もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ

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第8話 “レン”と呼ばれたとき

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 朝。
 目を覚ますと、もふもふたちがもう起きていた。

 シエルは僕の髪の中に頭を突っ込んでいて、モカはいつのまにかパンの残りをくわえていた。

「こら、勝手に食べないの」

 そう言いながらも、口元が緩む。
 今日も、ここは変わらず温かい。

 昨日の“芽吹きの祝日”での初出店は、驚くほどの反響だった。
 村の人たちは「また出して」と口々に言ってくれ、長老からは「常設屋台の話、改めて詰めよう」と声をかけられた。

 これからどうしていくかは、まだ決めていない。
 だけど、なんとなく“次の段階”に進む予感はしていた。

 それは――

「……え?」

 広場に立った瞬間。
 あまりにも見慣れない空気が流れてきた。

 数人の視線が、僕のほうに向けられていた。
 見知らぬ三人のプレイヤー。全員が、明らかに“ただ者じゃない”存在感を放っている。

 ひとりは銀髪の青年。研ぎ澄まされた雰囲気に、周囲のNPCですら距離を取っている。
 もうひとりは、金髪に碧眼。軽快な笑みを浮かべながらも、その立ち居振る舞いは堂々としていた。
 そして、最後のひとりは紅の瞳を持つ美貌の女性。静かな佇まいは、どこか神秘すら漂わせている。

「……あれ、見たことあるような……?」

 記憶をたどる。
 このゲームを始める前に、動画サイトで見た“上位ランカー紹介”の映像。

 あのときの――

(あの3人!?)

 その瞬間、銀髪の青年が一歩前に出た。

 そして、はっきりと僕の名を呼んだ。

「レン」

 空気が止まったような感覚。
 僕は足を止めたまま、目を見開いた。

「……なんで……」

「久しぶり」

 金髪の男が、笑顔を崩さず手を振る。

「ようやく会えたな、レン」

 紅の瞳の女性も、優しく頷く。

 その名前は、ここで誰にも教えていない“現実での僕の名前”――。

 彼らは、僕の“友達”だ。

 現実では、2日前。
 みんなでラーメン屋に行って、餃子の取り合いになって笑ってた。

 でも、ここでは。
 こんなにシリアスに、こんなに懐かしそうに、名前を呼ばれて――

「……何その顔、反則でしょ……」

 ふっと笑いがこみ上げてきた。

「ねぇ……リアルで会ったの、二日前だよね?」

「知ってる」

 ゼクトが真顔で言う。

「けど……この世界での“再会”は、ずっと待ってた」

「うん。わたしは、ずっと……ログインしてくるのを信じてたよ」

 レイアが目元を少し潤ませながら、そっと言う。

「……ゲームの中で“初めて”会うときってさ、別にリアルがどうこう関係ないんだよな」

 ユリウスが、肩をすくめて苦笑した。

「そうだね……こっちでは、今が“初めて”だもんね」

 僕は、3人を見渡した。

 全員、変わらない。
 美形で、優しくて、ちょっとズレてるところも相変わらずで――

「……じゃあ、教えて。君たちの“こっちでの名前”」

「俺は《ゼクト》。雷の剣士として、そこそこ名が知れてる」

「俺は《ユリウス》。戦場でもパーティでも美技担当って呼ばれてる」

「私は《レイア》。情報収集と魔法のサポートが専門よ」

「すごいな……本当に有名プレイヤーになってたんだ……」

 なんとなく察してたけど、実際に本人たちから聞くとすごみが違う。

「で、君のプレイヤー名は?」

「……《コナタ》」

「っぶ……」

 ユリウスが吹いた。

「こ、コナタ!? それ可愛すぎじゃない? 自分でつけたの?」

「自分でつけたけど……こうなると思ってなかったんだよ……」

「……でも、似合ってる。ちっちゃくて、可愛くて、美味しいもの作るもん」

 レイアがうっとりとした目で言う。
 ゼクトは黙って僕の頭を撫でてきた。

「……よく、来てくれた」

 ああ、これはもう、無理だ。

 嬉しくて、くすぐったくて、恥ずかしくて――でも、最高に幸せだった。

 ようやく、ゲームの中でも“会えた”。
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