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第十一話 空席
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第十一話 空席
臨時負担の布告から五日。
王宮の円卓に、また一つ空席が生まれた。
伯爵アーレンが欠席。
公式理由は“急病”。
医師の診断書も提出されている。
だが円卓に集まった者たちは、誰もその理由を深掘りしない。
空席は、ただそこにある。
アルベルトは席に着き、周囲を見渡した。
「アーレン伯は?」
「療養とのことです」
「臨時負担に異論があったはずだが」
「……本日は不在でございます」
声は平坦。
意見は出ない。
老侯爵が帳簿を示す。
「商会三社が隣国へ移転準備を開始」
「移転?」
「港湾税の差が決定的です」
アルベルトは机を叩く。
「臨時負担は三ヶ月だ」
「信用は三ヶ月では戻りません」
誰も責めない。
ただ、事実を述べる。
それがかえって重い。
リュシエラが静かに口を開く。
「殿下を信じない者が去るだけですわ」
その声音は優しい。
だが円卓の者たちは目を伏せる。
“信じない”のではない。
“読めない”のだ。
公開婚約破棄。
契約停止。
事故。
臨時負担。
急病。
順序がない。
予測ができない。
予測できない者に、資産は預けられない。
会議は短時間で終わる。
誰も反論しない。
それが最も不穏だ。
廊下で若い文官が囁く。
「アーレン伯は本当に急病か」
「記録上はそうだ」
「……だが」
「口にするな」
その一言で沈黙。
隣国。
エリシアは商会代表たちと面談していた。
「王都から移転を検討していると」
「はい。安定した港湾と税率を求めて」
「契約は透明に。条件は明示します」
彼女は資料を差し出す。
「隣国は予測可能性を保証いたします」
商会代表が深く頷く。
「それが最も重要です」
議論は具体的だ。
税率、倉庫、護衛、輸送路。
すべて数値で決まる。
王宮とは対照的だった。
夜。
王宮の廊下はひどく静かだ。
アルベルトは一人、執務室に残る。
帳簿を閉じ、窓の外を見る。
北門から出ていく荷馬車の列が、やけに長い。
「臨時だ」と自分に言い聞かせる。
目を閉じる。
暗闇。
白い衣が立つ。
その足元に、赤い染み。
瞬きをする。
ただの影。
事故は事故。
急病は急病。
偶然は続くこともある。
そうだ。
続くこともある。
背後から声が落ちる。
「殿下」
振り返る。
リュシエラが立っている。
白い衣。
何も付いていない。
「皆様は殿下を恐れているのではございません」
「では何だ」
「殿下が強すぎるのです」
微笑み。
安心を与えるような声。
だがその言葉は、孤立を肯定する。
翌朝。
アーレン伯の容態が悪化したとの報が入る。
命に別状はない。
だが復帰の目処は立たない。
円卓の空席は埋まらない。
誰も声を上げない。
ただ、距離がまた一歩広がる。
隣国では。
新たな商会が正式に移転を決定した。
契約書に署名が並ぶ。
拍手は控えめだが確実。
エリシアは静かに頷く。
「秩序は人を呼びます」
ディルクが言う。
「王都は、静かに人を失っている」
「選択の結果です」
彼女の声は揺れない。
王宮。
アルベルトは再び円卓に座る。
空席が目に刺さる。
それでも言う。
「問題はない」
誰も否定しない。
誰も肯定しない。
沈黙が答え。
そしてまた一つ、空席が固定される。
王宮の静けさは深まり、隣国の港は賑わいを増す。
同じ月が、両国を照らしている。
だが光の当たり方は、まるで違っていた。
臨時負担の布告から五日。
王宮の円卓に、また一つ空席が生まれた。
伯爵アーレンが欠席。
公式理由は“急病”。
医師の診断書も提出されている。
だが円卓に集まった者たちは、誰もその理由を深掘りしない。
空席は、ただそこにある。
アルベルトは席に着き、周囲を見渡した。
「アーレン伯は?」
「療養とのことです」
「臨時負担に異論があったはずだが」
「……本日は不在でございます」
声は平坦。
意見は出ない。
老侯爵が帳簿を示す。
「商会三社が隣国へ移転準備を開始」
「移転?」
「港湾税の差が決定的です」
アルベルトは机を叩く。
「臨時負担は三ヶ月だ」
「信用は三ヶ月では戻りません」
誰も責めない。
ただ、事実を述べる。
それがかえって重い。
リュシエラが静かに口を開く。
「殿下を信じない者が去るだけですわ」
その声音は優しい。
だが円卓の者たちは目を伏せる。
“信じない”のではない。
“読めない”のだ。
公開婚約破棄。
契約停止。
事故。
臨時負担。
急病。
順序がない。
予測ができない。
予測できない者に、資産は預けられない。
会議は短時間で終わる。
誰も反論しない。
それが最も不穏だ。
廊下で若い文官が囁く。
「アーレン伯は本当に急病か」
「記録上はそうだ」
「……だが」
「口にするな」
その一言で沈黙。
隣国。
エリシアは商会代表たちと面談していた。
「王都から移転を検討していると」
「はい。安定した港湾と税率を求めて」
「契約は透明に。条件は明示します」
彼女は資料を差し出す。
「隣国は予測可能性を保証いたします」
商会代表が深く頷く。
「それが最も重要です」
議論は具体的だ。
税率、倉庫、護衛、輸送路。
すべて数値で決まる。
王宮とは対照的だった。
夜。
王宮の廊下はひどく静かだ。
アルベルトは一人、執務室に残る。
帳簿を閉じ、窓の外を見る。
北門から出ていく荷馬車の列が、やけに長い。
「臨時だ」と自分に言い聞かせる。
目を閉じる。
暗闇。
白い衣が立つ。
その足元に、赤い染み。
瞬きをする。
ただの影。
事故は事故。
急病は急病。
偶然は続くこともある。
そうだ。
続くこともある。
背後から声が落ちる。
「殿下」
振り返る。
リュシエラが立っている。
白い衣。
何も付いていない。
「皆様は殿下を恐れているのではございません」
「では何だ」
「殿下が強すぎるのです」
微笑み。
安心を与えるような声。
だがその言葉は、孤立を肯定する。
翌朝。
アーレン伯の容態が悪化したとの報が入る。
命に別状はない。
だが復帰の目処は立たない。
円卓の空席は埋まらない。
誰も声を上げない。
ただ、距離がまた一歩広がる。
隣国では。
新たな商会が正式に移転を決定した。
契約書に署名が並ぶ。
拍手は控えめだが確実。
エリシアは静かに頷く。
「秩序は人を呼びます」
ディルクが言う。
「王都は、静かに人を失っている」
「選択の結果です」
彼女の声は揺れない。
王宮。
アルベルトは再び円卓に座る。
空席が目に刺さる。
それでも言う。
「問題はない」
誰も否定しない。
誰も肯定しない。
沈黙が答え。
そしてまた一つ、空席が固定される。
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同じ月が、両国を照らしている。
だが光の当たり方は、まるで違っていた。
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