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第一話 祝福なき宣言
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第一話 祝福なき宣言
王城の大広間は、金色の光に満ちていた。
天井から吊るされた巨大なシャンデリア。
壁一面の織物。
磨き上げられた床に映る無数の靴先。
祝宴だった。
本来なら、未来の王妃を正式に披露する夜。
王太子と公爵令嬢の婚約を、改めて国中に示す場。
音楽が止む。
王太子が一歩、前へ出る。
誰もが、型通りの宣言を待っていた。
だが彼の視線は、ヒロインではなく――
広間の端に立つ一人の少女へ向いていた。
質素な装い。
だが、怯えはない。
むしろ、静かに胸を張っている。
王太子は高らかに言った。
「私は、真実の愛を見つけた」
ざわめき。
貴族たちの視線が一斉に動く。
ヒロインは、微動だにしない。
「慣習や義務に縛られた婚約を、ここに破棄する」
空気が凍った。
誰かが息を呑む音がした。
王太子は少女の手を取り、引き寄せる。
「彼女こそ、私が共に未来を築く相手だ」
沈黙。
祝福は起こらない。
ただ、音のない衝撃だけが広間を満たす。
国王の顔が強張る。
王妃の指先が震える。
辺境伯の眉が動く。
ヒロインは、ゆっくりと視線を上げた。
怒りも涙もない。
ただ、静かに王太子を見る。
その沈黙が、かえって重い。
王太子は続ける。
「私は新しい時代を築く。身分ではなく、心で選ぶ王となる」
少女――平民娘は、わずかに王太子を見上げる。
その目に、恐れはない。
「殿下……」
小さく、震える声を装う。
だが、握る手は強い。
彼女は知っている。
王太子は「選ぶ側」でありたいのだ。
彼の耳元で、彼女は以前こう囁いた。
――殿下は、本当は誰よりもお優しい。
――誰も理解していないだけです。
それが効いた。
王太子は理解者を欲していた。
ヒロインはその場で一礼した。
「承知いたしました」
それだけ。
泣き崩れない。
抗議しない。
その態度が、広間をさらに冷やす。
辺境伯が低く呟く。
「承知……だと」
公爵は何も言わない。
ただ娘を見つめている。
王太子は勝利したつもりだった。
「これでよい。時代は変わる」
だが、変わったのは空気だ。
祝宴の楽団は再び音を出そうとするが、誰も踊らない。
貴族たちは互いに目を合わせる。
“契約はどうなる”
“軍需は”
“融資特約は”
声には出さない。
だが計算は始まっている。
平民娘は広間を見渡す。
視線が刺さる。
軽蔑、怒り、警戒。
それでも彼女は微笑む。
ここまで来た。
彼女は何も持たない娘だった。
だが今、王太子の腕の中にいる。
「私が、王妃に……」
心の奥で呟く。
その瞬間。
ヒロインの視線と交差した。
静かで、深い目。
そこには怒りも嫉妬もない。
ただ、冷たい理解がある。
平民娘の背筋がわずかに粟立つ。
王太子は気づかない。
「父上、母上。ご理解を」
国王は返答しない。
玉座の間に響くのは、音のない亀裂。
ヒロインは再び一礼し、広間を後にする。
誰も引き止めない。
その背に、視線が集まる。
去る者は、崩れていない。
残る者が、揺れている。
王太子は高らかに言う。
「祝え。新しい未来を」
だが拍手は起こらない。
その夜。
王城の灯りは消えずに揺れ続けた。
誰も口にはしない。
だが全員が理解していた。
これは恋の宣言ではない。
国の骨格に入った、最初の亀裂だ。
王城の大広間は、金色の光に満ちていた。
天井から吊るされた巨大なシャンデリア。
壁一面の織物。
磨き上げられた床に映る無数の靴先。
祝宴だった。
本来なら、未来の王妃を正式に披露する夜。
王太子と公爵令嬢の婚約を、改めて国中に示す場。
音楽が止む。
王太子が一歩、前へ出る。
誰もが、型通りの宣言を待っていた。
だが彼の視線は、ヒロインではなく――
広間の端に立つ一人の少女へ向いていた。
質素な装い。
だが、怯えはない。
むしろ、静かに胸を張っている。
王太子は高らかに言った。
「私は、真実の愛を見つけた」
ざわめき。
貴族たちの視線が一斉に動く。
ヒロインは、微動だにしない。
「慣習や義務に縛られた婚約を、ここに破棄する」
空気が凍った。
誰かが息を呑む音がした。
王太子は少女の手を取り、引き寄せる。
「彼女こそ、私が共に未来を築く相手だ」
沈黙。
祝福は起こらない。
ただ、音のない衝撃だけが広間を満たす。
国王の顔が強張る。
王妃の指先が震える。
辺境伯の眉が動く。
ヒロインは、ゆっくりと視線を上げた。
怒りも涙もない。
ただ、静かに王太子を見る。
その沈黙が、かえって重い。
王太子は続ける。
「私は新しい時代を築く。身分ではなく、心で選ぶ王となる」
少女――平民娘は、わずかに王太子を見上げる。
その目に、恐れはない。
「殿下……」
小さく、震える声を装う。
だが、握る手は強い。
彼女は知っている。
王太子は「選ぶ側」でありたいのだ。
彼の耳元で、彼女は以前こう囁いた。
――殿下は、本当は誰よりもお優しい。
――誰も理解していないだけです。
それが効いた。
王太子は理解者を欲していた。
ヒロインはその場で一礼した。
「承知いたしました」
それだけ。
泣き崩れない。
抗議しない。
その態度が、広間をさらに冷やす。
辺境伯が低く呟く。
「承知……だと」
公爵は何も言わない。
ただ娘を見つめている。
王太子は勝利したつもりだった。
「これでよい。時代は変わる」
だが、変わったのは空気だ。
祝宴の楽団は再び音を出そうとするが、誰も踊らない。
貴族たちは互いに目を合わせる。
“契約はどうなる”
“軍需は”
“融資特約は”
声には出さない。
だが計算は始まっている。
平民娘は広間を見渡す。
視線が刺さる。
軽蔑、怒り、警戒。
それでも彼女は微笑む。
ここまで来た。
彼女は何も持たない娘だった。
だが今、王太子の腕の中にいる。
「私が、王妃に……」
心の奥で呟く。
その瞬間。
ヒロインの視線と交差した。
静かで、深い目。
そこには怒りも嫉妬もない。
ただ、冷たい理解がある。
平民娘の背筋がわずかに粟立つ。
王太子は気づかない。
「父上、母上。ご理解を」
国王は返答しない。
玉座の間に響くのは、音のない亀裂。
ヒロインは再び一礼し、広間を後にする。
誰も引き止めない。
その背に、視線が集まる。
去る者は、崩れていない。
残る者が、揺れている。
王太子は高らかに言う。
「祝え。新しい未来を」
だが拍手は起こらない。
その夜。
王城の灯りは消えずに揺れ続けた。
誰も口にはしない。
だが全員が理解していた。
これは恋の宣言ではない。
国の骨格に入った、最初の亀裂だ。
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