8 / 20
第8話 “レン”と呼ばれたとき
しおりを挟む朝。
目を覚ますと、もふもふたちがもう起きていた。
シエルは僕の髪の中に頭を突っ込んでいて、モカはいつのまにかパンの残りをくわえていた。
「こら、勝手に食べないの」
そう言いながらも、口元が緩む。
今日も、ここは変わらず温かい。
昨日の“芽吹きの祝日”での初出店は、驚くほどの反響だった。
村の人たちは「また出して」と口々に言ってくれ、長老からは「常設屋台の話、改めて詰めよう」と声をかけられた。
これからどうしていくかは、まだ決めていない。
だけど、なんとなく“次の段階”に進む予感はしていた。
それは――
「……え?」
広場に立った瞬間。
あまりにも見慣れない空気が流れてきた。
数人の視線が、僕のほうに向けられていた。
見知らぬ三人のプレイヤー。全員が、明らかに“ただ者じゃない”存在感を放っている。
ひとりは銀髪の青年。研ぎ澄まされた雰囲気に、周囲のNPCですら距離を取っている。
もうひとりは、金髪に碧眼。軽快な笑みを浮かべながらも、その立ち居振る舞いは堂々としていた。
そして、最後のひとりは紅の瞳を持つ美貌の女性。静かな佇まいは、どこか神秘すら漂わせている。
「……あれ、見たことあるような……?」
記憶をたどる。
このゲームを始める前に、動画サイトで見た“上位ランカー紹介”の映像。
あのときの――
(あの3人!?)
その瞬間、銀髪の青年が一歩前に出た。
そして、はっきりと僕の名を呼んだ。
「レン」
空気が止まったような感覚。
僕は足を止めたまま、目を見開いた。
「……なんで……」
「久しぶり」
金髪の男が、笑顔を崩さず手を振る。
「ようやく会えたな、レン」
紅の瞳の女性も、優しく頷く。
その名前は、ここで誰にも教えていない“現実での僕の名前”――。
彼らは、僕の“友達”だ。
現実では、2日前。
みんなでラーメン屋に行って、餃子の取り合いになって笑ってた。
でも、ここでは。
こんなにシリアスに、こんなに懐かしそうに、名前を呼ばれて――
「……何その顔、反則でしょ……」
ふっと笑いがこみ上げてきた。
「ねぇ……リアルで会ったの、二日前だよね?」
「知ってる」
ゼクトが真顔で言う。
「けど……この世界での“再会”は、ずっと待ってた」
「うん。わたしは、ずっと……ログインしてくるのを信じてたよ」
レイアが目元を少し潤ませながら、そっと言う。
「……ゲームの中で“初めて”会うときってさ、別にリアルがどうこう関係ないんだよな」
ユリウスが、肩をすくめて苦笑した。
「そうだね……こっちでは、今が“初めて”だもんね」
僕は、3人を見渡した。
全員、変わらない。
美形で、優しくて、ちょっとズレてるところも相変わらずで――
「……じゃあ、教えて。君たちの“こっちでの名前”」
「俺は《ゼクト》。雷の剣士として、そこそこ名が知れてる」
「俺は《ユリウス》。戦場でもパーティでも美技担当って呼ばれてる」
「私は《レイア》。情報収集と魔法のサポートが専門よ」
「すごいな……本当に有名プレイヤーになってたんだ……」
なんとなく察してたけど、実際に本人たちから聞くとすごみが違う。
「で、君のプレイヤー名は?」
「……《コナタ》」
「っぶ……」
ユリウスが吹いた。
「こ、コナタ!? それ可愛すぎじゃない? 自分でつけたの?」
「自分でつけたけど……こうなると思ってなかったんだよ……」
「……でも、似合ってる。ちっちゃくて、可愛くて、美味しいもの作るもん」
レイアがうっとりとした目で言う。
ゼクトは黙って僕の頭を撫でてきた。
「……よく、来てくれた」
ああ、これはもう、無理だ。
嬉しくて、くすぐったくて、恥ずかしくて――でも、最高に幸せだった。
ようやく、ゲームの中でも“会えた”。
361
あなたにおすすめの小説
【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。
───────
自筆です。
アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
────────
自筆です。
無能扱いされた実は万能な武器職人、Sランクパーティーに招かれる~理不尽な理由でパーティーから追い出されましたが、恵まれた新天地で頑張ります~
詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
鍛冶職人が武器を作り、提供する……なんてことはもう古い時代。
現代のパーティーには武具生成を役目とするクリエイターという存在があった。
アレンはそんなクリエイターの一人であり、彼もまたとある零細パーティーに属していた。
しかしアレンはパーティーリーダーのテリーに理不尽なまでの要望を突きつけられる日常を送っていた。
本当は彼の適性に合った武器を提供していたというのに……
そんな中、アレンの元に二人の少女が歩み寄ってくる。アレンは少女たちにパーティーへのスカウトを受けることになるが、後にその二人がとんでもない存在だったということを知る。
後日、アレンはテリーの裁量でパーティーから追い出されてしまう。
だが彼はクビを宣告されても何とも思わなかった。
むしろ、彼にとってはこの上なく嬉しいことだった。
これは万能クリエイター(本人は自覚無し)が最高の仲間たちと紡ぐ冒険の物語である。
過労死した家具職人、異世界で快適な寝具を作ったら辺境の村が要塞になりました ~もう働きたくないので、面倒ごとは自動迎撃ベッドにお任せします
☆ほしい
ファンタジー
ブラック工房で働き詰め、最後は作りかけの椅子の上で息絶えた家具職人の木崎巧(キザキ・タクミ)。
目覚めると、そこは木材資源だけは豊富な異世界の貧しい開拓村だった。
タクミとして新たな生を得た彼は、もう二度とあんな働き方はしないと固く誓う。
最優先事項は、自分のための快適な寝具の確保。
前世の知識とこの世界の素材(魔石や魔物の皮)を組み合わせ、最高のベッド作りを開始する。
しかし、完成したのは侵入者を感知して自動で拘束する、とんでもない性能を持つ魔法のベッドだった。
そのベッドが村をゴブリンの襲撃から守ったことで、彼の作る家具は「快適防衛家具」として注目を集め始める。
本人はあくまで安眠第一でスローライフを望むだけなのに、貴族や商人から面倒な依頼が舞い込み始め、村はいつの間にか彼の家具によって難攻不落の要塞へと姿を変えていく。
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
パワハラで会社を辞めた俺、スキル【万能造船】で自由な船旅に出る~現代知識とチート船で水上交易してたら、いつの間にか国家予算レベルの大金を稼い
☆ほしい
ファンタジー
過労とパワハラで心身ともに限界だった俺、佐伯湊(さえきみなと)は、ある日異世界に転移してしまった。神様から与えられたのは【万能造船】というユニークスキル。それは、設計図さえあれば、どんな船でも素材を消費して作り出せるという能力だった。
「もう誰にも縛られない、自由な生活を送るんだ」
そう決意した俺は、手始めに小さな川舟を作り、水上での生活をスタートさせる。前世の知識を活かして、この世界にはない調味料や保存食、便利な日用品を自作して港町で売ってみると、これがまさかの大当たり。
スキルで船をどんどん豪華客船並みに拡張し、快適な船上生活を送りながら、行く先々の港町で特産品を仕入れては別の町で売る。そんな気ままな水上交易を続けているうちに、俺の資産はいつの間にか小国の国家予算を軽く超えていた。
これは、社畜だった俺が、チートな船でのんびりスローライフを送りながら、世界一の商人になるまでの物語。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる