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35話 均衡の外側
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35話 均衡の外側
踏み込まぬ誓いの夜から、王都は一層静けさを増していた。
改革は形を整え、商会は自律的に動き、地方の反発も表立っては見えない。
王家は立ち、公爵家は動かない。
均衡は、今や王都の前提になりつつあった。
だが均衡とは、内側の安定に過ぎない。
外側からの力は、別の理屈で動く。
王宮の外交室。
「北方の隣国より、使節が参ります」
レオンが報告する。
「目的は」
「王家の安定と、婚姻状況の確認」
婚姻。
その言葉は、まだ重みを持つ。
「対等の宣言は伝わっているのだな」
「はい。ただし」
「ただし?」
「公爵家の影響力も、同時に伝わっております」
アレクシスは静かに息を吐く。
内側の均衡は、外からは別の形に見える。
一方、ルヴァリエ公爵邸。
「隣国の使節団、王宮に入ったとのこと」
家宰が報告する。
「外交の場に、お嬢様の名が出る可能性も」
「出ても構わないわ」
エルフィーナは窓辺に立つ。
「私は動かないもの」
動かない。
だが名は動く。
それが代価。
数日後、王宮の大広間。
隣国の使節は穏やかな笑みを浮かべる。
「王太子殿下のご改革、実に見事」
「過分なお言葉だ」
「そして公爵家との対等関係」
視線が微かに揺れる。
「興味深い均衡です」
外交辞令の裏に、探る色がある。
「均衡は王国の安定の証」
アレクシスは揺れない。
「王家は主体を持ち、公爵家は独立を保つ」
「婚姻の予定は」
直球。
「未定だ」
即答。
曖昧にしない。
使節はわずかに目を細める。
「他国との縁もお考えに」
「王国の利益を第一に」
理で応じる。
感情は出さない。
会談後、レオンが言う。
「外からは、均衡が脆く見えるようです」
「なぜだ」
「強固すぎる均衡は、逆に特定の結びつきを疑われます」
疑念。
それは静けさの裏に潜む。
一方、エルフィーナはその報告を受け取る。
「外交の席で、私の名が出たそうです」
マリアが伝える。
「予想通りね」
「お嬢様は何もなさらないのですか」
「外交は殿下の責任」
変わらぬ答え。
だが心の奥に、わずかな揺れがある。
均衡は内側だけでは守れない。
外からの視線も考慮すべきか。
夜、王宮の回廊。
使節団は帰途についた。
アレクシスは静かに立つ。
そこへ、エルフィーナが現れる。
公式な書簡の受け渡し。
偶然ではない。
「聞いたか」
「ええ」
「外からは、我々の均衡は特別に見えるらしい」
「特別ではありません」
即答。
「王家と公爵家が、それぞれの立場を守っているだけ」
「だが婚姻の話を避け続ければ、疑念は残る」
彼女は少しだけ考える。
「殿下は、婚姻を外交の道具にしますか」
問いは静かだが鋭い。
アレクシスは即答しない。
「必要なら」
「必要とは何でしょう」
彼女は視線を外さない。
王国の利益か。
外圧への対応か。
それとも均衡の維持か。
「均衡の外側は、私の領分ではない」
エルフィーナは静かに言う。
「殿下が決めることです」
再び線を引く。
外からの圧力があっても、彼女は動かない。
彼が揺れない限り。
「私は揺れない」
アレクシスは低く言う。
「外交も、婚姻も、均衡も、私が決める」
宣言ではない。
確認。
エルフィーナは小さく頷く。
「それでよろしいのです」
均衡の外側は、王太子の責任。
均衡の内側は、彼女の沈黙。
役割は混ざらない。
王都の夜は澄んでいる。
外圧は消えない。
だが内側は揺れない。
働かない。
踏み込まない。
それでも均衡は守られる。
均衡の外側に立つのは彼。
均衡の内側に留まるのは彼女。
二人の距離は変わらない。
