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第11話 無人屋台、はじめました!
しおりを挟む朝。
ログインして最初に目に入ったのは、村の広場に設置された小さな木製屋台だった。
あたたかい色味の木材に、ささやかな花飾り。
「焼きたてあります!」と、NPCが掲げる手描き風の看板。
ゲームのシステムを使って設定した、“無人販売屋台”。
商品説明、価格、販売個数、補充アイテムの登録……すべて昨晩、ゼクトたちに手伝ってもらって設定を終えた。
「……ほんとに、動いてるんだ」
NPCの姿をした“屋台係”が、自動で客に説明し、銅貨の支払いを受け取り、商品を手渡していた。
「クッキー一つと、ふわふわパン一つ。……ありがとう、坊や」
NPCの客がぺこりと頭を下げ、去っていく。
“システム”なのに、どこか優しさがある。
「この世界、ほんとすごいな……」
「ん、屋台スタートしたって?」
声がして振り向けば、ユリウスが駆け寄ってきた。
「おー、ちゃんと出てるじゃん。“もふクッキー”、大人気じゃん?」
「その名前、定着しつつあるのが恐怖なんだけど……」
「いいじゃん、語感最高。俺、10袋まとめ買いしよっかな」
「ちょっと待って!? 無人屋台の在庫、すぐ尽きるから!」
「じゃあ、君から直接買おう。ね?」
さらっと言ってくるその笑顔に、僕は肩を落とした。
その後、ゼクトとレイアも到着。
「確認した。販売ログがすでに20件以上ある。補充しておくといい」
「ゼクト、管理しすぎじゃない?」
「お前が忘れそうだからな」
「否定できない……」
レイアはというと、早速ベンチに座って「今日のスープは?」と期待に満ちた顔。
結局そのあと僕は、彼らのために“朝限定の軽食セット”を作ることになった。パンのかけら、野菜スープ、甘味草のヨーグルト風サラダ。
食べ終わったあと――
「この屋台、いまは“離れてても買える”っていう意味で嬉しいけど、やっぱりこうやって目の前で作ってもらうのがいちばん幸せだね」
レイアがしみじみと呟く。
「俺も、離れてるときは屋台で、君が近くにいる時は直接。使い分けだね!」
「そうだな。“味わいは、隣で見るのがいちばん”って誰かが言ってた」
「誰が?」
「俺」
「いや自分かい!!」
みんなの笑い声が、午前の広場に広がっていく。
◇ ◇ ◇
午後。
「ちょっと息抜きに、遊びに行こう」というユリウスの一言で、僕たちは村の外に足を伸ばすことになった。
「せっかくだから、簡単な“採集ミッション”でも受けてみない?」
レイアが開いたクエスト画面には、《春草のつる採取》という期間限定ミッションが表示されていた。
「今の時期限定。これを一定数集めると、もふもふ用の装飾アイテムが作れるんだって」
「それはやるしかない」
僕の声と同時に、肩の上でシエルが「きゅっ!」と鳴き、モカが「ふがっ!」と拳(?)を振り上げた。
「もふもふたちにも春服を……!」
決意した我々は、軽装備を整えて村の南側の丘へ。
道中は、完全に“わちゃわちゃ探索モード”。
「ゼクト、それ草じゃなくて毒草! 取らないで!」
「ユリウス、モカを網に詰めない! 採集アイテムじゃないの!」
「レイア、それ装飾用じゃなくて食用!」
ツッコミの嵐と笑いの渦の中、いつしかNPCたちまで笑顔で見送ってくれるようになっていた。
春草のつるは、丘の一帯に群生しており、花が咲き始めたら収穫できるようになるらしい。
「ほら、これ。紫がかった細い茎に、先がちょっと巻いてる」
レイアが丁寧に教えてくれる。
「スープにしてもいいし、乾燥させればお茶にもなるよ」
「料理用途にもいけるのか……!」
僕の目がきらりと光る。
「これは、新レシピの予感……!」
あっという間にバスケットいっぱいに春草を詰め込み、ミッション報酬を受け取りに戻る。
「報酬の中に、もふもふ用のリボンあるぞ!」
ゼクトがそう言うと、レイアがそっとシエルの首元に桜色のリボンを結んでくれた。
「……きゅるっ!」
シエルが自慢げにしっぽをくねらせて、僕の頭の上でくるくると回転する。
モカには緑のバンダナがつけられて、なぜかドヤ顔していた。
「か、可愛い……!」
僕は思わず手を合わせて見とれてしまった。
「君のもふもふ、完全に“宣伝部長”だよな……」
「うん……この子たちが屋台の前に立ってたら、絶対売れる気がする……」
「いっそ、“もふもふのいる店”って看板にしよう」
「やめて!!」
でも、そうやってわちゃわちゃ過ごすこの時間が、何よりも楽しかった。
◇ ◇ ◇
夜。
村の焚き火のそばで、みんなで軽い夜食タイム。
クッキーをほおばりながら、レイアがぽつりと言った。
「ねぇ。もうすぐ“新エリア解放イベント”があるって噂、知ってる?」
「えっ、イベント?」
僕が反応すると、ゼクトが頷いた。
「このゲーム、定期的に“世界進行”がある。プレイヤー数や拠点数、屋台出店率なんかも条件に含まれてる」
「つまり、君の屋台もその条件に……?」
「可能性はあるな。だからこそ、次のイベント、俺たちも本気出すつもり」
ユリウスが、もふもふの毛を撫でながら微笑む。
「でもそれはまた、みんなでわちゃわちゃしながら、ね?」
「……うん。そうだね」
この世界が“遊び”でよかった。
現実とは違うけど、確かに“仲間”がいる。
火の灯りが、もふもふたちの影をゆらゆらと揺らしていた。
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