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29話 動かぬ者の代価
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29話 動かぬ者の代価
王太子の決断は、王都に安定をもたらした。
拙速な縁談を避け、改革を優先する。
理にかなった判断。
支持も広がっている。
だが安定の裏には、別の揺れが生まれていた。
「殿下は公爵家に遠慮しているのでは」
「いや、対等を守っているのだろう」
「いずれにせよ、公爵令嬢の影響は大きい」
影響。
その言葉が、重みを帯びる。
エルフィーナは何もしていない。
だが彼女の沈黙は、意味を持つ。
王宮の一室。
「南方公が不満を示しております」
レオンが報告する。
「理由は」
「王太子の婚姻が定まらぬことへの懸念」
アレクシスは眉を寄せる。
予想していた波だ。
縁談を見送った以上、空白は続く。
「改革が優先だと伝えよ」
「すでに」
「では」
「それでも不安は残ると」
王家は象徴だ。
象徴の未来が曖昧であることは、政治的に不安定と受け取られる。
一方、ルヴァリエ公爵邸。
「南方公が王宮に圧をかけているとのこと」
家宰の報告に、エルフィーナは目を細める。
「当然ね」
「お嬢様に相談が来る可能性も」
「来ないわ」
穏やかな断言。
「殿下が受け止めるべきもの」
均衡を守るとは、相手の責任を奪わないこと。
だがそれは同時に、自分が矢面に立たないということでもある。
「お嬢様は冷たいと評する者もおります」
マリアが少しだけ躊躇して言う。
エルフィーナは静かに笑う。
「冷たいのではなく、距離を守っているだけ」
近づけば、期待される。
期待されれば、均衡が崩れる。
働かないと決めた以上、前に出ない。
数日後、王宮で南方公との会談が開かれた。
「殿下、王家の安定は婚姻にかかっております」
重い声。
「改革も重要だが、象徴の明確化が必要では」
アレクシスは落ち着いて応じる。
「安定とは、急ぐことではない」
「だが空白は疑念を生む」
「疑念は説明で払拭する」
理で応じる。
感情ではない。
だが南方公は最後に言った。
「公爵家の影響が強すぎると、民は思い始めておりますぞ」
その一言は、重く残った。
夜、塔の上。
「影響が強すぎる」
アレクシスは呟く。
「そのように見る者もおります」
レオンは否定しない。
「彼女は何もしていない」
「はい」
「だが何もしていないことが、力と見なされる」
沈黙。
それは最も強い印象を残す。
一方、エルフィーナは書斎で報告書を閉じる。
南方公の発言はすでに耳に入っている。
「お嬢様にとって不利では」
マリアが心配する。
「不利?」
彼女は首を傾げる。
「私は何もしていないわ」
それが答え。
だが本当は理解している。
動かないことは、誤解も呼ぶ。
均衡を守る代価は、孤立の影だ。
窓の外、王宮の灯りが揺れる。
「殿下は、試されているのね」
小さく呟く。
そして自分も。
彼女は前に出ない。
だが影響があると見なされる。
それは望んだ立場ではない。
しかし否定もしない。
翌日、公式の場で二人は再び顔を合わせる。
周囲の視線は、以前より鋭い。
「南方公の件、聞いたか」
アレクシスが静かに問う。
「ええ」
「気にしているか」
「いいえ」
迷いのない声。
「私は中心ではありません」
その言葉は、以前より少し強い。
「だがそう見られている」
「見るのは他者ですわ」
彼女は一歩も引かない。
「殿下が揺れなければ、崩れません」
信頼ではない。
確認だ。
彼が覚悟を持ち続ける限り、均衡は保たれる。
アレクシスは静かに頷く。
「私は揺れない」
「なら問題ありません」
それだけ。
だがそのやり取りは、周囲の空気を変える。
影響とは、発言ではなく、姿勢で決まる。
動かぬ者の代価は、誤解と孤立。
だがそれを受け入れる覚悟があるからこそ、均衡は続く。
王都の空は澄んでいる。
風は強くない。
それでも目に見えない圧力は確かに存在する。
エルフィーナは働かない。
だが均衡の重さは、確かに肩に乗っていた。
