21 / 40
第21話 何もしない抵抗、効きすぎる
しおりを挟む
第21話 何もしない抵抗、効きすぎる
結論から言う。
市場に出ただけで、事態は悪化した。
「……どうして?」
朝食の紅茶を前に、私は真顔でつぶやいた。
「お嬢様が“自ら民の中へ降り立たれた”と」
「ただの買い物よ?」
「“沈黙の象徴が、沈黙したまま動いた”そうです」
マーガレットの説明は、相変わらず意味が分からない。
「余計な解釈を付けないで」
「世間が勝手に……」
「それが一番怖いのよ」
ロバートが追加情報を持ってきた。
「王宮が動きました」
「……何を?」
「“今後、レイラ・フォン・アーデルハイドの私的行動を、政治的判断として扱わない”という通達です」
私は、紅茶を吹きそうになった。
「それ、逆に意識してるわよね?」
「はい。
“扱わない”と宣言することで、
“扱ってきた事実”を認めた形になります」
「詰んでない?」
「半分ほど」
父が、静かに席についた。
「レイラ」
「なに」
「お前はな、
“動かないことで均衡を作り、
動くことで波紋を広げる”
稀有な存在になっている」
「それ褒めてないわよね?」
「心配している」
私は、ため息をついた。
「……私は、
静かに暮らしたいだけなの」
「分かっている」
「目立ちたくないし、
国家に影響も与えたくないし、
象徴にもなりたくない」
「だがな」
父は、少しだけ苦笑した。
「お前はもう、
“何もしないという選択を、
自分で選び取った存在”だ」
――それが、重い。
午後。
私は決めた。
さらに何もしない。
部屋に籠もり、
本を読み、
昼寝をし、
菓子を食べる。
完全な日常。
結果。
「お嬢様……」
「また噂?」
「はい。
“沈黙を貫いている”と」
「だから、それが余計なのよ!」
私が叫ぶと、
マーガレットがぽつりと言った。
「……でしたら」
「なに」
「“何もしないことを、
意識的に見せない”のはいかがでしょう」
私は、眉をひそめる。
「どういう意味?」
「何もしないことを、
あえて、
誰にも観測させないのです」
沈黙。
「……姿を消す?」
「はい。
“存在しているが、確認できない状態”」
私は、目を閉じた。
「……それ、
さらに神格化しない?」
「可能性は高いです」
「却下」
その夜。
日記を書いた。
『今日も何もしていない。
だが、世界は私に意味を押し付ける。
私はただ、
静かに菓子を食べたいだけなのに』
ペンを置き、
天井を見上げる。
(……どうしてこうなるのよ)
だが、同時に理解してしまった。
何もしないことは、
この世界では
最も理解されにくい行為なのだ。
なら。
私は、次の段階に進むしかない。
“意味を持たない行動”を、
意味が壊れるほど繰り返す。
明日は――
庭で、
本気で、
昼寝をする。
誰にも期待されないために。
誰の象徴にもならないために。
それが、
私の静かな戦いだ。
結論から言う。
市場に出ただけで、事態は悪化した。
「……どうして?」
朝食の紅茶を前に、私は真顔でつぶやいた。
「お嬢様が“自ら民の中へ降り立たれた”と」
「ただの買い物よ?」
「“沈黙の象徴が、沈黙したまま動いた”そうです」
マーガレットの説明は、相変わらず意味が分からない。
「余計な解釈を付けないで」
「世間が勝手に……」
「それが一番怖いのよ」
ロバートが追加情報を持ってきた。
「王宮が動きました」
「……何を?」
「“今後、レイラ・フォン・アーデルハイドの私的行動を、政治的判断として扱わない”という通達です」
私は、紅茶を吹きそうになった。
「それ、逆に意識してるわよね?」
「はい。
“扱わない”と宣言することで、
“扱ってきた事実”を認めた形になります」
「詰んでない?」
「半分ほど」
父が、静かに席についた。
「レイラ」
「なに」
「お前はな、
“動かないことで均衡を作り、
動くことで波紋を広げる”
稀有な存在になっている」
「それ褒めてないわよね?」
「心配している」
私は、ため息をついた。
「……私は、
静かに暮らしたいだけなの」
「分かっている」
「目立ちたくないし、
国家に影響も与えたくないし、
象徴にもなりたくない」
「だがな」
父は、少しだけ苦笑した。
「お前はもう、
“何もしないという選択を、
自分で選び取った存在”だ」
――それが、重い。
午後。
私は決めた。
さらに何もしない。
部屋に籠もり、
本を読み、
昼寝をし、
菓子を食べる。
完全な日常。
結果。
「お嬢様……」
「また噂?」
「はい。
“沈黙を貫いている”と」
「だから、それが余計なのよ!」
私が叫ぶと、
マーガレットがぽつりと言った。
「……でしたら」
「なに」
「“何もしないことを、
意識的に見せない”のはいかがでしょう」
私は、眉をひそめる。
「どういう意味?」
「何もしないことを、
あえて、
誰にも観測させないのです」
沈黙。
「……姿を消す?」
「はい。
“存在しているが、確認できない状態”」
私は、目を閉じた。
「……それ、
さらに神格化しない?」
「可能性は高いです」
「却下」
その夜。
日記を書いた。
『今日も何もしていない。
だが、世界は私に意味を押し付ける。
私はただ、
静かに菓子を食べたいだけなのに』
ペンを置き、
天井を見上げる。
(……どうしてこうなるのよ)
だが、同時に理解してしまった。
何もしないことは、
この世界では
最も理解されにくい行為なのだ。
なら。
私は、次の段階に進むしかない。
“意味を持たない行動”を、
意味が壊れるほど繰り返す。
明日は――
庭で、
本気で、
昼寝をする。
誰にも期待されないために。
誰の象徴にもならないために。
それが、
私の静かな戦いだ。
12
あなたにおすすめの小説
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
今さら救いの手とかいらないのですが……
カレイ
恋愛
侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。
それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。
オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが……
「そろそろ許してあげても良いですっ」
「あ、結構です」
伸ばされた手をオデットは払い除ける。
許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。
※全19話の短編です。
【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】
繭
恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。
果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?
完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の幼馴染はいつもわがまま放題。それを放置する。
結婚式でもやらかして私の挙式はメチャクチャに
「ほんの冗談さ」と王子は軽くあしらうが、そこに一人の男性が現れて……
【完結】この運命を受け入れましょうか
なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」
自らの夫であるルーク陛下の言葉。
それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。
「承知しました。受け入れましょう」
ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。
彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。
みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。
だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。
そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。
あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。
これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。
前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。
ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。
◇◇◇◇◇
設定は甘め。
不安のない、さっくり読める物語を目指してます。
良ければ読んでくだされば、嬉しいです。
【完結】大好きな貴方、婚約を解消しましょう
凛蓮月
恋愛
大好きな貴方、婚約を解消しましょう。
私は、恋に夢中で何も見えていなかった。
だから、貴方に手を振り払われるまで、嫌われていることさえ気付か
なかったの。
※この作品は「小説家になろう」内の「名も無き恋の物語【短編集】」「君と甘い一日を」より抜粋したものです。
2022/9/5
隣国の王太子の話【王太子は、婚約者の愛を得られるか】完結しました。
お見かけの際はよろしくお願いしますm(_ _ )m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる