泣いて、笑って、恋した手のひら小話

猫戸針子

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見てくれなくても、君は僕のもの

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「なんで……」
いつもこっちを見てくれない。毎日何度も何度も何度も、僕は君を見る度に息が止まりそうなほどだって言うのに。
「こっち見てよ」
柔らかで優しい笑顔の彼女。秋晴れの抜けるような青い空が似合う彼女。髪を耳にかきあげる時にちょっとだけ顔を傾ける彼女。

それは全部僕のだ。

明るく華やいだ声が耳を擦る。彼女の声…誰かと楽しそうに喋る彼女の可愛くて甘い…。耳を擦って僕の唇を愛しさに震わせる。
「分かるよ。誰かと喋ってても、僕と目を合わせなくても、君が僕を意識してるのは分かるよ分かるよ分かってるんだよ」

僕の君。

「おいおまえ、さっきから何ジロジロ見てんの?」
「え…?あ…」
勝手に僕の彼女と喋ってたやつが話し掛けてきた。うるさい。
「彼女、怖がってんだよ。喋りたいなら普通に声かければ良いだろ」
この男は何を言っているんだろう。声なら毎日毎日幾度もかけてるのに。
「付け回して何やってんだよ」
「あ……」
今、彼女が僕を……見てくれた。男の背の先から真っ直ぐに注がれる確かな視線。
ああ、ようやく僕ら…。

愛し合えたんだね。
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