そしてアレクシスは、その重さを共有していることに気づき始めていた。
王太子の決断は、王都に安定をもたらした。
拙速な縁談を避け、改革を優先する。
理にかなった判断。
支持も広がっている。
だが安定の裏には、別の揺れが生まれていた。
「殿下は公爵家に遠慮しているのでは」
「いや、対等を守っているのだろう」
「いずれにせよ、公爵令嬢の影響は大きい」
影響。
その言葉が、重みを帯びる。
エルフィーナは何もしていない。
だが彼女の沈黙は、意味を持つ。
王宮の一室。
「南方公が不満を示しております」
レオンが報告する。
「理由は」
「王太子の婚姻が定まらぬことへの懸念」
アレクシスは眉を寄せる。
予想していた波だ。
縁談を見送った以上、空白は続く。
「改革が優先だと伝えよ」
「すでに」
「では」
「それでも不安は残ると」
王家は象徴だ。
象徴の未来が曖昧であることは、政治的に不安定と受け取られる。
一方、ルヴァリエ公爵邸。
「南方公が王宮に圧をかけているとのこと」
家宰の報告に、エルフィーナは目を細める。
「当然ね」
「お嬢様に相談が来る可能性も」
「来ないわ」
穏やかな断言。
「殿下が受け止めるべきもの」
均衡を守るとは、相手の責任を奪わないこと。
だがそれは同時に、自分が矢面に立たないということでもある。
「お嬢様は冷たいと評する者もおります」
マリアが少しだけ躊躇して言う。
エルフィーナは静かに笑う。
「冷たいのではなく、距離を守っているだけ」
近づけば、期待される。
期待されれば、均衡が崩れる。
働かないと決めた以上、前に出ない。
数日後、王宮で南方公との会談が開かれた。
「殿下、王家の安定は婚姻にかかっております」
重い声。
「改革も重要だが、象徴の明確化が必要では」
アレクシスは落ち着いて応じる。
「安定とは、急ぐことではない」
「だが空白は疑念を生む」
「疑念は説明で払拭する」
理で応じる。
感情ではない。
だが南方公は最後に言った。
「公爵家の影響が強すぎると、民は思い始めておりますぞ」
その一言は、重く残った。
夜、塔の上。
「影響が強すぎる」
アレクシスは呟く。
「そのように見る者もおります」
レオンは否定しない。
「彼女は何もしていない」
「はい」
「だが何もしていないことが、力と見なされる」
沈黙。
それは最も強い印象を残す。
一方、エルフィーナは書斎で報告書を閉じる。
南方公の発言はすでに耳に入っている。
「お嬢様にとって不利では」
マリアが心配する。
「不利?」
彼女は首を傾げる。
「私は何もしていないわ」
それが答え。
だが本当は理解している。
動かないことは、誤解も呼ぶ。
均衡を守る代価は、孤立の影だ。
窓の外、王宮の灯りが揺れる。
「殿下は、試されているのね」
小さく呟く。
そして自分も。
彼女は前に出ない。
だが影響があると見なされる。
それは望んだ立場ではない。
しかし否定もしない。
翌日、公式の場で二人は再び顔を合わせる。
周囲の視線は、以前より鋭い。
「南方公の件、聞いたか」
アレクシスが静かに問う。
「ええ」
「気にしているか」
「いいえ」
迷いのない声。
「私は中心ではありません」
その言葉は、以前より少し強い。
「だがそう見られている」
「見るのは他者ですわ」
彼女は一歩も引かない。
「殿下が揺れなければ、崩れません」
信頼ではない。
確認だ。
彼が覚悟を持ち続ける限り、均衡は保たれる。
アレクシスは静かに頷く。
「私は揺れない」
「なら問題ありません」
それだけ。
だがそのやり取りは、周囲の空気を変える。
影響とは、発言ではなく、姿勢で決まる。
動かぬ者の代価は、誤解と孤立。
だがそれを受け入れる覚悟があるからこそ、均衡は続く。
王都の空は澄んでいる。
風は強くない。
それでも目に見えない圧力は確かに存在する。
エルフィーナは働かない。
だが均衡の重さは、確かに肩に乗っていた。
そしてアレクシスは、その重さを共有していることに気づき始めていた。
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