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第十四話 教会が示す正統性
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第十四話 教会が示す正統性
王都大聖堂の鐘が、正午を告げた。
その音は祈りの合図であると同時に、
この国における正統性の所在を示す合図でもある。
この日、教会は沈黙を破った。
正式な勅書でも、破門宣告でもない。
だが、政治において最も効く形で――
立場を示したのだ。
大聖堂の奥、司教団の会議室。
集っているのは、王国全域を管轄する高位司教たち。
彼らの前には、一通の書簡が置かれていた。
差出人は、エノー公爵。
内容は簡潔だった。
> 「我が娘アリエノールに対する不当な断罪、
および王太子による越権行為について、
教会の見解を求める」
これは、問いではない。
踏み絵だった。
教会がどちらにつくかで、
王家の命運は決まる。
長い沈黙の後、
最年長の大司教が口を開いた。
「婚約とは、
神の前で結ばれる契約である」
誰もが知っている言葉。
だが、今ここで語られる意味は重い。
「それを破棄できるのは、
神に代わり裁定を下す者のみ」
「王太子は、
その権限を持たない」
結論は、すでに出ていた。
「よって我々は、
今回の王太子の発言を
教会法上、無効と判断する」
それは、王家の面子を守る表現だった。
だが同時に、
王太子の行為を全面否定する宣言でもある。
「さらに」
大司教は続ける。
「アリエノール・ダキテーヌ公爵令嬢に
婚姻上の瑕疵は認められない」
「彼女の名誉は、
完全である」
この一文は、
貴族社会にとって決定的だった。
教会が名誉を保証した者を、
世俗権力が否定することはできない。
司教の一人が、確認するように言う。
「これにより、
公爵家が取る行動は
正当防衛の範疇に入りますな」
「その通りだ」
大司教は、はっきりと頷いた。
「王家が秩序を回復できない場合、
教会は“秩序を守る側”を支持する」
その言葉の意味は、
誰もが理解していた。
教会は、
王家ではなく、
秩序につく。
その日のうちに、
教会の見解は各地に伝えられた。
王都の貴族たちは、
一斉に動き始める。
態度を保留していた家々が、
次々とエノー公爵家へ書簡を送った。
「貴家の立場を支持する」
「協議の席を設けたい」
「同盟の再確認を願う」
王城では、
その報告が次々と積み上がっていく。
宰相は、
報告書を読み終え、
静かに国王に告げた。
「……教会は、
公爵側に立ちました」
国王ルイ十二世は、
しばらく何も言わなかった。
怒りも、嘆きもない。
ただ、
計算だけがあった。
「王太子は、
もはや王になれぬな」
それは、父としての言葉ではない。
国家の現実を見据えた、
冷静な判断だった。
「はい」
宰相は、否定しない。
「教会の祝福なき王位は、
反乱を招くだけです」
その頃、エノー公爵領。
アリエノールは、
教会から届いた正式文書を読み、
静かに息を吐いた。
「……これで、
私個人の名誉は、
完全に切り離されましたわね」
父は、娘を見て言う。
「お前は、
もう“被害者”ではない」
「交渉の、
当事者だ」
アリエノールは、
その言葉を受け止め、
微かに微笑んだ。
「では、
ようやく始まりますわね」
恋愛でも、
学院の事件でもない。
国家と国家が、
契約をどう結び直すかの話が。
この日、
王国の力関係は、
誰の目にも明らかになった。
王冠が正統性を生むのではない。
正統性が、王冠を許すのだ。
そしてその正統性は、
いま――
エノー公爵家の側にあった。
王都大聖堂の鐘が、正午を告げた。
その音は祈りの合図であると同時に、
この国における正統性の所在を示す合図でもある。
この日、教会は沈黙を破った。
正式な勅書でも、破門宣告でもない。
だが、政治において最も効く形で――
立場を示したのだ。
大聖堂の奥、司教団の会議室。
集っているのは、王国全域を管轄する高位司教たち。
彼らの前には、一通の書簡が置かれていた。
差出人は、エノー公爵。
内容は簡潔だった。
> 「我が娘アリエノールに対する不当な断罪、
および王太子による越権行為について、
教会の見解を求める」
これは、問いではない。
踏み絵だった。
教会がどちらにつくかで、
王家の命運は決まる。
長い沈黙の後、
最年長の大司教が口を開いた。
「婚約とは、
神の前で結ばれる契約である」
誰もが知っている言葉。
だが、今ここで語られる意味は重い。
「それを破棄できるのは、
神に代わり裁定を下す者のみ」
「王太子は、
その権限を持たない」
結論は、すでに出ていた。
「よって我々は、
今回の王太子の発言を
教会法上、無効と判断する」
それは、王家の面子を守る表現だった。
だが同時に、
王太子の行為を全面否定する宣言でもある。
「さらに」
大司教は続ける。
「アリエノール・ダキテーヌ公爵令嬢に
婚姻上の瑕疵は認められない」
「彼女の名誉は、
完全である」
この一文は、
貴族社会にとって決定的だった。
教会が名誉を保証した者を、
世俗権力が否定することはできない。
司教の一人が、確認するように言う。
「これにより、
公爵家が取る行動は
正当防衛の範疇に入りますな」
「その通りだ」
大司教は、はっきりと頷いた。
「王家が秩序を回復できない場合、
教会は“秩序を守る側”を支持する」
その言葉の意味は、
誰もが理解していた。
教会は、
王家ではなく、
秩序につく。
その日のうちに、
教会の見解は各地に伝えられた。
王都の貴族たちは、
一斉に動き始める。
態度を保留していた家々が、
次々とエノー公爵家へ書簡を送った。
「貴家の立場を支持する」
「協議の席を設けたい」
「同盟の再確認を願う」
王城では、
その報告が次々と積み上がっていく。
宰相は、
報告書を読み終え、
静かに国王に告げた。
「……教会は、
公爵側に立ちました」
国王ルイ十二世は、
しばらく何も言わなかった。
怒りも、嘆きもない。
ただ、
計算だけがあった。
「王太子は、
もはや王になれぬな」
それは、父としての言葉ではない。
国家の現実を見据えた、
冷静な判断だった。
「はい」
宰相は、否定しない。
「教会の祝福なき王位は、
反乱を招くだけです」
その頃、エノー公爵領。
アリエノールは、
教会から届いた正式文書を読み、
静かに息を吐いた。
「……これで、
私個人の名誉は、
完全に切り離されましたわね」
父は、娘を見て言う。
「お前は、
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「では、
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いま――
エノー公爵家の側にあった。
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