婚約破棄されたので隣国で働きます ~追放侯爵令嬢、才覚だけで王妃候補に成り上がる~

鷹 綾

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第21話 評議会の朝、彼女が立つ場所

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第21話 評議会の朝、彼女が立つ場所

 朝の鐘が、王宮全体に鳴り響いた。

 その音は、いつもより重く感じられる。
 今日が、ただの一日ではないことを、誰もが理解していた。

 

 王宮評議会。
 貴族、官僚、軍部、宗教関係者――
 国の中枢が一堂に会する場。

 その中央に置かれた席は、まだ空いている。

(……私の席、というわけではありませんけれど)

 ルビー・エルヴェールは、控えの回廊で静かに深呼吸した。

 心は不思議なほど落ち着いている。

(恐れているのは、“決断”ではない)

 恐れているのは、
 自分の言葉が――王宮という巨大な装置を、どう動かしてしまうか。

 

「エルヴェール嬢」

 声をかけてきたのは、マクシミリアン・グレイだった。

「今なら、まだ退ける」 「……親切ですわね」

「最後の忠告だ」

 彼は低く言う。

「君の発言次第では、
 王宮は君を“利用する対象”から“排除すべき存在”に切り替える」

 

「それでも、私は行きます」

 ルビーは、迷いなく答えた。

「沈黙する方が、
 よほど利用されやすいですから」

 

 評議会場の扉が開かれる。

 ざわめきが、一瞬で静まり返った。

 

 レオニードが議長席につき、重々しく口を開く。

「本日の議題――
 王宮再編に伴う、王太子妃候補に関する件」

 

 視線が、一斉にルビーへ向けられた。

 

「本件については、
 すでに複数の派から意見が提出されている」

 淡々と読み上げられる文言。

 “国の安定”。
“改革の継続”。
“象徴の必要性”。

 

(……やはり、そう来ますわね)

 

「――よって」

 誰かが言葉を継ごうとした、その瞬間。

「お待ちください」

 凛とした声が、場を切り裂いた。

 

 ルビーが、一歩前に出る。

 

「本議題に関して、
 私自身の発言の機会をいただきたいのです」

 

 一瞬の沈黙。
 そして、低いざわめき。

 

「……許可する」

 レオニードが、静かに告げた。

 

 ルビーは、全員を見渡し、ゆっくりと口を開いた。

「私は、本日まで沈黙してきました」

 その声は、よく通る。

「それは、迷っていたからではありません。
 “誰の言葉で決めるべきか”を、見極めていたからです」

 

 何人かの貴族が、顔をこわばらせる。

 

「王太子妃という立場は、
 栄誉であると同時に、責任です」

 彼女は続ける。

「その責任を、
 “周囲の都合”で引き受けるつもりはありません」

 

 ざわ、と空気が揺れた。

 

「ですから、はっきり申し上げます」

 ルビーは、まっすぐ前を見据える。

「私は――
 本日の評議会で、誰かに決められるつもりはありません」

 

 静寂。

 息を呑む音さえ聞こえそうだった。

 

「ただし」

 彼女は、間を置いて続けた。

「この国のために、
 私が果たすべき役割があるのなら」

 

「それは――
 私自身が、選び、引き受けます」

 

 言い切りだった。

 

 評議会場は、完全に沈黙したまま。

 その沈黙は、拒絶ではない。
 理解でもない。

 揺らいでいるのだ。

 

 議長席で、レオニードは静かに目を閉じ、そして開いた。

(……これが、彼女の答え)

 

 この瞬間、
 王宮は、ルビー・エルヴェールという存在を――
 単なる候補ではなく、
 意思を持つ“当事者”として認識した。

 

 嵐は、避けられなかった。

 だがそれは、
 彼女が選んだ嵐だった。

 そしてこの日を境に、
 王宮はもう、元には戻らない。
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