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38話 動かない選択の終わり
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38話 動かない選択の終わり
南方公の圧力は、やがて一つの形を取った。
王家に対する公開の要望。
王太子の婚姻方針を明示せよ。
そして、公爵家との関係を正式に定義せよ。
曖昧な均衡は、もはや外からは不安定と見なされている。
王宮の大広間。
重臣たちが並ぶ。
アレクシスは中央に立つ。
「王太子の婚姻は、王国の安定のためにある」
静かな声。
「だが婚姻は、外圧への応答ではない」
視線が揺れる。
「公爵家との関係は、独立と協力の両立」
「では婚姻はないと明言なさるのですか」
問いは直截だ。
沈黙が落ちる。
アレクシスは息を吸う。
「私は、外圧のために婚姻を決めない」
明確な拒否。
しかしそれは、別の意味を持つ。
王太子が自ら責任を負うという宣言。
一方、ルヴァリエ公爵邸。
「殿下は明言なさいました」
マリアが伝える。
「ええ」
エルフィーナは窓辺に立つ。
彼は揺れを引き受けた。
だが揺れは消えていない。
むしろ強まっている。
「お嬢様は、このままで」
「動きません」
その言葉を、何度口にしただろう。
働かない。
踏み込まない。
均衡を守る。
だが今、均衡は彼一人に重くかかっている。
夜。
王宮から急な呼び出し。
形式ではない。
彼自身から。
回廊に立つ彼は、いつもより疲れて見えた。
「揺れは止まらない」
正直な言葉。
「南方公は更なる圧を」
「殿下は拒否なさるのでしょう」
「拒否する」
即答。
「だが王国の一部は不安を抱く」
均衡は、内外両方で揺れている。
「君は動かないと決めた」
「ええ」
「それでも」
彼は一歩近づく。
「私は、君に選択を委ねたい」
エルフィーナの心臓がわずかに跳ねる。
「何を」
「動かないという選択を、続けるかどうか」
その問いは、均衡の根に触れる。
彼女は沈黙する。
動かないことで、王国は安定した。
だが今は、彼が一人で圧を受けている。
「私は働かないと決めた」
「知っている」
「それが、私の誇りです」
彼は頷く。
「だからこそ、聞いている」
回廊の灯りが揺れる。
「動かないという選択は、守りの形だ」
「ええ」
「だが今、守るだけでは足りないかもしれない」
彼は逃げない。
弱さも隠さない。
「私は揺れを引き受けると言った」
「はい」
「だが揺れは、二人で支える方が強い」
その言葉は、恋の告白ではない。
同盟の申し出でもない。
対等な提案。
エルフィーナは目を閉じる。
動かない。
それは逃げではない。
だが、守りの形。
守るだけで、彼が削られるなら。
「殿下」
ゆっくりと目を開く。
「私は働きません」
彼の瞳がわずかに揺れる。
「ですが」
続く言葉に、空気が変わる。
「動かないことと、支えないことは別です」
静かな宣言。
「私は前に出ません」
「分かっている」
「けれど殿下の決断に、明確に同意を示します」
それは小さな一歩。
だが均衡を内側から強める。
「公爵家は、王家の主体性を支持すると公式に出しましょう」
「君が出すのか」
「公爵家として」
彼女自身ではない。
だが立場を使う。
「それでは動いたことになる」
「いいえ」
微笑む。
「私は働きません。ただ、言葉を置くだけです」
彼は思わず息を吐く。
守りだけではない。
彼女なりの支え。
「それで十分だ」
「殿下が揺れ続ける限り」
「揺れは受け止める」
二人は向き合う。
距離はまだある。
だが心の位置は、以前より近い。
翌日、公爵家からの声明が出された。
王家の主体的決定を尊重し、支持する。
婚姻を含むいかなる選択も、王太子の責任と権限に委ねる。
それは一見中立。
だが明確な支え。
南方公の圧は弱まる。
外圧も、内圧も。
均衡は、形を変えて強くなる。
夜。
アレクシスは空を見上げる。
彼女は働かない。
それでも支えた。
エルフィーナは窓辺で静かに紅茶を飲む。
動かない選択は終わっていない。
だが意味は変わった。
守るためだけではない。
共に支えるための静けさ。
均衡は、二人の覚悟で保たれている。
