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33話 沈黙の価値
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33話 沈黙の価値
南東部の反発が収まり、王都は再び穏やかさを取り戻した。
王太子の視察は評価され、改革は現実味を帯びる。
公爵家は動かず、王家は立つ。
均衡は、以前よりも明確な形を持ち始めていた。
だが安定が長く続くと、人は別の問いを抱く。
この静けさは、誰のものなのか。
王宮の重臣会議。
「殿下の支持は回復しております」
「地方領主の信頼も戻りつつあります」
「公爵家との関係も安定」
数字は整っている。
だが一人の老臣が静かに言った。
「静けさは、いつも正しいとは限りません」
視線が集まる。
「沈黙は支持とも、距離とも取れる」
アレクシスはその言葉を胸に刻む。
沈黙。
彼女の姿勢。
一方、ルヴァリエ公爵邸。
「王宮は順調のようです」
家宰が報告する。
「殿下の評価も回復」
「それは良いことね」
エルフィーナは静かに頷く。
「お嬢様の名も、依然として高く語られております」
「語られるだけよ」
彼女は紅茶を置く。
「沈黙は、誤解も生むわ」
沈黙は強さだ。
だが同時に、距離を作る。
社交界では、新しい世代の令嬢たちが台頭し始めていた。
「公爵令嬢は冷静すぎる」
「憧れはするけれど、近寄りがたい」
「王太子と距離を保ち続けるなんて」
尊敬と、遠さ。
動かない者は、触れにくい。
数日後、王宮で小さな文化催事が開かれた。
音楽と詩の夕べ。
政治色の薄い集まり。
エルフィーナも招かれている。
会場は柔らかな灯りに包まれていた。
アレクシスは来賓を迎えながら、彼女の姿を見つける。
灰青の装い。
変わらぬ佇まい。
だが今夜は少し違う。
彼女は若い詩人の話に耳を傾け、静かに微笑んでいる。
誰かの隣に立つわけでもなく、中央に出るわけでもない。
だが空気は自然と整う。
催事の後、回廊で二人は向き合う。
「今夜は、少し違ったな」
アレクシスが言う。
「何がですか」
「君が、楽しんでいた」
エルフィーナは少し考える。
「文化は均衡を崩しませんもの」
政治ではない。
責任もない。
ただ美しい時間。
「君は、常に均衡を考えている」
「当然ですわ」
沈黙が落ちる。
「沈黙は、誤解を生むと言っていたな」
彼の問い。
「はい」
「ならば、誤解されても構わないのか」
少しだけ鋭い。
エルフィーナは目を合わせる。
「誤解を解くために動けば、均衡が崩れます」
「だが距離は広がる」
「距離は必要です」
即答。
その強さに、彼は一瞬息を呑む。
「私は、距離を縮めたいと思っている」
低い声。
彼女は微笑む。
「殿下は近づきたいのではありません」
「では何だ」
「確認したいのです」
静かな指摘。
彼は言葉を失う。
「沈黙の価値を」
彼女は続ける。
「近づけば、沈黙は失われます」
沈黙は、対等の証。
何も求めず、何も縛らない。
その静けさが、均衡を保つ。
「私は、君の沈黙に支えられている」
彼の本音。
「支えてはおりません」
やはり否定。
「殿下が立っているだけ」
その言葉は、冷たくない。
ただ事実だ。
夜風が回廊を抜ける。
音楽の余韻が遠くに残る。
「沈黙は、価値か」
彼の問い。
「はい」
「ならば私は、それを尊重する」
近づかない。
奪わない。
確認しない。
それが今の答え。
エルフィーナは静かに礼をする。
「それで十分です」
王都の灯りは穏やかに揺れる。
沈黙は続く。
それは冷たさではない。
選ばれた距離。
動かぬ姿勢。
