働きませんわ。それでも王妃になります

鷹 綾

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30話 揺らがぬ宣言

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30話 揺らがぬ宣言

 南方公の一言は、静かに王都へ広がった。

 公爵家の影響が強すぎる。

 それは事実ではない。

 だが印象は事実よりも長く残る。

 王宮の会議室。

「王家の主体性を示すべきです」

 重臣の一人が進言する。

「公爵家との距離を明確に」

 距離。

 その言葉に、アレクシスは視線を上げる。

「距離はすでに明確だ」

「民にはそう見えておりません」

 沈黙が落ちる。

 対等は、曖昧に見える。

 曖昧は疑念を生む。

「ならば示そう」

 彼の声は静かだが揺らがない。

「公爵家は王家の支配下でも、指示下でもない」

 周囲がざわめく。

「対等である」

 その言葉を、公の場で改めて宣言する。

 会議後、レオンが問う。

「強い宣言でした」

「必要だ」

「公爵令嬢にとっても」

 アレクシスは一瞬だけ考える。

「彼女は望んでいないだろう」

「ですが守られました」

 守られた。

 その表現に、彼はわずかに眉を動かす。

 一方、ルヴァリエ公爵邸。

「殿下が公の場で対等を明言なさいました」

 家宰が静かに報告する。

 エルフィーナは紅茶を持つ手を止める。

「そう」

 短い言葉。

「南方公の牽制を退ける形です」

「当然のことをおっしゃっただけ」

 だがその胸の奥に、微かな熱が灯る。

 彼は揺れなかった。

 誰かに押されたわけではない。

 自分の言葉で、立場を示した。

「お嬢様は何もなさらないのですか」

 マリアが問う。

「何も」

 即答。

「私は働かないもの」

 だがその表情は、ほんのわずかに柔らかい。

 数日後、王宮で小規模な公式集会が開かれた。

 王太子の宣言は、貴族たちの間で再確認される。

「公爵家は王家と対等」

 その言葉は、今や公式な立場となった。

 エルフィーナも出席している。

 視線は多い。

 だが彼女はいつも通りだ。

 終盤、アレクシスが彼女に歩み寄る。

「聞いたか」

「ええ」

「どう思う」

 問いは率直。

「殿下らしいご判断です」

「それだけか」

「それ以上、申し上げることはありません」

 穏やかな声。

 だが目はまっすぐ。

 彼は少しだけ息を吐く。

「私は揺れないと言った」

「ええ」

「そして今も揺れていない」

「存じております」

 祝福でも賞賛でもない。

 確認。

 それが心地よい。

「君は、本当に何も望まないのだな」

 問いは静かだ。

 エルフィーナは一瞬だけ考える。

「望まないのではありません」

 珍しく、言葉が続く。

「望みを持てば、均衡が崩れるのです」

 それが彼女の選択。

 近づかない。

 依存しない。

 動かない。

 アレクシスはゆっくり頷く。

「ならば私は、崩さぬよう立つ」

 宣言の延長。

 彼の覚悟は、もう揺れない。

 夜、王宮の塔。

「殿下の宣言は効果を上げております」

 レオンが報告する。

「南方公も沈黙しました」

「良い」

 アレクシスは空を見上げる。

 星は揺れない。

 自分も揺れない。

 対等を選ぶとは、相手を縛らないこと。

 そして自分も縛られないこと。

 一方、エルフィーナは窓辺に立つ。

 王宮の灯りが静かに光る。

「殿下は、覚悟を決められました」

 マリアが言う。

「ええ」

「嬉しくは」

「嬉しいという感情は、均衡を崩すわ」

 そう言いながらも、声はわずかに柔らかい。

 働かない。

 だが見ている。

 動かない。

 だが感じている。

 王都は静かだ。

 揺らがぬ宣言は、盤面を固定した。

 二人の距離は変わらない。

 それでも、立ち位置は確実に強固になった。

 均衡は守られている。

 そしてその均衡の中心に、動かぬ者と揺らがぬ者が並び立っていた。
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