そして今、初めて。
働かないという誓いが、誰かを守る力に変わったのだった。
南方公の圧力は、やがて一つの形を取った。
王家に対する公開の要望。
王太子の婚姻方針を明示せよ。
そして、公爵家との関係を正式に定義せよ。
曖昧な均衡は、もはや外からは不安定と見なされている。
王宮の大広間。
重臣たちが並ぶ。
アレクシスは中央に立つ。
「王太子の婚姻は、王国の安定のためにある」
静かな声。
「だが婚姻は、外圧への応答ではない」
視線が揺れる。
「公爵家との関係は、独立と協力の両立」
「では婚姻はないと明言なさるのですか」
問いは直截だ。
沈黙が落ちる。
アレクシスは息を吸う。
「私は、外圧のために婚姻を決めない」
明確な拒否。
しかしそれは、別の意味を持つ。
王太子が自ら責任を負うという宣言。
一方、ルヴァリエ公爵邸。
「殿下は明言なさいました」
マリアが伝える。
「ええ」
エルフィーナは窓辺に立つ。
彼は揺れを引き受けた。
だが揺れは消えていない。
むしろ強まっている。
「お嬢様は、このままで」
「動きません」
その言葉を、何度口にしただろう。
働かない。
踏み込まない。
均衡を守る。
だが今、均衡は彼一人に重くかかっている。
夜。
王宮から急な呼び出し。
形式ではない。
彼自身から。
回廊に立つ彼は、いつもより疲れて見えた。
「揺れは止まらない」
正直な言葉。
「南方公は更なる圧を」
「殿下は拒否なさるのでしょう」
「拒否する」
即答。
「だが王国の一部は不安を抱く」
均衡は、内外両方で揺れている。
「君は動かないと決めた」
「ええ」
「それでも」
彼は一歩近づく。
「私は、君に選択を委ねたい」
エルフィーナの心臓がわずかに跳ねる。
「何を」
「動かないという選択を、続けるかどうか」
その問いは、均衡の根に触れる。
彼女は沈黙する。
動かないことで、王国は安定した。
だが今は、彼が一人で圧を受けている。
「私は働かないと決めた」
「知っている」
「それが、私の誇りです」
彼は頷く。
「だからこそ、聞いている」
回廊の灯りが揺れる。
「動かないという選択は、守りの形だ」
「ええ」
「だが今、守るだけでは足りないかもしれない」
彼は逃げない。
弱さも隠さない。
「私は揺れを引き受けると言った」
「はい」
「だが揺れは、二人で支える方が強い」
その言葉は、恋の告白ではない。
同盟の申し出でもない。
対等な提案。
エルフィーナは目を閉じる。
動かない。
それは逃げではない。
だが、守りの形。
守るだけで、彼が削られるなら。
「殿下」
ゆっくりと目を開く。
「私は働きません」
彼の瞳がわずかに揺れる。
「ですが」
続く言葉に、空気が変わる。
「動かないことと、支えないことは別です」
静かな宣言。
「私は前に出ません」
「分かっている」
「けれど殿下の決断に、明確に同意を示します」
それは小さな一歩。
だが均衡を内側から強める。
「公爵家は、王家の主体性を支持すると公式に出しましょう」
「君が出すのか」
「公爵家として」
彼女自身ではない。
だが立場を使う。
「それでは動いたことになる」
「いいえ」
微笑む。
「私は働きません。ただ、言葉を置くだけです」
彼は思わず息を吐く。
守りだけではない。
彼女なりの支え。
「それで十分だ」
「殿下が揺れ続ける限り」
「揺れは受け止める」
二人は向き合う。
距離はまだある。
だが心の位置は、以前より近い。
翌日、公爵家からの声明が出された。
王家の主体的決定を尊重し、支持する。
婚姻を含むいかなる選択も、王太子の責任と権限に委ねる。
それは一見中立。
だが明確な支え。
南方公の圧は弱まる。
外圧も、内圧も。
均衡は、形を変えて強くなる。
夜。
アレクシスは空を見上げる。
彼女は働かない。
それでも支えた。
エルフィーナは窓辺で静かに紅茶を飲む。
動かない選択は終わっていない。
だが意味は変わった。
守るためだけではない。
共に支えるための静けさ。
均衡は、二人の覚悟で保たれている。
そして今、初めて。
働かないという誓いが、誰かを守る力に変わったのだった。
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