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第9話 甘やかされ、撫でられて、呼吸困難(物理)
しおりを挟む「久しぶりだな、レン」
「こっちでも会えて嬉しいよ」
「よかった……ちゃんと来てくれて」
三人の友人たち――ゼクト、ユリウス、レイア。
現実では何度も顔を合わせているのに、VRMMO《リアルコード・アース》の中で、彼らとこうして向かい合っていると、まるで違う世界にいるような感覚だった。
それもそのはず。
彼らはこの世界でそれぞれ名を馳せたトッププレイヤー。
外見もまさに“美形”。誰がどう見ても人目を惹く存在で、その三人が、僕の前で――
「……え、なにしてるの……?」
僕の両頬がむにむにと引っ張られている。
「このふわっふわの肌……ログイン直後とは思えないぷにぷに感。なにこの癒し……」
ユリウスが目を潤ませている。
片方の手で頬を摘まみながら、もう片方で肩をぽんぽん叩いているあたり、手慣れてる。
「ちょ、ちょっと、やめてよ……」
「やめない」
キッパリ。
対してゼクトはというと、僕の髪をわしゃわしゃと撫でまわしていた。
その手つきはやたらと丁寧で、どこかリズムすら感じさせる。
「……髪、思ってたより柔らかいな。見た目どおりだけど、想像以上だった」
「うわっ、やめてってば……!」
「反応が可愛い」
やめる気ゼロだった。
そしてレイアは、すでに僕の背後に回り込み、肩をぽふっと抱えていた。
「ふふ、こうして触れてみたかったの。あなただけ、いつも向こうの世界でも距離を取ってたから」
「……いや、照れるし、恥ずかしいし……!!」
「可愛い」
お決まりの三文字が飛んでくる。
全員が全力で可愛がってくるこの状況、正直――
「し、死ぬ、過剰にもふもふされてる……!」
シエルとモカが嫉妬したのか、僕の膝の上と肩の上で丸まりながら「ふがっ」「きゅぅ~」と唸りはじめた。三人がいっせいに反応する。
「うわ、これが噂のもふもふ!?」
「モカってこの子かー!見た目に反して声が不穏すぎ!」
「シエル……可愛い……! 一緒に寝たい……!」
次の瞬間、レイアがシエルにそっと手を伸ばして撫で、ユリウスがモカを抱き上げようとして「ふがー!!」と噛まれ、ゼクトが無言で間に立って事態を収める、という謎の連携が生まれた。
「モカ、噛みつくのはやめなさい。君も嫉妬しない」
「ふがっ……」
「……すねてるだけか」
ゼクトがモカの頭を軽く撫でると、モカは急に大人しくなり、そのままゼクトの膝にぴょんと乗っかった。
「……え、懐いてる……?」
「動物には好かれる体質なんだ」
そんな体質あるの……?と突っ込みたかったけど、今は自分が構われすぎてそれどころじゃない。
僕は両手をバタバタさせてようやく抜け出した。
「ちょっと! 一旦落ち着こう!? まずは場所変えようよ。ここ広場のど真ん中だし……みんな見てるし……!」
気づけば、周囲のNPCが「おやまぁ」「人気者だねぇ」「もふもふが二匹にイケメン三人? 物語が始まる予感じゃ」とざわめいていた。
「……ここ、目立つんだよ……」
顔から火が出る思いで、炊事場横の休憩所へと逃げ込んだ。
◇ ◇ ◇
「それでさ、ずっと俺たちで噂追ってたんだよ」
ユリウスが、木のベンチに腰掛けながら話し始めた。
「もふもふテイム、童顔ちびっこ、料理がヤバい、村の人に溶け込みすぎ、癒し力が高い……そんな奴、あいつしかいねぇだろって」
「最初に気づいたのはゼクトだったんだよね?」
「……料理の盛り付けが、お前そっくりだった」
ゼクトの一言に、僕は「えっ」と目を瞬いた。
「それだけでわかったの?」
「ああ。現実でも、お前が作る料理って、いつも少しだけ角が丸くて、でも彩りは絶対に外さなくて……“その人のために作ってる”って感じなんだよな」
「……よく見てるなぁ……」
「見てたよ。ずっと、見たかったからな」
その言葉が、まっすぐ胸に届く。
「俺たちさ……ほんとは最初に一緒に始める予定だったじゃん?」
「うん……。でも、僕が機材揃うの遅くて」
「最初の頃、ログインしてないか毎日確認してたよ」
「うん。わたしも。何回、村に立ち寄ったかわからない」
「……え、そんなに?」
全員が頷く。
「でも、いざ会ってみると、最初が“もふもふに囲まれながら祭りで大人気”だったのは予想外だった」
「うん、それは僕も……ちょっと想定外だった」
「でも、めっちゃ嬉しかった」
レイアがふわりと微笑む。
その顔を見て、僕もようやく、ふっと肩の力を抜いた。
「……ありがとう、みんな。ここでも……会えて、ほんとによかった」
言葉にすると、なんだか涙が出そうになる。
でも、照れくさくてすぐ顔を逸らした。
すると。
「じゃ、改めて――こっちでも仲間にさせてもらいます、コナタ様」
「やめて。敬称いらない。コナタでいいから……!」
「ふふ。コナタって呼ぶね」
「俺はたぶん、またレンって呼ぶと思うけど」
「それもやめてぇぇぇ!」
三人の笑い声と、もふもふたちの寝息と、春の風。
――ようやく、“本当の意味で”この世界が楽しくなってきた。
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