だがその距離が、王国を支えていることを、外の国々も感じ始めていた。
踏み込まぬ誓いの夜から、王都は一層静けさを増していた。
改革は形を整え、商会は自律的に動き、地方の反発も表立っては見えない。
王家は立ち、公爵家は動かない。
均衡は、今や王都の前提になりつつあった。
だが均衡とは、内側の安定に過ぎない。
外側からの力は、別の理屈で動く。
王宮の外交室。
「北方の隣国より、使節が参ります」
レオンが報告する。
「目的は」
「王家の安定と、婚姻状況の確認」
婚姻。
その言葉は、まだ重みを持つ。
「対等の宣言は伝わっているのだな」
「はい。ただし」
「ただし?」
「公爵家の影響力も、同時に伝わっております」
アレクシスは静かに息を吐く。
内側の均衡は、外からは別の形に見える。
一方、ルヴァリエ公爵邸。
「隣国の使節団、王宮に入ったとのこと」
家宰が報告する。
「外交の場に、お嬢様の名が出る可能性も」
「出ても構わないわ」
エルフィーナは窓辺に立つ。
「私は動かないもの」
動かない。
だが名は動く。
それが代価。
数日後、王宮の大広間。
隣国の使節は穏やかな笑みを浮かべる。
「王太子殿下のご改革、実に見事」
「過分なお言葉だ」
「そして公爵家との対等関係」
視線が微かに揺れる。
「興味深い均衡です」
外交辞令の裏に、探る色がある。
「均衡は王国の安定の証」
アレクシスは揺れない。
「王家は主体を持ち、公爵家は独立を保つ」
「婚姻の予定は」
直球。
「未定だ」
即答。
曖昧にしない。
使節はわずかに目を細める。
「他国との縁もお考えに」
「王国の利益を第一に」
理で応じる。
感情は出さない。
会談後、レオンが言う。
「外からは、均衡が脆く見えるようです」
「なぜだ」
「強固すぎる均衡は、逆に特定の結びつきを疑われます」
疑念。
それは静けさの裏に潜む。
一方、エルフィーナはその報告を受け取る。
「外交の席で、私の名が出たそうです」
マリアが伝える。
「予想通りね」
「お嬢様は何もなさらないのですか」
「外交は殿下の責任」
変わらぬ答え。
だが心の奥に、わずかな揺れがある。
均衡は内側だけでは守れない。
外からの視線も考慮すべきか。
夜、王宮の回廊。
使節団は帰途についた。
アレクシスは静かに立つ。
そこへ、エルフィーナが現れる。
公式な書簡の受け渡し。
偶然ではない。
「聞いたか」
「ええ」
「外からは、我々の均衡は特別に見えるらしい」
「特別ではありません」
即答。
「王家と公爵家が、それぞれの立場を守っているだけ」
「だが婚姻の話を避け続ければ、疑念は残る」
彼女は少しだけ考える。
「殿下は、婚姻を外交の道具にしますか」
問いは静かだが鋭い。
アレクシスは即答しない。
「必要なら」
「必要とは何でしょう」
彼女は視線を外さない。
王国の利益か。
外圧への対応か。
それとも均衡の維持か。
「均衡の外側は、私の領分ではない」
エルフィーナは静かに言う。
「殿下が決めることです」
再び線を引く。
外からの圧力があっても、彼女は動かない。
彼が揺れない限り。
「私は揺れない」
アレクシスは低く言う。
「外交も、婚姻も、均衡も、私が決める」
宣言ではない。
確認。
エルフィーナは小さく頷く。
「それでよろしいのです」
均衡の外側は、王太子の責任。
均衡の内側は、彼女の沈黙。
役割は混ざらない。
王都の夜は澄んでいる。
外圧は消えない。
だが内側は揺れない。
働かない。
踏み込まない。
それでも均衡は守られる。
均衡の外側に立つのは彼。
均衡の内側に留まるのは彼女。
二人の距離は変わらない。
だがその距離が、王国を支えていることを、外の国々も感じ始めていた。
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