婚約破棄?責任を取らされた王太子はホームレスになりました

鷹 綾

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第八話 視線の温度

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第八話 視線の温度

宮廷の朝は早い。

大広間での祝宴から一夜明け、平民娘は王妃教育の第一日目を迎えていた。

長机の向こうには、年配の女官長。
その背後に控える侍女たちの視線は、冷たい。

「まず、礼法の基礎から参ります」

女官長の声は穏やかだ。

だが温度はない。

平民娘は頷く。

「よろしくお願いいたします」

姿勢は整っている。
言葉遣いも昨夜より洗練されている。

だが視線が刺さる。

“なぜここにいる”

その無言の問いが、空気を重くする。

王太子は別室で側近と会議をしていた。

「祝宴の欠席者は」

「三割が事前辞退、二割が急務を理由に」

王太子は顔をしかめる。

「臆病者どもだ」

側近は慎重に言葉を選ぶ。

「殿下、宮廷入りは前例がなく……」

「前例は作るものだ」

言い切る。

だが前例は合意で作られる。

命令ではない。

回廊。

若い貴族令嬢たちが小声で囁く。

「見ました?」

「ええ。殿下の“象徴”ですって」

「象徴なら、国の重みも背負えるのかしら」

笑いは小さい。

だが鋭い。

平民娘はその視線を感じる。

彼女は深く息を吸う。

“負けない”

だが勝つとは何か。

王太子の隣に立つことか。

それとも、認められることか。

昼。

宮廷の食卓で、席順が問題になる。

平民娘の席は王太子の隣。

だが公爵家の席は空席。

ヒロインは来ていない。

代わりに送られたのは、正式な書簡。

「公爵家は当面、王都への出仕を控える」

控える。

拒絶ではない。

距離だ。

その一文が、貴族たちの背を押す。

“様子を見る”から、“距離を取る”へ。

視線の温度が下がる。

王太子は気づかない。

「彼女は私の伴侶候補だ」

堂々と言う。

誰も反論しない。

だが誰も賛同しない。

沈黙は、温度を奪う。

公爵領。

ヒロインは報告を受ける。

「宮廷内、孤立傾向」

「想定通り」

「殿下は強行姿勢を維持」

ヒロインは頷く。

「視線は、刃です」

「はい」

「刃は、まだ振り下ろされていません」

だが切っ先は向いている。

王城。

夜。

平民娘は部屋で一人になる。

鏡を見る。

豪華なドレス。
宝石。
王太子の寵愛。

だが背後に、誰もいない。

侍女は形式通りに仕える。

だが笑わない。

彼女は拳を握る。

「私は、間違っていない」

そう言い聞かせる。

だが廊下の向こうでは、貴族たちが集まっている。

「公爵が動けば」

「王太子は孤立する」

「視線は変わった」

変わったのは、空気。

祝福の温度が消えた。

王城は華やかだ。

だが冷えている。

王太子と平民娘は中央に立つ。

だが、中央は最も風が当たる場所。

視線は温度を失い、やがて圧になる。

そして圧は、崩れを生む。

まだ、誰も声を上げていない。

だが、王城の空気は確実に変わった。

恋は残っている。

だが支持は、消え始めている。
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