そして互いに理解しながら、踏み込まないという覚悟。
沈黙の価値は、今夜さらに重みを増していた。
南東部の反発が収まり、王都は再び穏やかさを取り戻した。
王太子の視察は評価され、改革は現実味を帯びる。
公爵家は動かず、王家は立つ。
均衡は、以前よりも明確な形を持ち始めていた。
だが安定が長く続くと、人は別の問いを抱く。
この静けさは、誰のものなのか。
王宮の重臣会議。
「殿下の支持は回復しております」
「地方領主の信頼も戻りつつあります」
「公爵家との関係も安定」
数字は整っている。
だが一人の老臣が静かに言った。
「静けさは、いつも正しいとは限りません」
視線が集まる。
「沈黙は支持とも、距離とも取れる」
アレクシスはその言葉を胸に刻む。
沈黙。
彼女の姿勢。
一方、ルヴァリエ公爵邸。
「王宮は順調のようです」
家宰が報告する。
「殿下の評価も回復」
「それは良いことね」
エルフィーナは静かに頷く。
「お嬢様の名も、依然として高く語られております」
「語られるだけよ」
彼女は紅茶を置く。
「沈黙は、誤解も生むわ」
沈黙は強さだ。
だが同時に、距離を作る。
社交界では、新しい世代の令嬢たちが台頭し始めていた。
「公爵令嬢は冷静すぎる」
「憧れはするけれど、近寄りがたい」
「王太子と距離を保ち続けるなんて」
尊敬と、遠さ。
動かない者は、触れにくい。
数日後、王宮で小さな文化催事が開かれた。
音楽と詩の夕べ。
政治色の薄い集まり。
エルフィーナも招かれている。
会場は柔らかな灯りに包まれていた。
アレクシスは来賓を迎えながら、彼女の姿を見つける。
灰青の装い。
変わらぬ佇まい。
だが今夜は少し違う。
彼女は若い詩人の話に耳を傾け、静かに微笑んでいる。
誰かの隣に立つわけでもなく、中央に出るわけでもない。
だが空気は自然と整う。
催事の後、回廊で二人は向き合う。
「今夜は、少し違ったな」
アレクシスが言う。
「何がですか」
「君が、楽しんでいた」
エルフィーナは少し考える。
「文化は均衡を崩しませんもの」
政治ではない。
責任もない。
ただ美しい時間。
「君は、常に均衡を考えている」
「当然ですわ」
沈黙が落ちる。
「沈黙は、誤解を生むと言っていたな」
彼の問い。
「はい」
「ならば、誤解されても構わないのか」
少しだけ鋭い。
エルフィーナは目を合わせる。
「誤解を解くために動けば、均衡が崩れます」
「だが距離は広がる」
「距離は必要です」
即答。
その強さに、彼は一瞬息を呑む。
「私は、距離を縮めたいと思っている」
低い声。
彼女は微笑む。
「殿下は近づきたいのではありません」
「では何だ」
「確認したいのです」
静かな指摘。
彼は言葉を失う。
「沈黙の価値を」
彼女は続ける。
「近づけば、沈黙は失われます」
沈黙は、対等の証。
何も求めず、何も縛らない。
その静けさが、均衡を保つ。
「私は、君の沈黙に支えられている」
彼の本音。
「支えてはおりません」
やはり否定。
「殿下が立っているだけ」
その言葉は、冷たくない。
ただ事実だ。
夜風が回廊を抜ける。
音楽の余韻が遠くに残る。
「沈黙は、価値か」
彼の問い。
「はい」
「ならば私は、それを尊重する」
近づかない。
奪わない。
確認しない。
それが今の答え。
エルフィーナは静かに礼をする。
「それで十分です」
王都の灯りは穏やかに揺れる。
沈黙は続く。
それは冷たさではない。
選ばれた距離。
動かぬ姿勢。
そして互いに理解しながら、踏み込まないという覚悟。
沈黙の価値は、今夜さらに重みを増していた。
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