行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ

文字の大きさ
7 / 10

第七話 支度

しおりを挟む
「どういうことだ」
「何がですか?」

 夕食の支度を始めようとしたところでレオナルドに呼び出されたシア。不愉快を全開にしている彼の様子など意に介してなさそうな反応をするシアに、「食事のことだ」と苛立った口調で大声を出すレオナルド。

「なぜわざわざ全員一緒にする必要がある。それぞれ好きな時間にとればいいだろう」
「ですが、それだと手間と時間がかかります」
「嫁に来たのだから、それくらいやって当然だろう」
「それくらいっておっしゃいますけど、別々で準備したら水だって薪だって余計にかかりますよ? 昨今、陛下は節制を心がけるように通達してましたよね」
「ぐ……っ」

 レオナルドの言葉にことごとくシアは言い返す。

 実際シアの言うことは正論で、近年同盟国の異常気象や国内紛争のせいで輸入していた材木や食糧などが激減。我が国の水路も隣国との戦争のせいで一部が破壊されてしまって使えず、国民にはなるべく節制するように求めていた。

「そうかもしれないが……っ」
「我が家は公爵家なのですから、貴族の代表として陛下の意向を示す立場では?」
「それは……」
「でしたらやはり、みんなで食事をとるのが一番だと思います。それに、子供達がどれほど食べているかで体調もわかりますし、学校のこととか社交界のこととか話す機会なんて食事のときくらいでないとありませんし。みなさんそれぞれお年頃ですから言いたいこと言いたくないことはあると思いますが、思春期だからこそ子供達との情報共有はある程度しておくべきだと思います」
「だが……」

 なおも食い下がるレオナルド。そんなに一緒に食事するのが嫌なのか、と理解できない感情に内心驚く。

「もちろん、お仕事などで合わせられないときもあるとは思います。ですが、極力合わせるというのはダメでしょうか? せっかく家族になったのですから、せめて食事時だけでも交流したいのですが」
「…………わかった。だが、くれぐれも無理強いはしないでくれ」
「それは承知してます」

 ようやく納得してくれた様子のレオナルドにホッとするシア。

(何かトラウマでもあるのかしら)

 家族で食事をとるのが一般的だと思っていたシアは彼らの関係性に疑問を持ちつつも、家族の数だけ家族の形があるとも思った。

(とはいえ、もう少し家族として変われればいいけど)

 なんとなく歪な家族関係にお節介ながらも気になってしまうシア。少しでも改善できればいいなと思いながら、再び夕食の準備に戻るのだった。


 ◇


「結局お手伝いさせてしまって申し訳ないわね」
「いえ、シア様は我が家に来たばかりですから何かとわからないことだらけで不便でしょうし、私は慣れてますからお気になさらないでください」

 夕飯の準備。
 食材のことや調理器具のことをアンナに尋ねたら、そのままお手伝いしてくれることになり、申し訳なさを感じるシア。できれば最初からあれこれこなせればよかったが、さすがの初日はわからないことだらけで、正直アンナが手伝ってくれるのはありがたかった。

「勉学のほうは平気?」
「はい。宿題などは先に終わらせるタイプなので」
「えらいわね、アンナは」
「いえ、そんなことはないですよ」

 褒められてはにかむアンナ。あまり褒められ慣れてないらしく、照れた顔が可愛らしい。そんな彼女の様子にシアは癒された。

「アンナが通ってるのはヴェルデート貴族学校でしたっけ?」
「はい。姉も妹もみんなそこに」
「そうなのね。私の出身校は別なのだけど、確か何人か保護者のほうに知り合いがいるわ」

 ヴェルデート貴族学校は貴族学校の中でもハイクラスの学校だ。
 貴族学校とは主に上級貴族が通い、マナーや教養、帝王学や情勢などあらゆる分野について教えてくれる学校である。ちなみに、そこで新たな縁も生まれ、ちょっとした社交界としての役割もあった。

「そうなんですね。では、どこかで会ってるかもしれないですね」
「えぇ、そうね。今度機会があったら紹介するわ。それにしても、さすが手際がいいわね。ずっとこなしていただけはあるわ」

 今はジャガイモの皮を剥いているのだが、アンナはするすると衣を脱ぐようにジャガイモの皮が剥いていて、その手際の良さにシアは感心した。

「いえ、そんなことは」
「謙遜しなくていいのよ。すごいことはすごいのだから。アンナの努力の賜物でしょう? ちゃんと褒められたときは褒められておきなさい」
「……はい。ありがとうございます」

 アンナは恥じ入りながらも嬉しそうに頬を赤らめる。その頭を優しく撫でてあげたいが、今はジャガイモを持ったままなのでシアは我慢した。

「そういえば、レオナルドさんの好物って何か知ってる?」
「お父様の好きなものですか? そうですね、アヒルのコンフィとかウサギのロースト。意外に甘党なのでカボチャのポタージュとかも好きですね」
「へぇ、確かに意外」

 あの強面の無表情なレオナルドが甘党だと知ってちょっと微笑ましくなる。

「レオナルドさんも可愛らしいところがあるのね」
「はい。あと意外におっちょこちょいというか、考え事のしすぎでどこかにぶつかったり忘れ物をしたりしょっちゅうしてますよ」
「まぁ。それはさらに意外だわ」

 色々と厳しそうなのに、そういう抜けてるところがあるらしい。どんどんと情報を知ることで、だんだんと可愛らしく思えてくるから不思議だ。

「お父様には秘密にしておいてくださいね。言ったことがバレると怒られるので」
「えぇ、もちろん。アンナと私だけの秘密。あ、ついでにセレナとフィオナのことも教えてもらえる? わかるところとか言えるところとかだけでいいから」
「はい」

 せっかく家族になったのだから、みんなのことをもっと知って仲良くなれたらいいな、と思いながらシアは夕飯作りに励むのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

毒味役の私がうっかり皇帝陛下の『呪い』を解いてしまった結果、異常な執着(物理)で迫られています

白桃
恋愛
「触れるな」――それが冷酷と噂される皇帝レオルの絶対の掟。 呪いにより誰にも触れられない孤独な彼に仕える毒味役のアリアは、ある日うっかりその呪いを解いてしまう。 初めて人の温もりを知った皇帝は、アリアに異常な執着を見せ始める。 「私のそばから離れるな」――物理的な距離感ゼロの溺愛(?)に戸惑うアリア。しかし、孤独な皇帝の心に触れるうち、二人の関係は思わぬ方向へ…? 呪いが繋いだ、凸凹主従(?)ラブファンタジー!

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

夫が勇者に選ばれました

プラネットプラント
恋愛
勇者に選ばれた夫は「必ず帰って来る」と言って、戻ってこない。風の噂では、王女様と結婚するらしい。そして、私は殺される。 ※なろうでも投稿しています。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

処理中です...