もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ

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第17話「神々の晩餐への招待状」

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 イベント翌日の朝。
 コナタはベッドの上で丸くなって眠っていた。
 胸元にはシエルがちょこんと乗り、「きゅぅ……」と小さく寝息を立てている。
 その隣にはモカが巨大なクッションのように横たわり、「ふごー……ふがっ……」という少し豪快な寝息が響いていた。

 ――コナタはまだ夢の中。
 昨日の喧騒と歓声がほどよい疲労となって、体に心地よく残っていた。

 だが、朝は待ってくれない。
 窓の外から差し込む光がゆっくりと部屋を照らし、シエルがまぶしそうに「きゅ……」と身じろぎをする。

 その拍子に、シエルのふわふわ尻尾がコナタの頬をくすぐった。

「……ん……やめ……くすぐった……」
「きゅっ?」
 コナタが寝言のように手を伸ばすと、シエルは「きゅきゅっ」と嬉しそうに頬にすりすり。
 その振動でモカも目を覚まし、「ふがっ?」と顔を上げた。

 大きな顔がコナタにぐいっと寄り――

「わっ! モカの鼻息あったか……!」
「ふがっ!」

 目を覚ましたコナタは、まるでふわふわ動物園に埋もれるように、二匹のもふもふに挟まれていた。

「……幸せだけど……身動き取れない……」
 笑いながらもぞもぞすると、シエルが「きゅっ!」と甘噛みして、
 “逃がさないよ”と言わんばかりに腕を抱え込んでくる。

 モカはモカで、コナタの足にどすんと座り込み、完全に動きを封じていた。

「え、今日なんか俺すごい愛されてない?」
「きゅきゅっ」
「ふがっふがっ!」

 返事は完璧だ。
 二匹は明らかにいつもより甘えてくる。
 昨日のイベントで張り切ったご主人を労っているつもりなのだろう。

「ありがと……ほんとに、最高の相棒だよ」
 コナタがふわふわの頭を撫でると、シエルは嬉しそうに耳をぴょこぴょこ。
 モカは尻尾をぶんぶん振り、ベッドがきしむほどだった。

「よし……朝ごはんにしよっか」

 そう言うと、二匹は同時に目を輝かせて跳ねた。
「きゅっ!!」
「ふがっ!!」

 ――こうして、イベント翌朝の穏やかな時間は始まった。




 料理を終えると、モカは皿をぺろぺろ舐め、シエルは尻尾をふりながらコナタにぴったり寄り添う。
 コナタが後片付けをしていると、玄関からノックが聞こえた。

「コナタ、起きてるかー?」
 ゼクトの声だ。

 ドアを開けると、ゼクトとユリウスが覗いていた。
「おはよう。昨日の英雄さん、まだ寝てるかと思った」
「お、おはよう……今起きたとこ」

 ゼクトは笑って、シエルの頭をわしゃわしゃ撫でた。
「よっ、シエル。昨日めちゃくちゃ頑張ったな!」
「きゅっ!」

 対してモカは、ゼクトの足元にどすんと座り込む。
 “撫でろ”という圧だ。

「……こっちの子は要求が直球だな」
 ユリウスが苦笑しながらモカの頭を撫でると、
「ふがぁぁ……」
 と、とろけそうな声を出して喜ぶ。

「で? 今日は何する?」
 ゼクトがコナタの肩に腕を回して聞いてくる。

「とりあえず……今日はのんびりしたいかな」
「賛成。昨日のコナタはずっと人に囲まれてたしな」
 ユリウスもやわらかく微笑んだ。

 ――本当に、ふたりはコナタを気遣ってくれている。
 そんな雰囲気が伝わってきて、胸があたたかくなる。



しかし、その時だった

 突然、空中にメール通知が現れた。
 淡い青色のウィンドウに、見慣れない送り主が表示されている。

《特別運営階層:アークスフィア管理部門》
《宛先:プレイヤー《コナタ》》

「……え?」
 コナタは固まった。
 ゼクトが覗き込み、目を丸くする。
「コナタ、お前……なんかやらかした?」
「やらかしてないよ!!」

 ユリウスが読み上げる。
「運営の“上層部”なんて、一般プレイヤーにメール送ってくることほとんどないぞ」

「と、とりあえず開けてみる……」

 コナタがタップすると、金色の紋章がひらりと舞い、正式な文書が表示された。



■ 【アークスフィア管理部からの正式通知】

プレイヤー《コナタ》様へ

昨日の《食の祭典》において、
あなたの作り出した料理は
“神格AIへの干渉値”を基準値以上に上昇させました。

つきましては――
あなたを特別イベント《神々の晩餐》へ招待いたします。

出席は任意ですが、
これは“上位存在に認められた料理人”のみが参加できる儀式です。

詳細は追って送信いたします。



「……うそでしょ?」
 コナタは書面を見つめて固まった。

 ゼクトはすぐ大爆笑。
「でたー! 神に見つかった男!!」
「いや笑い事じゃないから!!」

 ユリウスも肩を震わせながら言う。
「でも、これはすごい。本当に“選ばれた”ってことだよ」

 コナタは震える声で呟いた。
「俺……ただ、料理作っただけなのに……」

 シエルがコナタの腕にしがみつき、
「きゅっ!」
 と元気づけるように鳴く。

 モカも「ふがぁ」と鼻先を押し付けてくる。

 ――それだけで、コナタの胸の緊張がすっと溶けた。
 彼らの存在は、いつだって大きい。

「……そうだね。みんながいたから、作れた味なんだよね」

 ぽつりと呟くと、ゼクトがぽんと頭を撫でた。
「大丈夫。俺たちも一緒にいるから」
「そうだ。神々だろうと何だろうと、お前はお前だよ」
 ユリウスもやさしく微笑む。

 胸が熱くなる。
 こんなふうに言ってくれる友人がいることが、何より救いだった。



■招待状は、物語の新たな扉だった



 窓の外で、風がそよぐ。
 光が部屋に差し込み、金色に輝いた。

 コナタは深呼吸をし、静かに言った。

「……行ってみようかな。“神々の晩餐”」

 シエルが「きゅっ!」
 モカが「ふがっ!」
 ゼクトとユリウスが同時に笑う。

「決まりだな」
「お前なら大丈夫だ」

 ――こうして。
 コナタは神々に見出された“陽光の調理人”として、次なる運命の扉を開くことになる。
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