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第19話 いないと、伝説になるらしい
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第19話 いないと、伝説になるらしい
私は学んだ。
姿を見せなければ、役割を与えられない。
そう信じていた。
――甘かった。
「お嬢様、本日の予定ですが……」
朝。
私はすでに屋敷にいない。
正確には、いないことにしている。
小さな離れ。
庭の奥。
来客動線から外れた、日当たりのいい部屋。
机はない。
書類もない。
あるのは、長椅子と毛布と紅茶。
完璧な逃避拠点。
「ロバート、今日は“不在”で」
「承知しております。
“視察中”という扱いにしておきます」
「“視察”も仕事よ?」
「……“気晴らし中”にいたしましょう」
「それで」
私は満足した。
午前。
屋敷の正門が、ざわつく。
来客。
相談。
打診。
――すべて、ロバートが止めた。
「申し訳ございません。
本日、お嬢様は“不在”です」
完璧。
昼。
私は毛布にくるまり、うとうとしていた。
幸せ。
……のはずだった。
夕方。
マーガレットが、そっと来た。
「お嬢様」
「……何?」
「噂が……」
私は目を閉じたまま言う。
「聞かない」
「“本当に大事な場面にしか現れない”そうです」
……。
「それ、いないのに評価されてない?」
「はい」
私は毛布を頭まで引き上げた。
翌日。
私は、さらに徹底した。
完全不在。
・屋敷に戻らない
・庭にも出ない
・使用人にも会わない
結果。
噂が進化した。
「お嬢様」
ロバートの声が、疲れている。
「今度は何」
「“アーデルハイド令嬢は、
必要なときだけ姿を見せるため、
普段は静かに力を蓄えている”そうです」
「……冬眠?」
「そのような」
私は、笑ってしまった。
「もう勝手にして」
数日後。
父が、離れに来た。
「レイラ」
「何」
「……お前、不在のほうが影響力が強いな」
「最悪の評価ね」
「王宮から、“もしお時間が許せば”という書簡が来ている」
「不在です」
「“お返事だけでも”と」
「不在です」
父は、肩をすくめた。
「分かった。
“今はお休み中”と伝えておく」
「ありがとう」
夜。
私は日記を書く。
『いないと、想像で補完される。
人は、空白に意味を与える生き物らしい』
そして、ひとつ決めた。
私は、もう抗わない。
何もしない。
現れない。
説明しない。
それでも評価されるなら――
それは私ではなく、
周囲の物語だ。
私はただ、
毛布の中で、
紅茶を飲む。
それでいい。
……はずなのに。
翌朝。
ロバートが、苦笑しながら言った。
「お嬢様」
「何」
「“いないのに安心する存在”だそうです」
私は、天井を見つめた。
「……それ、もう守護霊じゃない?」
私は学んだ。
姿を見せなければ、役割を与えられない。
そう信じていた。
――甘かった。
「お嬢様、本日の予定ですが……」
朝。
私はすでに屋敷にいない。
正確には、いないことにしている。
小さな離れ。
庭の奥。
来客動線から外れた、日当たりのいい部屋。
机はない。
書類もない。
あるのは、長椅子と毛布と紅茶。
完璧な逃避拠点。
「ロバート、今日は“不在”で」
「承知しております。
“視察中”という扱いにしておきます」
「“視察”も仕事よ?」
「……“気晴らし中”にいたしましょう」
「それで」
私は満足した。
午前。
屋敷の正門が、ざわつく。
来客。
相談。
打診。
――すべて、ロバートが止めた。
「申し訳ございません。
本日、お嬢様は“不在”です」
完璧。
昼。
私は毛布にくるまり、うとうとしていた。
幸せ。
……のはずだった。
夕方。
マーガレットが、そっと来た。
「お嬢様」
「……何?」
「噂が……」
私は目を閉じたまま言う。
「聞かない」
「“本当に大事な場面にしか現れない”そうです」
……。
「それ、いないのに評価されてない?」
「はい」
私は毛布を頭まで引き上げた。
翌日。
私は、さらに徹底した。
完全不在。
・屋敷に戻らない
・庭にも出ない
・使用人にも会わない
結果。
噂が進化した。
「お嬢様」
ロバートの声が、疲れている。
「今度は何」
「“アーデルハイド令嬢は、
必要なときだけ姿を見せるため、
普段は静かに力を蓄えている”そうです」
「……冬眠?」
「そのような」
私は、笑ってしまった。
「もう勝手にして」
数日後。
父が、離れに来た。
「レイラ」
「何」
「……お前、不在のほうが影響力が強いな」
「最悪の評価ね」
「王宮から、“もしお時間が許せば”という書簡が来ている」
「不在です」
「“お返事だけでも”と」
「不在です」
父は、肩をすくめた。
「分かった。
“今はお休み中”と伝えておく」
「ありがとう」
夜。
私は日記を書く。
『いないと、想像で補完される。
人は、空白に意味を与える生き物らしい』
そして、ひとつ決めた。
私は、もう抗わない。
何もしない。
現れない。
説明しない。
それでも評価されるなら――
それは私ではなく、
周囲の物語だ。
私はただ、
毛布の中で、
紅茶を飲む。
それでいい。
……はずなのに。
翌朝。
ロバートが、苦笑しながら言った。
「お嬢様」
「何」
「“いないのに安心する存在”だそうです」
私は、天井を見つめた。
「……それ、もう守護霊じゃない?」
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