婚約破棄?責任を取らされた王太子はホームレスになりました

鷹 綾

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第十一話 遅延

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第十一話 遅延

王家軍の訓練場。

弓兵隊の隊長が、眉をひそめていた。

「矢羽の補充は」

副官が答える。

「半数です」

「理由は」

「契約再確認のため、最終検品が遅れていると」

最終検品。

否定はできない。

書類は整っている。

納品はある。

ただ、半分。

訓練の回数が減る。

弓兵は黙って弓を下ろす。

不満は声にならない。

だが、士気は目に見えないところで削られる。

倉庫。

兵糧の箱が積まれている。

数はある。

だが備蓄用の乾燥肉が質を落としている。

「最良品はどこへ」

「公爵領の騎士団らしい」

「王家軍が後回しか」

誰も大声で言わない。

だが、言葉は残る。

王城。

軍務官が報告する。

「軍需品の納期が不安定です」

王太子は苛立つ。

「止まっているのか」

「いえ」

「ならば問題ない」

止まっていない。

だが、十分ではない。

軍は量だけでなく、安定で動く。

平民娘は静かに聞いている。

軍の話は分からない。

だが空気は感じる。

焦り。

苛立ち。

「殿下、皆様が過敏になっているのでは」

王太子は頷く。

「公爵が揺さぶっている」

揺さぶり。

だが公爵家は契約を守っている。

守りながら、優先順位を変えている。

公爵領。

ヒロインは報告書を確認する。

「王家軍、補給遅延三件」

「契約違反ではありません」

執務官が言う。

「ええ。優先順位の調整のみ」

「騎士団の備蓄は」

「十分」

ヒロインは目を閉じる。

王家軍は名目上の中心。

だが実体は各領地。

王家は命令する。

だが命令を遂行するのは領地。

「父上」

「何だ」

「軍は王家の最後の支柱です」

公爵は頷く。

「崩せば、反発が強い」

「だから崩さない」

削る。

止めない。

不足を生む。

不足は不安を生む。

不安は信頼を削る。

王城。

兵舎から戻った騎士が呟く。

「最近、補給が安定しない」

「公爵のせいか」

「王太子のせいか」

答えは出ない。

だが疑問が生まれる。

疑問は忠誠を鈍らせる。

夜。

王太子は側近に言う。

「王命で優先供給を命じる」

側近は青ざめる。

「それは……」

「王家軍は国の柱だ」

正しい。

だが王命で契約を覆せば、線が引かれる。

平民娘は不安そうに見る。

「殿下……」

彼は彼女の手を握る。

「私は負けない」

負けるとは思っていない。

だが勝つための土台が揺れている。

公爵領。

ヒロインは静かに言う。

「王命を出せば、終わります」

「出すか」

公爵が問う。

「焦れば」

彼女は窓の外を見る。

王都へ向かう街道。

荷馬車は今日も動いている。

止まっていない。

だが軍需の流れは、確実に不安定になった。

軍は最後に動く。

だが動いたとき、最も重い。

ヒロインは小さく呟く。

「まだ、静かに」

遅延は、声を上げない。

だが、確実に効く。

王家の支柱は、見えないところから削られ始めていた。
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