き始めた。
香りが立ち上ると、周囲のプレイヤーやNPCたちが次々と振り返った。
派手な演出もない。魔法を使っているわけでもない。
けれど、その香りだけで場の空気が変わった。
「……なんだ、この香り」
「落ち着く……」
「懐かしい匂い……?」
観客たちがざわめく中、審査員席のセオドールがわずかに目を細める。
穏やかな笑みを浮かべながら、彼は呟いた。
「この香り……まるで“陽の神”の祝福を受けているようだ」
やがて、パンが焼き上がる。
表面は淡い金色で、ほんのりと輝きを帯びていた。
コナタは皿にのせ、審査員席へと差し出す。
「どうぞ……“朝焼けパン”です」
セオドールがひと口、静かに口に運ぶ。
その瞬間、ほんの一瞬だけ、柔らかな光が彼の背後に揺らめいた。
観客たちは気づかない。
ただ、シエルが「きゅきゅっ」と鳴き、モカが「ふがっ!」と尻尾を振る。
――それはまるで、祝福の合図のようだった。
「……見事です」
セオドールが穏やかに言った。
「香り、食感、そして心。貴方の料理には“温もり”がある」
「っ……ありがとうございます」
コナタは思わず深く頭を下げた。
その光景を、遠くから見ていたゼクトとユリウスは顔を見合わせる。
「なぁ、レオン」
「ああ……やっぱり、ただのプレイヤーじゃないよな、コナタは」
二人の視線の先で、朝陽を浴びたコナタがもふもふ達に囲まれ、微笑んでいた。
――この瞬間、彼の名は初めて、“食の祭典”の中で語られ始めた。
料理人コナタ。
神に見初められた、奇跡の味を作る少年として。
141
あなたにおすすめの小説
【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。
───────
自筆です。
アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
────────
自筆です。
無能扱いされた実は万能な武器職人、Sランクパーティーに招かれる~理不尽な理由でパーティーから追い出されましたが、恵まれた新天地で頑張ります~
詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
鍛冶職人が武器を作り、提供する……なんてことはもう古い時代。
現代のパーティーには武具生成を役目とするクリエイターという存在があった。
アレンはそんなクリエイターの一人であり、彼もまたとある零細パーティーに属していた。
しかしアレンはパーティーリーダーのテリーに理不尽なまでの要望を突きつけられる日常を送っていた。
本当は彼の適性に合った武器を提供していたというのに……
そんな中、アレンの元に二人の少女が歩み寄ってくる。アレンは少女たちにパーティーへのスカウトを受けることになるが、後にその二人がとんでもない存在だったということを知る。
後日、アレンはテリーの裁量でパーティーから追い出されてしまう。
だが彼はクビを宣告されても何とも思わなかった。
むしろ、彼にとってはこの上なく嬉しいことだった。
これは万能クリエイター(本人は自覚無し)が最高の仲間たちと紡ぐ冒険の物語である。
過労死した家具職人、異世界で快適な寝具を作ったら辺境の村が要塞になりました ~もう働きたくないので、面倒ごとは自動迎撃ベッドにお任せします
☆ほしい
ファンタジー
ブラック工房で働き詰め、最後は作りかけの椅子の上で息絶えた家具職人の木崎巧(キザキ・タクミ)。
目覚めると、そこは木材資源だけは豊富な異世界の貧しい開拓村だった。
タクミとして新たな生を得た彼は、もう二度とあんな働き方はしないと固く誓う。
最優先事項は、自分のための快適な寝具の確保。
前世の知識とこの世界の素材(魔石や魔物の皮)を組み合わせ、最高のベッド作りを開始する。
しかし、完成したのは侵入者を感知して自動で拘束する、とんでもない性能を持つ魔法のベッドだった。
そのベッドが村をゴブリンの襲撃から守ったことで、彼の作る家具は「快適防衛家具」として注目を集め始める。
本人はあくまで安眠第一でスローライフを望むだけなのに、貴族や商人から面倒な依頼が舞い込み始め、村はいつの間にか彼の家具によって難攻不落の要塞へと姿を変えていく。
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
パワハラで会社を辞めた俺、スキル【万能造船】で自由な船旅に出る~現代知識とチート船で水上交易してたら、いつの間にか国家予算レベルの大金を稼い
☆ほしい
ファンタジー
過労とパワハラで心身ともに限界だった俺、佐伯湊(さえきみなと)は、ある日異世界に転移してしまった。神様から与えられたのは【万能造船】というユニークスキル。それは、設計図さえあれば、どんな船でも素材を消費して作り出せるという能力だった。
「もう誰にも縛られない、自由な生活を送るんだ」
そう決意した俺は、手始めに小さな川舟を作り、水上での生活をスタートさせる。前世の知識を活かして、この世界にはない調味料や保存食、便利な日用品を自作して港町で売ってみると、これがまさかの大当たり。
スキルで船をどんどん豪華客船並みに拡張し、快適な船上生活を送りながら、行く先々の港町で特産品を仕入れては別の町で売る。そんな気ままな水上交易を続けているうちに、俺の資産はいつの間にか小国の国家予算を軽く超えていた。
これは、社畜だった俺が、チートな船でのんびりスローライフを送りながら、世界一の商人になるまでの物語。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
リンダの入念な逃走計画
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
愛人の子であるリンダは、先妻が亡くなったことで母親が後妻に入り侯爵令嬢となった。
特に家族との確執もないが、幼い時に受けた心の傷はリンダの歩みを決めさせる。
「貴族なんて自分には無理!」
そんな彼女の周囲の様子は、護衛に聞いた噂とは違うことが次々に分かっていく。
真実を知った彼女は、やっぱり逃げだすのだろうか?
(小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる